オピニオン/保健指導あれこれ
大災害を生き抜くための食事学
No.1 震災後に求められる備蓄食11の条件と「常備食」
宮城大学 食産業学群 教授
2018年04月03日
テーマ1:被災経験や過去の教訓から見えてきた食の課題 「食」には、生き抜くことはもちろん、QOLの視点も求められている
3.11、石川先生は、勤務地である宮城大学の研究室で地震に遭いました。余震が続く中、帰宅し奥様と合流。マンションの壁が一部崩壊していたため、車での寝泊まりを余儀なくされました。 講演の冒頭、まず語ったのは、ご自身が体験した震災時の食生活。- アウトドア用のポット、カセットコンロを持っていたため、温かいものを食べることができた
- 震災から2日後にはマンションの炊き出しがあり、配給品としておにぎりが届いた
- 電気は震災から4日後に復旧。最初に作ったのは「きのこカレー」
- 水が貴重だったので、洗わずに済むよう食器にラップを巻いて使った
- 震災後、「甘いもの」への欲求が高まった。近くのケーキ屋さんで、日を通さなくても作れるクリームタイプのケーキが売られていた。懐中電灯の薄明かりの中で食べたケーキは、これまでの人生で一番美味しいケーキだった
- 自宅にあった飴が宝石のように見えた
テーマ2:大震災を生き抜くための食とは? 震災後に求められる備蓄食11の条件
震災直後は混乱期となり、ライフラインの供給が停止するほか、店が閉まる、商品が限られる、行政などによる支援をあてにできないなどの状況が続きます。 「だからこそ、救援体制が整うまでの期間、最低1週間をのりきるために、必要最低限の食糧などを備蓄しておくことが必要です」と語った石川先生は、震災後に求められる備蓄食の条件として、次の11項目をあげました。
<震災後に求められる備蓄食の条件>
1 飲料水が不足していても食べることができる
2 お湯がなくても食べることができる
3 夏でも安全に容易に持ち歩ける
4 温かい
5 調理済みで開封してすぐに食べることができる
6 個食パックで配分が容易である
7 食器が不要
8 食べる場所を選ばない
9 ゴミ処理に配慮がある
10 栄養面に配慮がある
11 おいしい(日常の食事と同等のレベル)
このうち、特に強調したのは「おいしさ」の重要性です。震災時は、いうまでもなく、生活環境の破壊、家族の不安、生計の不安、健康不安など、さまざまなストレスにさらされます。
「そのストレスを緩和するのが食なのです。食べる楽しみは人間の本能であり、生きる糧。なのに、被災地では、口にあわなくてもまずいとはいえない雰囲気がある。『おいしいものを食べたい』は、わがままなどではなく、当たり前の感情だと思います。食事がおいしいことは、必要条件だと思うのです」と語りました。
そして、「普段食べているものを非常時にも食べることができれば、心を落ち着かせることができる」として、非常時のための備蓄ではなく、日ごろから利用できる長期保存可能な食品を買い置いて「常備」し、非常時に役立てる「常備食」が最適だと提案しました。
テーマ3:何をどう「備蓄」すればよい? 備蓄から一歩進んだ"常備蓄"のススメ

主食:
米を中心に、アルファ米(水でも炊ける)やカップ麺など種類と量を多めに用意
主菜:
タンパク源となる肉や魚は缶詰を活用。ふだんから使い慣れておくこと
副菜:
レトルト、スープなど好みの物を
果物:
震災時は塩分が多い食事が続くので、カリウムが多いドライフルーツが活躍
調味料:
油も忘れずに
嗜好品:
ストレスがあるとき、甘い物は心を「ほっ」とさせる
水:
1人1日3リットル必要
熱源:
カセットコンロを3日で6本あると安心
気張らず、楽しく、可能な範囲で備蓄することをはじめよう!
最後に、「日本において地震は日常の出来事であるが、中には『怖い』『考えたくない』という人もいて、時間がたつと食品備蓄をしていない人が増えていく。しかし、震災時にわずかなやすらぎを与えられるのも、『食』」である」として、石川先生は常備蓄の大切さを改めて訴えました。 そして、「個人の備蓄が進まないという点は、気張らず、楽しく、可能な範囲で備蓄することで、クリアできるのではないか。地域や家庭で、普段から持ち寄りパーティーや限られた食材、限られた道具での料理体験などを行って、"不便さ"というワクチンを打っておくと安心」とも。 石川先生が話していた「おいしいと感じる食は、個人個人で異なることを認識しよう。備蓄をしておけば、困った人に分け与えることができる。そうした助け合いも、災害時の心理的なストレスを軽減する大事な要素」という言葉も印象的でした。「大災害を生き抜くための食事学」もくじ
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