No.3 ノンアルパーティーで「飲まなくても楽しい」を実証
提供 大塚製薬株式会社
全員の満足度が高まるノンアルパーティー
田中先生が提唱している「ノンアルパーティー」とはどのようなものですか?
田中全員がアルコールを飲まない宴会のことです。一般的に、職場での親睦会はお酒を飲むのが当たり前だと思います。しかし日本人の44%[1]はお酒に弱い「ALDH2不活型」の体質だという調査結果がありますし、飲酒後のパフォーマンス低下はもちろん、中にはハラスメントや暴力、飲酒運転に至る人もいて、飲酒機会を増やすことは本来、企業にとってリスクが高いはずです。
また費用や参加率の問題もあります。実際に比較してみたところ、ノンアルパーティーの方が、飲酒を伴う通常の宴席より平均して3割は費用が安く済みました。さらに飲酒の前に、飲み過ぎや二日酔いを防ぐためにコンビニエンスストアなどでサプリやドリンクを買っている人がいて、そのような「アルコール対策のための費用」も当然かかりません。
このような理由から、飲み会ではなく、アルコール無しでの食事会にしましょう、という呼びかけを地道に続けています。まだまだ認知度は低いですが、特に国が定める「アルコール関連問題啓発週間」(毎年11月10日から16日まで)に、ぜひ実行してみてほしいです。一度やってもらえれば、意識は大きく変わると思います。
ノンアルパーティーはどのように始めれば良いのでしょうか。
田中主賓や会社の上層部にいる人が、ノンアルパーティーにしましょう、と声をかけるのが一番やりやすいと思います。幹事からの声かけで実現するならそれに越したことはないのですが、賛同を得られないと実行に移しにくいので、できれば上の立場の人が積極的に呼びかけてほしいです。
「飲まないなんて」といった反発も予想されます。
田中そう思われるのが普通だと思います。実際、ノンアルパーティーを実施する前に、アルコール無しの宴会についてどう思うかを聞いたところ、「あっていいと思う」と答えた人は39%、「ありえない」が26%、「どちらでもない」が35%でした。しかしその後、実際にノンアルパーティーを経験してもらった後に、再度同じアンケートをとると「あっていいと思う」が84%と2倍以上増加し、「ありえない」はわずか4%まで減った、という調査結果があります。
図1 「アルコールなしの宴会」についてのアンケート結果
提供:田中 完先生(AGC株式会社鹿島工場 産業医、健康管理センター所長)
実はお酒がなくても楽しい会だった、ということですね。
田中前述したように、飲み会が人間関係をよくする場になるとは全員が感じていなくて、ストレスやマイナス要因も多いんですね。思い切ってお酒を無しにしてみたら、それでも十分に親睦を深められることが分かった、ということの現れだと思います。飲酒をしなければ運転して帰れますし、翌日の仕事のパフォーマンスが落ちないというメリットもあります。
またノンアルパーティーだとお酒を飲めない人や、お酒が苦手な人も参加しやすくなります。費用面で安くなる、というのもありますし、お酒を飲まないで参加した飲み会で、酔っ払った人たちの対応で、自身は飲んでいないにも関わらず疲れてしまった、という人も結構いるんですね。そのような点を考えても、最初から全員が飲酒をしない宴席だと、全員が「楽しかった」で終われると思います。お酒を控えて安く済んだ分を料理のランクアップに使ってもらえれば、みんな満足するのではないでしょうか。
図2 「(宴会)翌日の仕事のパフォーマンス」について
宴会翌日の「仕事のパフォーマンス」を、前夜に何もない日を100%として主観的に評価してもらった(Non-Alchol Party:n=18/飲酒のある宴会:n=20)。別途実施した大規模調査(n=2,915)でも、飲酒のある宴会翌日のパフォーマンスは平均「76.64%」という評価となり、パフォーマンスが低下する傾向がみられた。
提供:田中 完先生(AGC株式会社鹿島工場 産業医、健康管理センター所長)
飲酒指導にかかせない保健師や看護師との連携
保健師や看護師との連携についてはどう考えていますか。
田中他職種の連携は重要なポイントです。大きい企業なら専業の産業医が毎日いますが、中小企業だと常駐していないケースもありますので、保健師さんや看護師さんが身近な医療者として支援にあたれば大きな助けとなります。
現実問題、臨床の現場で減酒指導をするのは、なかなか時間が取れないのです。北茨城市民病院付属家庭医療センター(つくば市中郷町)の「アルコール低減外来」では筑波大学の吉本 尚先生らが診療にあたっていますが、1日で対応できる人数には限りがあります。その意味でも、看護師さんや保健師さんは減酒指導において重要なプレーヤーだと考えています。オンラインでのカウンセリングも有効ではないでしょうか。
産業保健に携わる私たちは、よく自分たちの仕事を柔道の「寝技」のようだと表現します。これは、すぐに結果が出る「一本」ではなく、数年かけて患者の習慣を変えていく、という特徴からです。それを可能にするのは保健師さんや看護師さんとの連携があってこそだと思います。
医療機関へつなげた方が良いケースもあるのでしょうか。
田中もちろんいます。例えば「寝酒」として就寝前にお酒を飲まなければ眠れない、という人であれば、睡眠導入剤などへ切り替えた方が良い事例もあります。アルコール依存症患者向けの飲酒量を減らすための薬(飲酒量低減薬)など、治療の選択肢も広がっていますから、AUDITで対象者を見つけ、保健師さんらの指導で問題があると判断される場合は、早期に医療へつなげていくのも重要です。
今後の展望について教えてください。
田中社会が抱える飲酒問題の入り口は企業にあります。運動習慣や健診受診率の向上などと同様、飲酒行動の改善についても、企業が取り組みを進めて社員の意識を変えることで、やがてその家族、友人などを介して地域へ広がっていくからです。その意味では産業医が企業を変え、地域を変えていくキーパーソンになると思います。地域の産業医が連携して、なかなかサービスが行き届かない中小企業の社員さんにも手を差し伸べていければ良いと考えています。
参考文献
[1]樋口 進 編著「アルコール臨床研究のフロントライン」
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)