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住環境から化学物質をなくすとリラックス効果を高められる 住まいの空気環境を改善し「シックハウス症候群」を予防
2021年11月16日

室内の化学物質の濃度を低減させることで、シックハウス症候群の予防だけでなく、休息時のリラックス効果を高める効果を得られることが、千葉大学の研究で明らかになった。
169人を対象とした脳波測定実験により、化学物質濃度が低い室内環境では、休息時のリラックス状態が向上する効果があることを実証した。
空気環境の改善が健康にも影響 シックハウス症候群を予防
シックハウス症候群は、室内に多くの汚染物質があり、それらを吸い込んだりすることで「鼻のムズムズ・鼻水」「頭痛」「のどの乾燥」「目のチカチカ」など、さまざまな健康障害が起こることをいう。室内の空気環境を悪化させる原因として、ダニアレルゲン、ハウスダスト、カビ、細菌、化学物質などがある。
症状の重さや頻度は人によって異なり、外気にふれると症状が緩和することもあり、そのまま見過ごしてしまうケースも多いが、アレルギー疾患増悪との関連を示す報告もあり注目されている。
室内の化学物質濃度を低減させることは、シックハウス症候群の発症を予防する方法のひとつとして報告されているが、これを低減させ空気環境を向上すると、生活者の日常的な作業効率や休息にどう影響するかはよく分かっていない。住環境の改善と健康の維持・増進の関連についての解明が求められている。
そこで千葉大学の研究グループは、空気環境を改善することが、化学物質に敏感で悩みをもつ人々だけでなく、一般的にも健康に良い影響をもたらす可能性があると考え、住環境の向上と健康の関係を調査した。今回の研究は、感性や印象だけでは評価しにくいリラックス状況を脳波測定によって定量的に解明した。
リラックス状況を脳波測定によって定量化
具体的には、内外装の見た目や環境が同等で化学物質濃度だけが異なる2棟の実験住宅棟で、さまざまな年齢や性別の計169人を対象とした90分間の滞在実験を実施した。
部屋には被験者のみで、快適に過ごせる実験環境下で実施。滞在中には、20分間の作業(計算や暗記課題)と10分間の休息(目を閉じて安静にする)時間を設けて、脳波を測定した。その他の60分間は、自由にくつろいでもらいながら、臭気の強さや好み、空気環境に対する印象や快適性などのアンケートに回答してもらった。
なお、被験者には環境の違いを知らせずに行う「ブラインドテスト」で実施し、事前に年齢や性別、体温、血圧、アレルギー反応、ストレス状況なども測定・調査した。休息時のリラックス状況は、個人差や多様な環境条件を考慮して解析した。
室内の化学物質が少ないと「リラックスでき快適」 リラックス脳波も1.6倍に増加
その結果、「室内のにおい」について、化学物質濃度が極めて低いと、85.9%の人が「においが気にならない」と評価した。その割合は、一般的な住環境に比べて1.7倍多かった。
「空気環境の満足度」については、化学物質濃度が極めて低いと「空気環境が満足である」と73.2%の人が評価。その割合は、一般的な住環境に比べて1.4倍多かった。
「リラックス快適性」については、化学物質濃度が極めて低いと「リラックスでき快適」と76.0%の人が評価。その割合は、一般的な住環境に比べて1.2倍多かった。
作業後の休息時には、リラックス状態を示す脳波であるα波が増加する。α波の割合は、一般的な住環境に比べて化学物質低濃度空間では1.6倍多かった。
住まいの空気環境の向上による健康増進効果を実証
化学物質濃度の低減は休息時のリラックス効果を高める
化学物質濃度の低減は休息時のリラックス効果を高める

出典:千葉大学予防医学センター、2021年
多様な働き方や生活スタイルの変化により住環境のあり方は変化している
研究は、千葉大学予防医学センターの中山誠健特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。
昨今の新型コロナの拡大の影響もあり、多様な働き方や生活スタイルの変化により、住環境のあり方は変わってきている。
「住環境の空気環境と健康の関係について、身体的な影響だけでなく精神的な影響(メンタルヘルス)の観点から、継続的な調査・分析を続けていく予定です」と、研究グループでは述べている。
研究は、積水ハウスと日本学術振興会、科学研究費助成事業の基盤Cおよび若手、JST OPERAのサポートを受けているが、データ解析、論文執筆に関して一切の関与はないとしている。
千葉大学予防医学センターAssessment of Personal Relaxation in Indoor-Air Environments: Study in Real Full-Scale Laboratory Houses(International Journal of Environmental Research and Public Health September 2021年9月29日)
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