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東証プライム企業の人的資本開示を分析 育休取得率・女性管理職比率に改善、健康経営とDXがカギ

 公益財団法人 日本生産性本部は8月1日、2025年3月末決算の東証プライム上場企業1,104社を対象にした「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版)を公表した。

 男性育児休業取得率60%以上の企業は全体の62.9%と大幅に増加し、女性管理職比率も平均9.1%へと改善。さらに、健康経営やDX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的な企業ほど、男女間賃金格差が小さい傾向が確認された。

人的資本の開示が加速、企業の取組状況が明らかに

 近年、従業員一人ひとりが持つスキルや知識、経験といった能力を、企業にとっての資本(資産)として捉え、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」に注目が集まっている。
 内閣府令により、2023年3月末以降の有価証券報告書では、人的資本(人材育成方針・社内環境整備方針)や多様性(男女間賃金格差・女性管理職比率・男性育児休業取得率)に関する情報開示が義務化され、企業価値の評価指標としても重視されている。

 今回の調査は、日本生産性本部が東証プライム企業1,104社の開示内容から人的資本・多様性に関する記載を集計したもので、事業創造大学院大学の一守 靖教授と浅野浩美教授が監修・分析指導を行った。2023年から始まり、今回で3回目となる。

女性管理職比率は改善も依然低水準

 女性管理職比率が5%未満の企業は40.6%となり、昨年の46.0%、一昨年の48.2%から着実に減少している。10%未満の企業は67.6%で、平均比率は9.1%に上昇した。
 しかしOECD加盟国と比較すると依然最低水準であり、政府が『女性版骨太の方針2023』で掲げる「2030年までに30%以上」という目標には大きな隔たりがある。

 経済産業省は、女性特有の健康課題による労働損失等の経済損失を年間約3.4兆円と推計している。女性を管理職に登用することは、ダイバーシティの観点で重要であり、職場における健康課題への理解や対応の強化にも寄与する可能性が高い。
 女性従業員の健康課題に取り組むことが、登用推進や人的資本価値向上にも直結する点に注目したい。

男性育休取得率、過去最高の6割超に

 最も顕著な成果は、男性育児休業取得率の伸びだ。取得率が「60%以上」の企業は全体の62.9%に達し、一昨年の33.5%、昨年の48.8%から大幅に増加した。
 この変化は、性別役割分担の見直しとワーク・ライフ・バランスの実現に向けた環境整備の進展を示している。

 背景には、厚生労働省による育休取得率公表義務化の対象拡大(2025年4月からは従業員300人超1,000人以下の企業にも義務化)があるとみられる。今後さらに取得率が上昇する可能性が高い。
 産業保健の現場では、復職後のストレス対策や、育児と仕事の両立支援が課題になる。ストレスチェックや面談で早期にフォローする仕組みづくりが重要だ。

出典:「2025年3月末決算東証プライム企業「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版) 概要」P.7
(日本生産性本部・2025年8月1日)

健康経営×DXが格差縮小の推進力に

 今回の調査では、人的資本経営に関連する用語の記載状況も分析されている。「人材育成」への言及が98.0%、「ダイバーシティ」96.4%に対し、「健康経営」は66.0%、「DX」は43.3%だった。

 調査では「健康経営」「DX」について言及している企業とそうでない企業における、3つの人的資本指標(女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金格差)との相関を分析しており、これら2つに言及している企業の方が、男性育児休業取得率が高いことがわかった。
 また「DX」に関しては、男女間賃金格差が小さい傾向も確認された。

出典:「2025年3月末決算東証プライム企業「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版) 概要」P.16
(日本生産性本部・2025年8月1日)

 健康経営が「従業員を大切にする文化」を育み、DXがそれを支える仕組みを提供する。両者が補完し合うことで、人的資本の強化が加速する点は産業保健活動にも直結する。

産業保健スタッフが果たす役割とは

 今回の調査対象は大企業が中心であり、比較的「優良事例」が多い。
 しかし、企業ごとに文化や規模が異なる以上、求められる対応は一様ではない。産業保健スタッフは、経営層や関連部門と連携しながら、自社に適した現実的なアプローチを提案する役割を担えるだろう。「健康データを活用したDX施策との連携」などの取り組みは、人的資本経営の実現において大きな力となる。

 産業保健の専門性を活かした働きかけが、今後ますます求められる。

参考資料

2025年3月末決算企業の有価証券報告書「人的資本開示」状況(速報版) | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人 日本生産性本部
【プレスリリース】2025年3月末決算企業の有価証券報告書「人的資本開示」状況(速報版) 男性育休取得率60%以上が大幅増、「DX推進企業」ほど男女間賃金格差小さく|公益財団法人 日本生産性本部
2025年3月末決算東証プライム企業「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版) 概要|公益財団法人 日本生産性本部
女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について|経済産業省ヘルスケア産業課
2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が従業員が300人超1,000人以下の企業にも義務化されます|厚生労働省 都道府県労働局


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