ニュース
寿命を縮める「転倒」を効果的に防ぐ 60歳超では4割近くが「転倒」 食事と運動で対策
2019年06月05日
「転倒」は命にも関わる深刻な問題で、高齢者では「寝たきり」の原因にもなる。寿命を縮める「転倒」を効果的に防ぐための方法が解明されている。
高齢者の労災が増えている 60歳超では4割近くが「転倒」
転倒や骨折は高齢者の身体障害をもたらす主要な原因になっている。転倒の多くは、身体的に動作やバランス能力に支障をきたしている状態の人が、家庭や職場で障害物に遭遇したときに起きる。
家庭だけでなく、職場での転倒により労働災害につながるケースも多い。日本の人口動態調査によれば、職業生活を含めた一般生活の中で、転倒・転落で亡くなる人は交通事故で亡くなる方より多い。
働く高齢者の労働災害は増えている、厚生労働省の労働災害発生状況の報告によると、2018年に労災に遭った60歳以上の働き手は前年よりも10.7%増え、労災全体の4分の1を占めている。
なかでも目立つのが転倒事故だ。全世代では労災全体の25%が転倒によるものだが、60歳以上に限れば37.8%を占める。
関連情報
転倒災害の防止が重要課題に
筋力の低下や低栄養が転倒の原因であることが多い
要介護になるきっかけとなるのが、骨折をまねく転倒だ。年齢を重ねるとともに、視力や握力、バランス保持能力といった身体機能が低下していくにつれ、転倒事故を起こしやすくなる。
転倒は筋力の低下が要因であることが多い。高齢者の筋力の低下の主因となるのは、低栄養と運動不足だ。
低栄養は、身体を動かすために必要なエネルギーや筋肉や皮膚、内臓などをつくるタンパク質が不足した状態。食欲の低下や食事が食べにくくなるなどの理由で食事量が徐々に減ると、低栄養になりやすい。
高齢者夫婦世帯や独居世帯による孤食では、食事を簡単に済ませたり(ご飯とお味噌汁のみ、菓子パンや麺類と単品メニューなど)、肥満やコレステロールが気になり、動物性タンパク質(肉類、卵、乳製品)を控える傾向がある。
食事は1日3食しっかり食べて、1日に必要なエネルギーとタンパク質を摂取することが大切だ。
「高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017」では、腎臓の重度の機能障害がなければ、高齢者は十分なタンパク質を摂ることが勧められている。
高齢者の筋肉の量や質を保つために1.0~1.2g/kg 体重/日のタンパク質を摂ることが推奨されている。タンパク質は、全体の摂取量だけではなく、1日3食を均等に摂取した方が良い。
ウォーキングやレジスタンス運動、バランス運動で転倒を防ぐ
身体機能の低下は運動で防げる
加齢とともにあらわれる身体機能の低下は、トレーニングや日常活動のなかでの心がけで予防できる。
米国予防医療作業部会(USPSTF)は2018年、高齢者の転倒の予防のための推奨をまとめた。転倒予防のための対策として運動を推奨している。
運動や栄養を改善することで、高齢者の転倒の発生率を0.79倍に減少できるという。これは、1人につき1年あたり1.5回ほど転倒を減らすことに相当する
ウォーキングなどの運動を週3回以上6ヵ月以上続けることで、転倒をおよそ0.8倍に減らすことができるという報告がある。
USPSTFが推奨しているのは、次の3点だ――。▼ウォーキングなどの中強度の運動を週に150分以上、または高強度の運動を週75分続ける。
▼筋力トレーニングを週に2回以上行う。
▼バランス運動を週に3日以上行う。
ビタミンDは筋肉や骨の代謝で重要
また、ビタミンDは筋肉や骨の代謝で重要だ。ビタミンD不足と身体活動の低下、転倒や骨粗鬆症性の骨折との関連が報告されている。
高齢者は体内のビタミンDが不足することが多く、とくに2型糖尿病のある人ではビタミンDの不足は筋肉量の低下につながるという調査結果がある。
ビタミンDは日光を浴びることで体内に作られる。また、魚類にはビタミンDが豊富に含まれている。魚を食べることでビタミンDを十分に体内に取り入れることができる。
ただし、サプリメントでビタミンDを大量に摂取することには注意が必要だ。USPSTFは、転倒や骨折の予防のためにビタミンDやカルシウムのサプリメントを摂取することについて、「十分なエビデンスがない」という見解を発表している。
サプリメントによるビタミンDの過剰摂取は毒性をもたらす。一方で、身体が生成するビタミンD量は制限することができるため、日光への過剰曝露がもとでビタミンD中毒が発生することはない。
USPSTFは、「主治医が、状況に応じて高齢者の転倒リスクをチェックし、栄養を含め個々の患者に合わせた予防策を提示する」ことを推奨している。
2018年の労働災害発生状況(厚生労働省 2019年5月17日)転倒災害防止対策(厚生労働省)
職場のあんぜんサイト:STOP!転倒災害プロジェクト(厚生労働省)
身体的能力のセルフチェック
USPSTF Issues Final Guidance on Preventing Falls, Fractures(米国予防医療作業部会 2018年4月18日)
Interventions to Prevent Falls in Older Adults: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force(ジャーナル オブ アメリカン メディカル アソシエーション 2018年4月24日)
第62回日本糖尿病学会年次学術集会
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「記事の内容」に関するニュース
- 2019年09月04日
- 肥満予防に「ゆっくり食べる」ことが効果的 よく噛んで食べるための8つの対策
- 2019年09月04日
- 身体に優しい最適な姿勢「美ポジ」 健康寿命の延伸には腰痛対策など心身アプローチが必要
- 2019年09月04日
- 女性の認知症を防ぐために 女性ホルモンの分泌期間が短いと認知症リスクは上昇
- 2019年08月27日
- 中年期の肥満やメタボが脳の老化を10年以上早める 肥満は脳にも悪影響を及ぼす
- 2019年08月27日
- 「乳がん」の再発を防ぐ治療法の開発に道 乳がん細胞の弱点をみつける研究
- 2019年08月26日
- 肥満でなくてもカロリー制限は効果的 肥満の検査値が改善 まずは10%を減らしてみる
- 2019年08月26日
- 「不飽和脂肪酸」が肥満リスクを打ち消す 悪玉コレステロールを低下 脂肪とコレステロールをコントロール
- 2019年08月26日
- より良い睡眠をとるための秘訣は「寝る1~2時間前の入浴」
- 2019年08月20日
- 米を中心にした食事はメリットが多い 食べ過ぎると肥満や糖尿病のリスクが上昇
- 2019年08月20日
- 「ワークライフバランス」の改善の効果 生活満足度は女性より男性で改善 34ヵ国を比較