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治療と仕事の両立支援が新段階へ ガイドラインから法的指針へ移行

 厚生労働省は8月、「治療と仕事の両立支援指針作成検討会」の初会合を開き、議論をスタートさせた。

 これまでガイドラインとして示されてきたものを、令和8年度からは労働施策総合推進法に基づく「事業主の努力義務」として格上げする。法的枠組みの整備により、両立支援は企業任せの自主的取組から、事業者の基本的責務として位置づけられる。

働きながら治療を続ける人の増加と課題

 日本ではがんや脳血管疾患、心疾患、糖尿病といった生活習慣病を抱えながら働く人が増えている。医療の進歩に加え、働く人の年齢が上がってきたことが背景にあり、治療を続けながら働き続けることが可能になったが、依然として休職や離職を余儀なくされるケースも少なくない。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(令和4年)によると、何らかの疾患で通院している就業者は約4割に達しており、その割合は増加傾向にある。
 一方で、病気を理由に退職した人をみてみると、4人に1人は、最初の治療が開始されるまでに退職しており、早期からの両立支援介入も大きな課題である。

出典:「治療と仕事の両立支援指針作成検討会 第1回資料」資料2 P.27(厚生労働省・2025年8月8日)

ガイドラインの普及と残された壁

 平成28年2月に公表された現行の「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」は、がんや脳血管疾患、心疾患、肝炎、糖尿病、難病等の疾患を対象に、事業場における具体的な支援体制の構築方法を示してきた。

 このガイドラインは社会情勢の変化などに合わせて改訂を重ね、現在では「トライアングル型支援体制」として知られるようになった。
 両立支援コーディネーターが、働く人(患者)に寄り添いながら、継続的に相談支援を行い、主治医・企業・産業医と連携・調整を図り、治療と仕事の両立プラン作成などの支援を進めていく仕組みで、一定の成果を上げてきた。

 しかし、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の最新調査などでは、両立支援の現場において依然として課題が残されていることが明らかになっている。
 たとえば「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の認知度をみても、中小企業は低く、支援体制が整っていない事業場も多いことが実情だ。

出典:「治療と仕事の両立支援指針作成検討会 第1回資料」資料2 P.21(厚生労働省・2025年8月8日)

 企業規模による取組格差、医療機関との連携不足、労働者の相談のしにくさなど多くの課題が指摘されており、より実効性のある制度的枠組みの必要性が高まっていた。

 現行のガイドラインは任意の取組を促すものに留まっているため、事業者の対応にばらつきが生じやすく、特に中小企業では十分な支援体制の構築が困難な場合が多い。産業保健スタッフの関与についても、企業によって大きな差があるのが現状である。

努力義務化で広がる制度の実効性

 今年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法では、事業主に対し「職場における治療と仕事の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務を課すとともに、当該措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備すること」が規定された。
 令和8年4月の施行を予定しており、その具体的な内容を示すのが今回の検討会で議論が開始された「指針」である。

 ガイドラインではなく、法的根拠を持つ指針となることで、事業者の取組が明確化され、労働基準監督署の指導対象となることも想定される。これにより、自主的な取組に委ねられていた両立支援が、事業者の基本的な責務として位置づけられることになる。

 産業医はもちろん、産業保健師や看護師は、職場での支援計画の策定・実行・評価などの中心的役割を果たすことが期待される。また、医療機関との連携や、休職者の復職支援、情報共有の手順などが明確化されることで、より体系的・継続的な支援が可能となるだろう。

 一方、制度を単に導入するだけではなく、働く人が安心して制度を活用できるよう、職場の理解を深める啓発や相談しやすい環境整備が必要である。
 両立支援は「特別な配慮」ではなく、誰もが利用できる仕組みであることを浸透させることが求められる。こうした職場環境づくりが早期の離職への対応にもつながっていく。

検討会が示した指針の骨子

 検討会は、既存のガイドラインを踏まえつつ、法的根拠を持つ新たな指針にふさわしい内容へと整理する予定だ。
 特にガイドラインに記載されていない「産業医と主治医の間における効果的な情報交換の在り方」と「病気休職中の労働者からの相談窓口を明確にする等の職場復帰に向けた支援の在り方」を追記するとしている。

 第1回検討会で提示された指針の骨子案は以下の通りである。以降、指針案をもとに議論を重ね、今年度内に取りまとめ、告示する方針だ(第2回検討会は9月26日に開催)。

出典:「治療と仕事の両立支援指針作成検討会 第1回資料」資料2 P.10(厚生労働省・2025年8月8日)

参考資料

治療と仕事の両立支援指針作成検討会 第1回資料|厚生労働省
治療と仕事の両立について|厚生労働省
治療しながら働く人を応援する情報ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」|厚生労働省
国民生活基礎調査|厚生労働省
事業場における治療と仕事の 両立支援のためのガイドライン(令和6年3月版)|厚生労働省

[保健指導リソースガイド編集部]
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