オピニオン/保健指導あれこれ
職域でのアルコール指導・減酒支援、多職種・チーム連携

No.2 企業はどのようにアルコール問題に取り組めば良いのか

AGC株式会社鹿島工場 産業医、健康管理センター所長
田中 完

 提供  大塚製薬株式会社

飲酒の習慣化に問題意識を持つ

企業によるアルコール問題への取り組みで課題と感じているのはどのような点ですか?

田中アルコール依存の状態になったり、飲酒が原因で健康を害したりするまでは、喫煙と比べてあまり保健指導をされないのが問題だと感じています。さまざまな機会を捉えて啓発活動をする必要があるのですが、タバコに比べると、まだまだアルコールの問題に切り込んでいく企業は少ないと感じています。

それはどうしてでしょうか。

田中アルコール依存症になったり、肝硬変や高アンモニア血症などの病気になったりする社員はたしかに問題ですが、少数派です。そのため、企業が社員の健康問題を理由に全社を挙げてアルコール問題に取り組もうという動きにはなかなか結びつきにくいのです。どちらかといえば、飲酒が原因で生じる従業員の問題行動をリスクと考える企業が多いのではないでしょうか。
 結局、アルコールを原因とする従業員の問題が企業の中で発覚するのは飲酒運転やハラスメントが起きてから、というケースも少なくありません。その場合は懲戒処分にしたら、企業の対応としては終わりなので、当事者の指導や支援にはつながりません。

なぜ飲酒について指導や支援が必要なのでしょうか。

田中私が独自で行っている調査でだんだん分かってきていることですが、飲酒に関する問題は、たまに大量に飲む人より、習慣的に飲んでいる人に起こりやすいのです。飲酒が習慣になっていると、だんだん飲酒量が増えたり、アルコール度数の高いものに移行していったりします。習慣なので、休肝日を設けることが無理だという人もいます。
 特に顕著だったのは、新型コロナウイルス拡大で在宅勤務の人が増えたときです。飲み会の機会で大量飲酒していた人はコロナ禍でほとんど飲まなくなったのですが、習慣的に飲酒している人は就業時間が終わったらすぐ冷蔵庫からビールを取り出したり、缶ビールを箱買いしてストックしたりしていました。習慣飲酒の方が問題化するリスクが高い、というのが最近の私の認識です。
 そのため習慣化を断ち切り、断酒は難しくても、節酒や減酒と言われる方法でアルコール量を減らす方向へ導く必要があります。しかし健診で引っかからない限り、「自分は大丈夫」と思っている人が多いのが現状です。

 実際、AUDITと健康診断の結果を比較したデータを見ると、AUDITの点数が20点以上の人はアルコール依存症の疑い群なのですが、肝機能検査においてASTとALTの数値が50以上で異常を示す人はわずか6%しかいません。同様にγ-GTPも異常を示す100以上の人は約3割しか認められませんでした。しかし周囲から「心配されたり、飲酒量を減らすよう勧められた」という人は、20点以上の人の場合、83%もいます。

AUDITと肝機能の関係
図1 AUDITと肝機能の関係

提供:田中 完先生(AGC株式会社鹿島工場 産業医、健康管理センター所長)

AUDITと精神的影響、社会的影響の関係
図2 AUDITと精神的影響、社会的影響の関係

提供:田中 完先生(AGC株式会社鹿島工場 産業医、健康管理センター所長)

 家族や同僚などから飲酒量が問題だと感じられ、実際にAUDITの点数が高いわけですし、早い段階で節酒の指導を受けた方が良いのですが、健康診断の結果で肝機能に問題がないと飲酒行動を見直そうという動きにはなりづらいものです。ですが、アルコールの過剰摂取を続けていると肝障害が進行し、手遅れになるケースもあるので注意が必要です。

3問だけでスクリーニングする「AUDIT-C」も有効

飲酒量の多さを、どうすれば自覚してもらえますか。

田中やはりAUDITが有効ですので、いろいろな機会で受けてもらいたいと考えています。ただ、健診時やストレスチェックの際に積極的に使えれば良いのですが、10項目全てに答えてもらうには時間がかかります。そこでAUDITの設問のうち、飲酒量(Consumption)に関連した最初の3問だけでスクリーニングする「AUDIT-C」を健診時などに取り入れることをお勧めしています。健診で肝機能の数値が悪いと分かってからでは、手遅れになるケースがあるので、「AUDIT-C」の客観的な点数で飲酒の問題を把握し、早期介入につなげていってほしいと思います。

AUDIT-C
図3 AUDIT質問項目/回答(久里浜医療センター「AUDIT」より)[1]
AUDIT-Cでは、このうち最初の3問のみ(赤枠内)を使用する

減酒につなげる取り組み例で有効なものはありますか。

田中杠(ゆずりは)先生らのチームで開発された減酒支援プログラムは、ゴールを自分で決め、飲酒日記をつける、というシンプルな内容ですが、着実に成果が上がると感じています。体感としては、対象者の半分ぐらいは減酒に成功しています。一方、全体の3割ぐらいの人は、対人関係や家族の問題、職場のストレス、働き方など、飲酒に至る原因や理由に切り込まなければ、飲酒指導だけで改善させていくのは難しいです。逆に言えば、そのような因子がなく、ただ習慣的に飲むのが当たり前になっているような人であれば、減酒指導でアルコール量を減らしていける可能性は高いです。

従業員の飲酒問題に介入するのは難しくありませんか。

田中飲酒は喫煙に比べてあまり指導されていないと先ほど述べましたが、一つだけ良い方向に働く要因があります。タバコは吸いすぎても症状が出にくいのに比べ、お酒は飲み過ぎると嘔吐(おうと)や頭痛など、ネガティブフィードバックが現れやすいからです。そのため、AUDITで点数が高い人ほど、実は普段から二日酔いで苦しい思いをしていて、お酒を減らさなければ、と自覚している面もあります。そう言う点では、企業側が問題意識を持つことで介入しやすいと考えています。
 実際に節酒指導で飲酒量を減らせた社員から話を聞くと、「身体が軽くなった」「慢性のだるさが消えた」「睡眠の質が改善した」といった感想が聞かれています。そのようなポジティブな面も認識してもらえると良いと思います。

参考文献
[1]久里浜医療センター「AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)」図1(2023年 1月現在)

企画・制作:保健指導リソースガイド 
提供:大塚製薬株式会社 
SL2401010(2024年 1月改訂)

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