オピニオン/保健指導あれこれ
データヘルス計画の活用で、人々の役に立つ保健活動を

No.3 受診率向上は保険者共通の課題

生活習慣病予防研究センター 代表、医師
岡山 明

重症化予防はWin-Winモデル

 医療費の大部分を高額医療が占めることは広く知られるようになった。下図は医療費の順位別の人数と金額を模式的に示したものです。

 図を見ると年間医療費の上位5%の人が医療費の約半分を占めていることがわかる。さらに上位10%までに広げると全体の70%の医療費を占めることになります。 このほとんどが高額医療であり、高度な医療を提供された結果生じたものです。高額医療の原因として予防可能なものでは、腎不全に伴う血液透析や脳卒中、急性心筋梗塞などの循環器疾患が多くを占めています。

 これらの疾患の特徴は、そのリスクファクターである高血圧や糖尿病、脂質異常症などを放置しているか、長期のコントロール不良の結果、生じることです。

 未治療者を医療に着実に結びつけることや治療効果を高めることで、多くの高額医療が予防可能であることはすでに明らかになっていますが、実際に加入者全員を対象として受療勧奨を確実に実施すること、治療中者の治療の質を高めることは容易ではなく、医療保険者にとって重要な課題となってきています。

 未治療者に受療を勧奨することは、医療機関にとっては新規の患者が増えることになる。したがって未治療者への治療勧奨事業は、全ての保健事業の中で最も医療機関・医師会の理解を受けやすい事業です。

 重症化予防を実施する際、まずは未治療者対策をしっかり整備して、事業の実施を通じて医療機関とのネットワークの形成を目指してほしい。  

 さらに糖尿病性腎症のハイリスク者をはじめとする治療中のコントロール不良者も、医療機関にとっては頭の痛い問題である。保険診療で認められた短い時間に十分な患者指導を行うことは難しい。ここに医療保険者が第3の目として関わることで治療効果が高まる可能性があります。

 この場合に重要なことは、一定期間の指導のあと、主治医と患者の関係をよりよくして治療効果を高めることです。主治医との密接な連携を意識して事業を展開する。指導効果が認められ、主治医の事業への理解が高まれば、事業の展開がより容易になっていく可能性があります。

必要な情報の収集や資料の追加

 重症化予防の企画や展開には、その根拠となるデータの収集が欠かせません。言い換えると、事業を行う根拠となるデータがきちんと収集できていれば目指す方向に向けた保健事業の企画が可能となります。

 データ分析は基本的集計と課題別集計に区分され、課題別集計では今まで行ってきた事業の特徴やメリット・デメリットを、様々な角度で分析して事業の方向性を探ることが重要です。未治療者対策を例に考えてみましょう。

 ある健康保険組合で、生活習慣病関連の医療費データを他の保険者と比較してみると、前期高齢者の医療費が高いという結果が出た。生活習慣病関連医療費のどの疾病が高額医療になっているのかを詳細にみると、脳血管疾患の入院医療費が寄与していました。

 さらに健康診断結果の集計を見ると、重症高血圧であるにもかかわらず服薬なしの割合が高いことがわかり、そこで、前期高齢者の未治療者対策を優先的に進める必要があるという結論に達しました。

 このように誰に対しどのような事業を進めたらよいのかを考えながら必要なデータを収集していく必要があります。データ分析は手当たり次第に行うのではなく、気になる事業に関連するデータを効率的に収集することが重要となります。

対象者・対象集団の抽出と決定

 重症化予防で、健診結果やリスクの数など一定のデータで区切る方法は、よく使われる選定方法です。しかし、新規の保健事業では、対象者全員に行うより年次計画に従い対象者をさらに年齢で絞り込み、まずは体制構築を優先するなど工夫することが必要です。

 また、対象者を近隣地区ごとにグループ分けし、年次計画により数年かけて対象者全員に事業を行うなど、人的資源や予算規模に応じ対象者を決定し実行可能な人数を考慮するとよいでしょう。

 その他、相対リスクの高い年齢層に絞り込む、複合リスクのある者を優先するなど、効果を考慮した対象者の決定が重要です。このように対象者の決定には専門的知識が必要となるため、公衆衛生学の有識者の活用のほか、行政では保健事業支援・評価委員会の活用など積極的な外部支援を得ることが望まれます。

実施スケジュールの進捗管理

 重症化予防を計画的に進めるためには事業実施スケジュールを立てることを勧めます。健診で見つかった未治療者に対して、まず文書による受療勧奨を行い、この未治療者に受療勧奨の保健指導を実施することになります。

 これらについて役割分担し、定期的なモニタリングが行えるよう関係者間での打合せや報告会議を開催するなど、あらかじめ決めておくことにより、事業の進捗や効果評価が定期的に確認できます。

定期的な評価と見直し

 事業の定期的な評価と見直しは事業の成功の可否に反映される。スケジュール作成の際に定期的な会議や打合せ日程をあらかじめ入れるなどして、関係者間の風通しを良くしておく必要があります。また、定期的に第三者や専門家のアドバイスを受けられるよう計画の中に入れておくこともよいでしょう。

 評価の際には評価指標に従って一つ一つ丁寧に現状を評価していく。特に新規事業の場合は、何らかの業務を行った際の日付と内容をメモしておくなど、プロセスを記録しておくと翌年の事業計画策定の際に役立ちます。

 事業計画は一度作成したら変更不可能ということではありません。複数人で内容を協議し、いつどのような理由で計画の変更をしたのかきちんと記録しておくことも大切であす。

実施結果の総括

 これまでの保健事業の実施結果は、いつどこで誰に対して何をし、その結果どうだったという程度の業務報告にとどまることが多かったのではないでしょうか。

 データヘルス計画策定を機会に、改めてPDCAサイクルを回した事業展開が重要だと言われているが、同じ事業だからと例年通り同じことを繰り返すのではなく、これまでの実施で課題となったことが改善されるような事業展開をする必要があります。

   そこで事業経過の細かい記録物が役に立つ。実施要綱に従って事業総括を行い次年度事業の方向性を示して、これを会議で検討し次年度の事業が始まる、この繰り返しがPDCAサイクルを回すということです。

評価と課題の共有

 事業を評価・総括した結果は関係者間で必ず共有しておくことが重要である。各担当者が事業の成果を共有し、課題を認識することにより、次の事業展開の際には事業内容の質の向上や担当者のモチベーションアップも期待できます。

 与えられた業務を単にこなす役割であるより創意工夫し、関係者間で話し合いながら事業を展開して達成感を味わうことができたらこの上ないことです。

【参考】
生活習慣病予防研究センター

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