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震災から時間が経ってからの「新たな社会的孤立」に陥る要因を分析-岩手医科大学らの研究チーム

 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM:機構長 丹野高三)と、IMM臨床研究・疫学研究部門の事崎由佳講師を中心とした研究チームはこのほど、東日本大震災の被災地域住民を調査したデータを分析し、震災から年月が経過しても社会的孤立が新たに生じる可能性や、その背景には性別や震災被害の状況の違いが関与していることを明らかにした。

 今回の結果により、被災地支援は災害後の個々の状況や複合的な生活要因を踏まえて行う必要性が示唆された。

男女差が認められた要因も

 社会的孤立とは、他者との交流やつながりが乏しく、社会から切り離された状態を指し、特に男性や一人暮らしの人などがなりやすいと報告されている。大規模地震などの自然災害が起きた際にも生活環境の変化により、被災住民が社会的孤立に陥りやすくなる可能性がある。

 一方、研究チームでは「自然災害のようなトラウマ的な大規模な出来事が、新たな社会的孤立の発生にどのように影響するのか、また、その影響が性別や災害による被害状況によって異なるのかについては、これまでほとんど検討されていなかった」と指摘。

 東日本大震災後の新たな社会的孤立に関係する要因を明らかにするため、岩手県内の被災住民を対象にした地域住民コホート調査のうち、2013―2015年度(1回目)と2017―2019年度(2回目)の両方に参加し、1回目の調査時点で社会的孤立がなかった1万2795人のデータを用いて検討した。

 分析は2回目の調査結果から「孤立していない群」と「新たに社会的に孤立した群」の2つに分類し、男女別に実施しその特徴や関連する要因を調べた。

 その結果、新たに孤立に陥った人々には「高齢であること」「運動習慣なし」「抑うつ症状あり」「地域とのつながりが乏しい」「低年収」といった男女共通のリスク要因が見られた。一方、喫煙習慣や不眠症状と社会的孤立との関連には男女差が認められた。

ひとりひとりに適切な健康支援を

 喫煙習慣については、「男性は現在喫煙している者の方が孤立しない」「女性は現在喫煙している者の方が孤立しやすい」という傾向がみられたが、研究チームは「男性は喫煙すると孤立しない」「女性は喫煙すると孤立する」という因果関係を意味するものではない、と強調。

 喫煙と社会的孤立との関連には年齢や性別、就労状況や家庭環境といったさまざまな社会的要因が影響するため、「喫煙が社会的孤立を防ぐと解釈することはできず、健康リスクを踏まえた注意が必要」としている。

 一方、新たな社会的孤立のリスクは、不眠症状がある人においては男性が1.49倍、女性が1.15倍高まるという結果になり、不眠は男性の方が強く影響することがわかった。

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出典:岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 「震災後の"新たな社会的孤立"に関係する要因とは?―大規模コホート調査が示すリスクと対策―」(2025年8月20日)

 また災害によって「家屋被害を受けた」「家族の死の経験がある」人で、一人暮らしや運動習慣がない、不眠症状がある、といったリスク要因を抱える場合は、震災から時間が経っても新たな社会的孤立に陥る可能性も示唆。

 「社会的孤立のリスク要因が性別や被災状況によって異なることを踏まえ、より効果的かつ公平な支援を実現するために、個別性に応じたきめ細やかな介入が必要」としたうえで、「喫煙などの生活習慣については、表面的な相関にとどまらず、背景にある要因を多角的に評価したうえで、適切な健康支援につなげることが重要」と結んだ。

 政府も孤独や孤立を社会全体の課題として位置づけ、内閣府が中心となって総合的な対策を推進。「孤独・孤立対策」についてホームページで情報発信しており、支援策や相談窓口などの詳細を確認することができる。

 こうした政策的な取り組みと研究成果をあわせて活用することが、災害後の中長期的な孤立予防や地域支援の充実につながると期待される。

震災後の"新たな社会的孤立"に関係する要因とは?―大規模コホート調査が示すリスクと対策―(岩手医科大学)
「孤独・孤立対策」(内閣府)
[yoshioka]
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