ニュース
認知症患者を介護する家族は睡眠不足になりやすい 睡眠は保健指導で改善できる
2019年09月10日

認知症患者の介護者は、睡眠時間を確保するのが難しくなり、睡眠時間を週に2.5~3.5時間失っているという調査結果が発表された。一方で良い知らせもあり、シンプルで低コストの介入により、介護者の睡眠の時間と質を改善できることも明らかになった。
認知症患者の介護者は睡眠時間を週に2.5~3.5時間失っている
米国のベイラー大学が、認知症患者の介護者の睡眠の時間と質について調べた35件の研究をもとに、3,268人の介護者を対象とした解析結果を発表した。
世界保健機関(WHO)によると、世界の5,000万人が認知症で、年間に1,000万人が新たに認知症を発症しており、有病者数は2050年までに1億3,100万人に増加すると予想されている。
認知症を発症すると、多くの患者に食事、入浴、身づくろい、失禁、記憶喪失などの障害があらわれ、患者は自立的な生活をおくるのが困難になる。
アルツハイマー病協会によると、認知症患者を介護している家族などの介護者は、週に平均21.9時間を介護に費やしている。これは、無償のハードな仕事を人生に課しているかのようだという。
認知症の介護には、多くのストレスや苦労、苦痛がともなう。これに加え毎週3.5時間の睡眠を失うことは、介護者の精神的および肉体的なダメージをもらたすおそれがある。
しかし、「低コストの行動介入により、介護者の睡眠の質を改善でき、生活の内容や質を大幅に改善することが分かりました」と、ベイラー大学の心理・神経科学部のチェンル ガオ氏は言う。
適切なケアで睡眠の質が大きく改善
研究チームが、認知症や介護などに関連する35件の論文を分析した結果、介護をしているグループ(3,268人、平均年齢63.48歳、女性76.7%)では、同年代で家族の介護をしていないグループ(696人)に比べて、睡眠時間が週に2.42~3.50時間短く、睡眠の質も明らかに低いことが明らかになった。
「介護者は世界でもっとも献身的で多忙な人たちだと言えますが、睡眠不足は介護者の生活の質を損ねる原因になるだけでなく、介護の質の低下にもつながります」と、睡眠・神経科学研究所のディレクターのマイケル スカリン氏は言う。
睡眠不足が続くと注意力が散漫になり、投薬量を間違えたり、感情的に過剰に反応してしまうおそれがある。
その一方で、睡眠に関するケアを受けた介護者は、受けていない介護者に比べて睡眠の質が改善していたことも分かった。
就寝時間を毎日規則正しく調整し、なるべくリラックスするようにし、朝に日光を浴びたり、適度な運動を行うというシンプルな介入により、介護者の睡眠を顕著に改善できるという。
「睡眠は行動変容を通じて改善することができます」と、ガオ氏は強調している。
介護者の生活の質が低下するのを防ぐ
一般に、年齢が高くなると若い時よりも睡眠時間は短くなる傾向があり、また介護者は睡眠時間を短く申告している可能性がある。そうした影響を差し引いても、介護者の多くが十分な睡眠時間をとられていないことは明らかだという。
認知症患者の夜間の覚醒や徘徊などは、介護者の睡眠障害の一因となっている可能性がある。慢性的なストレスは、睡眠の時間と質に悪影響をもたらすと、研究者は指摘している。
さらにストレスに対する不健康な反応が、アルコール摂取量の増加や運動量の減少などにつながり、良い睡眠をとれなくなっている可能性がある。
介護は前向きで豊かな経験であるという「エンパワーメント」にもとづく見解がある一方で、介護には大きなストレスがかかり、未来を予測しにくいため、介護者の生活の質が低下するのをできるだけ防ぐべきだとする「環境ストレッサー」にもとづく見解がある。
「質の悪い睡眠が長期的かつ潜在的に累積すると、潜在的に健康に悪影響をもたらします。世界中で認知症の介護者のニーズが高まっており、医療スタッフは患者だけでなく、介護をしている配偶者や子供などの家族に対しても介入をして、睡眠を改善するためのケアを提供することが必要です」と、ガオ氏は指摘している。
Caregivers of People with Dementia Are Losing Sleep(ベイラー大学 2019年8月23日)Sleep Duration and Sleep Quality in Caregivers of Patients With Dementia(JAMA 2019年8月23日)
認知症(世界保健機関 2019年5月14日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2023 SOSHINSHA All Rights Reserved.

「保健指導リソースガイド」に関するニュース
- 2022年10月20日
- がんと仕事に関する意識調査〜診断当初の不安は軽減し仕事の継続へ
- 2022年09月21日
-
がん検診受診率の目標を60%へ
職域のがん検診受診「個人単位」での把握検討を―「がん検診のあり方検討会」より - 2022年09月12日
- 【募集終了】日本産業保健師会「新任期産業保健師養成研修」および「産業保健師リーダー養成研修」開催について
- 2022年09月07日
-
【抽選でAmazonギフト500円プレゼント!】
保健指導リソースガイドご利用者様向けアンケート - 2022年08月04日
-
【専門職の皆さまへ】地域・職域で実践できる飲酒・生活習慣改善指導!
「DASHプログラム」特設ページ開設のおしらせ - 2022年07月11日
- 乳がんのマンモグラフィ検診 女性の半数は偽陽性を10年間で1回は経験 実はほとんどは陰性
- 2022年07月05日
- ウクライナの糖尿病患者さんへの支援に対する御礼(IFL本部)
- 2022年06月23日
- 【オピニオン公開中】高齢者の特性に配慮した「エイジフレンドリー職場」を目指して
- 2022年05月12日
- ウクライナの糖尿病患者さんへの支援について IFLレポート
- 2022年04月27日
- IFLオーストラリア ウクライナの糖尿病患者さんへの支援について(5)
最新ニュース
- 2023年02月07日
- 【新型コロナ】マスク着用によりインフルエンザも減った 人の多い所を避けることにも効果が
- 2023年02月07日
- 高齢者のフレイル予防のウォーキングは1日に何歩が必要? 高齢者の運動量の最適値を明らかに
- 2023年02月06日
- 「ガーデニング」で肥満・メタボを改善 野菜を食べられ運動にもなる メンタルヘルスも向上
- 2023年02月06日
- 運動に認知症の予防効果が 仲間とともに行う運動はより効果が高い 運動と社会交流を両立
- 2023年02月06日
- 肥満者向けの減量プログラムにお金を支給するインセンティブを付けると成功率は大幅に向上