「賃貸・集合住宅」の居住者は循環器疾患死亡のリスクが高い傾向に 東京科学大学
東京科学大学の研究チームがこのほど、健康長寿を目的とした大規模疫学調査のデータと厚生労働省の死因データを分析。
「賃貸で集合住宅」に住む人は「持家で集合住宅」の居住者に比べ、循環器疾患による死亡リスクが高い傾向にあることを明らかにした。
循環器疾患による累積死亡率は「持家・集合住宅」が最も低い
住環境がもたらす健康への影響について近年、注目が集まっており、2018年、世界保健機関(WHO)は「住宅と健康に関するガイドライン」を発表している。
これは住環境による健康被害を減らすために、最新のエビデンスを総合し、実践的な推奨事項を示したもの。この中で、暖房が不十分で、室内を暖めることが難しい住宅では、呼吸器や循環器の健康に悪影響を及ぼす、などと指摘されている。
しかし、これまでは住宅の短期的な健康影響に関する研究が多く、長期的な視点での研究は限られていた。そのため研究チームは、複数年にわたる健康長寿を目的とした大規模な疫学調査のデータと、市町村と厚生労働省が保有する死因データを結合し、循環器疾患に起因する累積死亡率を住宅の種別に比較した。研究に用いたのは、日本老年学的評価研究機構(JAGES)による65歳以上の高齢者・3万8731人を対象に行った、2012年1月1日から2017年12月31日までの6年間の追跡調査データ。この研究に参加した人の住まいを「持家・戸建住宅」「持家・集合住宅」「賃貸・戸建住宅」「賃貸・集合住宅」に分類し、循環器疾患による累積死亡率を比較した。
その結果、循環器疾患による累積死亡率は「持家・集合住宅」が最も低く、「持家・戸建住宅」「賃貸・集合住宅」の順に高くなる傾向が見られた。なお「賃貸・戸建」はサンプル数が少ないため対象外となった。また住宅種別による死亡リスクの差は、女性より男性の方が顕著だった。
研究チームは「賃貸住宅における高い死亡リスクは、一般に持家と比較して賃貸の住宅性能(断熱性能等)が低いことが一因と考えられる」と指摘。背景には、賃貸住宅のオーナーが、建築・設備等への投資コストを抑えることを優先し、断熱性能や省エネ設備等への投資に対して消極的になりがちな問題があるという(「スプリット・インセンティブ」と呼ばれる)。
そのため「賃貸住宅オーナーによる住宅性能向上のための投資を促す仕組みづくりが重要と考えられる」と強調している。
一方、持家でも、戸建住宅の方が集合住宅に比べてリスクが高かった点については、戸建住宅は屋外環境の影響を受けやすく、循環器疾患のリスク要因である温熱環境の質が低下しやすい、と指摘。「適切に管理されている集合住宅に比べ死亡リスクが高くなったものと考えられる」としている。
今回は「戸建か集合住宅か」「持家か賃貸か」という建物タイプと所有形態の組み合わせをもとに循環器疾患死亡への影響が示された。今後、さらなる研究が進められ、疾病の予防、健康長寿の実現につながる、客観的な住宅環境基準の確立が期待される。
賃貸・集合住宅の居住者は循環器疾患死亡のリスクが高い(東京科学大学)
WHO Housing and health guidelines(世界保健機関/WHO)
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