オピニオン/保健指導あれこれ
郁子の栄養指導あれこれ

No.3 おれはメタボじゃない

管理栄養士 (フリー)
佐藤 郁子

 予定の時間になっても対象者さんは来られず、もう少しで連絡を入れようとした時にその方は来られました。入られた時の第一声は「俺はプロスポーツ選手のAと身長も体重も同じだ。Aはメタボなのか?」です。あまりにも突然の出来事に唖然としながら、挨拶を済ませ、座っていただくように声をかけましたが、怒っておられるようで、「座らない」の一点張りです。とりあえず、立ったままでは…と何とか座ってもらい、指導を始めようとしたのですが、私に話す隙も与えないくらい早口で話し始めました。

 「Aがメタボじゃないなら、俺もメタボじゃない」「メタボの基準値は誰が決めたのか」「大体、この基準に俺を当てはめるのが間違っている」等々、いい加減うんざりするくらいの文句です。そして、「俺は自分で既にダイエットを始めている。お前が俺に何をやれと言うのだ。」と言われ、やっと口を挟むことができました。

 まずは、体重と腹囲の確認です。確かに検診時より体重は落ちていますが、BMIは30近く、腹囲も100cmを超えていて、正常値には程遠い値です。A選手と同じ体重でも同じ体型ではないことは明らかです。それに血液検査では中性脂肪とLDL、血圧が高値、運動していると言ってもHDLはぎりぎりです。聞けば武道の経験者で現役のころは減量とリバウンドを繰り返していたようで、体脂肪は現役のころから26%と多く、今はもっと増えているようです。

 私が、現役のころから体脂肪が多めだったことと、腹囲が大きくなっていることは内臓脂肪が増えてきていることなどをお話ししましたが、全て自分は違うと否定してきます。その後、質問(文句?)1つ1つに丁寧に回答し、すでに取組み初めていることについてだけは聞くことができました。取組み方法には問題が山積みでしたが、「頑張っておられるのですね。実際に効果も出ているのであれば、今、取り組まれていることを継続してください。」と言うと、急にニコニコしだし、「それなら話を聞いてやってもいい。」と言われたのです。

 ほっとしながらも、私は取り組まれていることを行動計画にし、目標体重だけを伝えることにしました。実際は何も指導していないのですが、既に取組み始めていることがいくつもありましたし、ここまで来るのにかなりの時間を使ってしまったのと、本人に私の指導を受け入れる気がまるでなかった為、そうせざるを得なかったのです。行動計画の立案までたどり着いたので、あとは今後の継続支援の流れ等を説明して終わろうとしたのですが、なぜか話は止まりません。

 あげくの果てには、「こんなのにお金をかけている方がおかしい」「若い子の痩せすぎの方が問題なのに、それに対する指導はしないのか。痩せすぎからくる無月経が少子化を進めている。」と焦点が完全にずれてきました。

 仕方がないのでそれにもきちんとお答しましたが、結局、予定の時間を15分もオーバーしてしまいました。

 かなり疲れる指導でしたが、一体何を言いたかったのかよくわかりませんでした。いくら制度でも、そんなに嫌なら受けなければいいと思いますし、結局、改善する気もないのに指導を受けることでも、お金を発生させていることに全く気付いていないのです。

 ただ、直接あって文句を言ってやらないと気が済まなかったのでしょう。こんな指導は多々あります。

 指導者の技術力の問題でもあるのでしょうが、保健指導とはどんなものなのか理解されていない場合が多く、何をされるのかわからないまま指導を受けにくる人が多いことは問題だと思っています。

 まだまだ「特定保健指導」という言葉は浸透していないということなのです。 限られた時間のなかで、「特定保健指導の概略」から「指導の目的」等を話し、理解を得るのは厳しいですが、そうしていかないと浸透していかないのでしょう。

 ただ単に指導するだけでなく、いかに指導を受けることが重要なのかを伝えて行くことも、私たち管理栄養士の使命なのだとわかっていても、何か府におちないまま指導に携わっています。

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