隠れた脂肪の蓄積が心臓の老化を加速させる
腸の周りや肝臓、筋肉などに溜まった脂肪が心臓の老化を速めるとする、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のDeclan O'Regan氏らの研究結果が、「European Heart Journal」に8月22日掲載された。
異所性脂肪と呼ばれるそれらの脂肪の蓄積は体型からは判別しにくく、たとえ体重は健康的とされる範囲であっても、そのような脂肪が蓄積していることがあるという。
一方、全身の脂肪蓄積の分布とその影響には性差があり、論文の上席著者であるO'Regan氏は、「ある種の脂肪、特に女性の腰や太ももの周りの脂肪は、老化を抑制する可能性がある」と述べている。
この研究では、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者2万1,241人のデータが用いられた。
MRI画像データから、血管や心臓の機能などに関連のある126種類の指標を特定し、機械学習により参加者それぞれの心臓年齢を算出。実際の年齢との差を割り出した上で、さまざまな部位に蓄積している脂肪の量との関連を検討した。
すると、内臓脂肪などの異所性脂肪が多いほど、実際の年齢と心臓年齢との乖離が大きいことが明らかになった。
O'Regan氏は今回の研究結果を、「健康な人でも隠れた脂肪が有害となり得ることが分かった」と総括している。
研究結果を詳しく見ると、内臓脂肪の量は、実際の年齢と心臓年齢との乖離の大きさと有意な関連があった(β=0.656〔95%信頼区間0.537〜0.775〕)。また、筋肉に浸潤している脂肪の量(β=0.183〔同0.122〜0.244〕)や肝臓内の脂肪の量(β=1.066〔0.835〜1.298〕)も、同様の関連が認められた。
さらに、血液検査の結果と照らし合わせて解析すると、内臓脂肪の蓄積は全身の炎症と関連があり、そのことが心臓の老化を速めている可能性が示唆された。
一方、脂肪の分布と心臓年齢との関連に、男性と女性の間で差が存在することも示唆された。
例えば男性では、いわゆる"リンゴ型肥満"と呼ばれるようなお腹周りへの脂肪の分布が、心臓の老化と強く関連していた。その一方で女性では、"洋ナシ型肥満"と呼ばれるような腰や太ももへの脂肪の分布が、心臓の老化を防ぐような関連が見られた。
研究者によると、腰や太ももへの脂肪蓄積は女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量と関連しており、エストロゲンは女性の心臓の老化を防ぐように働くという。
「脂肪の分布の違いによって、リンゴ型肥満と洋ナシ型肥満に分類され、健康への影響が異なることは以前から知られていたが、なぜその差が生じるのかは、これまで明らかでない点があった」とO'Regan氏は語っている。
この研究からはまた、身長と体重に基づき算出され、肥満や痩せを判定する指標として広く用いられているBMIが、心臓の健康状態を推測する指標としては十分に機能しないことも示された。
O'Regan氏は、「BMIでは体のどの部分に脂肪が蓄積しているかを知ることができない。しかしわれわれの研究は、それを知ることの重要性を示している」と強調している。
なお、同氏らの研究グループでは今後、GLP-1受容体作動薬を用いた減量が、内臓脂肪の蓄積や心臓の健康に及ぼす影響を調査することを計画している。
(HealthDay News 2025年8月25日)
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