オピニオン/保健指導あれこれ
「外国人小児の発達の遅れ・発達障害に関する早期発見・早期支援モデルの構築」の研究を通してわかったこと

No.1「日本で暮らす外国にルーツを持つ子ども・子育て支援サイト」の開設に至るまで

福岡国際医療福祉大学 看護学部看護学科 准教授
森山 ますみ

研究のきっかけ

 こんにちは。森山です。私は、大学で災害看護・国際看護を教えています。青年海外協力、JICA専門家としての国際協力活動に従事した後、国際看護活動の実践力を高めるために聖路加国際大学大学院(2005~2012年)で学びました。そこで出会ったのが外国人集住自治体で働く保健師さんです。

 2013年夏の同窓会で久しぶりにあったその友人が「外国人の子どもが増え、乳幼児健診で、言語環境によるものか、発達障害なのか、見極めるが難しい」と話してくれました。国際保健・看護の分野で、在留外国人の健康、その支援が課題として大きくなり始めている頃でした。

 困っている現場の保健師さんたちのために、研究者である私は何ができるのだろうと考えました。いろいろな文献を通して、外国人は20年間で6割増加し、2012年には203万人と200万人台へ突入し、外国籍の母の出生数は毎年1万を超えていることが分かりました。

 軽度発達障害児の発生頻度が8.2~9.3%(※1) であることから、外国籍の母から生まれた子どもの各年齢で1,000人近くの軽度発達障害児がいることが推測されました。この子どもたちを早期に見つけ、必要なサービスにつなげるための解決策を見出したいと考えました。

 2013年秋「外国人小児の発達の遅れ・発達障害に関する早期発見・早期支援モデルの構築」のタイトルで、科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究に応募し、2014年に採択され、研究に取り組みました。

研究での取り組み

 研究のタイトルは「外国人の母親を有する小児(以下、外国人小児)の発達の遅れと発達障害に関する早期発見・早期支援モデルの構築」です。研究で外国人小児の発達の遅れ・発達障害の発見・支援に関する実態調査、外国人母を対象にした小児の発達に関する意識の調査に取り組みました。

 保健師さんたちがどのように発達の遅れや発達障害を有する外国人乳幼児を発見し、支援につないでいるかの現状と課題を明らかにすることを目的し、保健師センターで働く10名の方々にインタビューさせていただきました。保健師さんたちが認知する外国人乳幼児の発達の遅れや発達障害の発見および支援のプロセス、対応における困難、今後必要な支援・体制について知ることができました。

 そして、そのプロセスにおける保健師のコンピテンシーは、外国人小児・家族の持つ力を信じ、成長できるように支援することを目標に、以下であることがわかりました。保健師さんたちの使命感を持った熱心なアプローチに感動しました。

■外国人の特性・個別性を考慮する能力
■多言語の環境を考慮した外国人小児や家族の精神・言語発達の到達度を測る力
■外国人小児・家族のニーズや介入機会を捉え支援につなげる力
■外国人小児が言語・精神発達しやすい家庭環境を促進する力
■外国人家族が利用可能なコミュニティや情報にアクセスできるよう勧める力
■支援者それぞれの役割を果たしながら支援者を結びつける力
■言語が理解できる人を活用しながら、言語の不自由さを補足する力

 次に、外国人集住自治体100市区町村241カ所の保健センターを対象に無記名自記式質問紙調査を実施しました。48ヵ所(回収率19.9%)から回答を得て、乳幼児健康診査における公的通訳、乳幼児健康診査における外国版質問紙の活用は十分ではない状況であり、外国人への十分な対応が追いついていないことが分かりました。

 また、8名のブラジル人母親のインタビューを通して、子どもの発達の情報源で一番多いのが母国語のSNSであり、母国語での情報を望んでいることを知りました。ポルトガル語対応療育施設で3名の母親(ブラジル2名、ペルー1名)にインタビューを行いました。

 母親たちは「保健師さんたちに勧められた療育施設の見学で重度の障害児を見て驚き、自分の子どもが行くべき施設ではないと考え、子どもに合った教育をしてくれる施設を探し、この施設にたどりついた」と語っていました。その施設の療育にとても満足しているのを知りました。

「発達の遅れ・発達障害を有する外国人の小児の早期発見・早期支援のモデル」を構築

 これらの結果を踏まえて、「発達の遅れ・発達障害を有する外国人の小児の早期発見・早期支援のモデル」を構築しました。

■図:「発達の遅れ・発達障害を有する外国人の小児の早期発見・早期支援のモデル」

 このモデルは、行政・保健・医療・福祉・教育・子育て支援機関で働く専門職が外国人小児と家族の成長を目指して、発達の遅れ・発達障害を有する外国人の小児の早期発見・早期支援のプロセスにおいて連携しながら、それぞれの立場での役割を果たしていくことを描いています。

 そのプロセスにおいて、外国人母子対応の保健福祉サービスの施策や社会資源の拡大、外国人対応療育施設、通訳者制度、母国の保健医療福祉・教育が理解できる資料の作成と活用、外国人小児・家族に対応した乳幼児健康診査の確立、保健師の文化能力向上、保健医療福祉サービスと子どもの発達・発達障害に関して母国語による情報発信・知識の啓発、が課題でした。

 これらの課題解決を目指す取り組みが、発達の遅れ・発達障害を有する外国人の小児の早期発見・早期支援を推進すると考えました。

 そして、これらの課題解決のひとつの方策として取り組んだのが「外国人の出身国および我が国のECD(Early Childhood Development )事情のデータベース作成」の研究です。

 その一環で『日本で暮らす外国にルーツを持つ子ども・子育て支援サイト』を開設しました。次にそのことについてお話しします。

■参考
(※1)軽度発達障害児に対する気づきと支援のマニュアル(厚生労働省)

■リンク
『日本で暮らす外国にルーツを持つ子ども・子育て支援サイト』

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