【厚労省】長時間労働監督指導の結果公表 違反率8割・4割超で違法残業
厚生労働省は7月30日、令和6年度に長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめ、公表した。
対象となった事業場の8割以上で法令違反が確認され、そのうち違法な時間外労働があったものは42.4%に及んだ。
違法残業は全体の4割超
令和6年度の監督指導は、長時間労働が疑われる26,512事業場を対象に実施された。
本指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象としている。
その結果、法令違反が確認されたのは21,495事業場(81.1%)で、5社に4社が労働基準関連法令に違反していた。
さらに、監督指導対象の42.4%にあたる11,230事業場で違法な時間外労働が認められ、是正勧告・指導が行われた。およそ約2.4社に1社が法定上限を超える残業を行っていた計算になる。
そのほか賃金不払残業は2,118事業場(8.0%)で確認され、過重労働による健康障害防止措置が未実施だった事業場は5,691事業場(21.5%)に上った。
これらの数値は、労働時間管理の不適切さが、単に労働時間を超えるだけでなく、賃金未払いや健康管理体制の不備といった複合的な問題を引き起こしていることを示唆している。
出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する 令和6年度の監督指導結果を公表します」P.2(2025年7月30日)
過労死ライン超え労働が5,000件以上
特に注目すべきは、時間外・休日労働時間が月80時間を超えていた事業場が5,464件にも上った点である。
さらに月100時間超は3,191事業場、月150時間超は653事業場、そして124事業場では月200時間を超える極めて危険な長時間労働が行われていた。
過労死ライン(月80時間)を大きく超える労働は、脳・心臓疾患や精神障害のリスクを著しく高める。これらの数値は単なる統計ではなく、労働者の生命に直結する重大な警告として受け止める必要がある。
中小企業に集中するリスクと課題
監督指導が実施された事業場を規模別にみると、従業員「10~29名」の事業場が41.7%で最も多い。次点は「1~9人」となっており、小規模事業場に課題が集中しているように見える。
しかし、従業員数300人以上の「事業場」への監督指導の割合が少ない一方で、「企業」規模別にみると300人以上の企業が23.9%と2番目に多く、10~29人規模の26.2%に次いでいた点も見逃せない。
それ以外の従業員規模の企業でも一定の割合で監督指導が実施されており、企業としてみれば、規模にかかわらず長時間労働の問題を抱えていることが明らかになった。
出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する 令和6年度の監督指導結果を公表します」P.2(2025年7月30日)
長時間労働の構造問題
過重労働による健康障害防止のための監督指導は、全体の約5割にあたる12,890事業場で実施された。
指導内容では、長時間労働者に対する面接指導の未実施、管理体制の不備、ストレスチェック未実施が目立った。
出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する 令和6年度の監督指導結果を公表します」P.3(2025年7月30日)
過重労働のリスクは企業規模に関係なく存在するが、特に中小企業においては、業務量の多さに対する人手不足、管理監督者のマネジメント不足、そしてデジタル化やIT化の遅れによる非効率な業務プロセスなど、長時間労働が発生する構造的な問題があることも浮かび上がってくる。
また、従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務や衛生委員会の設置義務がなく、労働時間管理や健康管理体制が不十分になりやすい。こうした中小企業特有の条件が問題を深刻化させている可能性がある。
* * *
厚労省は今後も長時間労働の是正に向けた取組を進めるとともに、11月の「過重労働解消キャンペーン」期間中に重点的な監督指導を実施するとしている。
令和6年度の監督指導結果は、過重労働対策が依然として道半ばであることを示している。事業場や企業には、この結果を自社の健康課題を見直す機会と捉え、本キャンペーンなどを活用して戦略的に産業保健活動を展開し、よりよい労働環境の整備を進めることが期待される。
参考資料
長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
【報道発表資料】長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
時間外労働の上限規制|厚生労働省「働き方改革 特設サイト」


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