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「ウォーキングの格差」が世界規模で拡大 スマホで世界111ヵ国を調査

 スマートフォンのアプリで計測された毎日のウォーキングの歩数の分布を世界111ヵ国で調査した結果、世界的に「運動の格差」が拡がっていることが明らかになった。
 歩数の少ない「ステップ・プアーズ」は肥満になりやすく、歩数の多い「ステップ・リッチ」は運動量が多く健康になりやすいことが判明した。
 「運動の格差は世界的に拡大しています。これは所得格差に似た現象です」と研究者は述べている。
よく歩く人と歩かない人で大きな「運動格差」が
 スマートフォンのアプリを使い世界中の数十万人の活動レベルを追跡して調査する研究をしているスタンフォードの研究チームは、興味深い発見をした。肥満の少ない国に住む人々の1日の歩数はあまり変わらないが、肥満の多い国ではよく歩く人とほとんど歩かない人で大きなギャップがみられることだ。

 この研究は、スマートフォンを使って111ヵ国の71万7,527人の膨大なデータを集め、合計で6,800万日分、平均95日間の歩行量を分析したもの。研究チームはAzumio社で提供している「Argus」というスマートフォン・アプリで得られたデータを解析した。

 「Argus」は、ウォーキングの歩数や身体活動の時間や量などのライブログを測定し記録する、世界的に普及している無料のアプリだ。スマートフォンに内臓された加速度センサーを使い、ウォーキングなどの身体活動を追跡して記録するもので、今回の研究では、データを匿名化し、個人情報を消去した上で、年齢、性別、身長、体重などの属性データが収集された。

 「公衆衛生上のリスク管理において、運動の格差が新しい問題として浮上してきました。よく歩く人とあまり歩かない人の間に大きなギャップがあり、不健康な肥満の分布と重なることが明らかになりました」と、スタンフォード大学コンピュータサイエンス学科のジュウ レスコベック氏と、バイオメカニクス研究室のスコット デルプ氏は言う。

運動格差の大きい国ほど肥満率が高い
 世界保健機関(WHO)によると、運動不足が原因で死亡する人は全世界で年間530万人に上る。一方で、スマートフォンは世界規模で普及しており、普及率は先進国では70%、途上国でも50%近くに達している。数百万人規模のライフログを簡単に収集することが可能になっている。

 「肥満が世界的に増えており、運動不足が多く関わっていることを、世界規模で調査できるようになっています。その結果、ウォーキングなどの運動をよく行う人とあまり行わない人の間の格差は世界規模で広がっており、肥満の増加と密接に関連していることが分かりました。これは所得格差に似た現象です」と、デルプ氏は言う。

 「もしも、ある国でウォーキングなどの運動量が多い人と少ない人の格差が拡がっているのなら、その国では肥満が増えているという目安になります。平均歩数の分布での格差は肥満の指標となりえます」と、デルプ氏は説明する。

 たとえば、スウェーデンは、ステップ・プアーズとステップ・リッチの運動格差が世界でも少ない国で、男女の運動のジェンダー格差も小さい国だ。そして、スウェーデンの肥満率は世界で最小レベルに抑えられている。

 一方で米国は、運動の格差が世界で4番目に大きく、ステップ・プアーズとステップ・リッチの間で大きな格差がある。男女の運動のジェンダー格差も世界で5番目に大きい。そして米国では肥満が爆発的に増えている。

 これまでの米国の研究で、歩数の分布にはジェンダー格差があり、平均歩数は男性で多く女性で少ない傾向があることが指摘されている。今回の研究では、歩数のジェンダー格差は国によって異なり、女性の歩数が少なくない国もあることが分かった。

 「運動の格差が大きくなると、女性の運動量が男性よりもはるかに大きく減少し、そのため女性で肥満との負の関係が強まる可能性があります。つまり、歩かない人が多い社会では、男性よりも女性が肥満の影響を受けやすいのです」と、レスコベック氏は言う。
ウォーキングしやすい都市づくりが健康政策に
 運動の格差が大きい国では、肥満に対策する公衆衛生キャンペーンを打ち立てて、歩きやすさに焦点をあてた都市開発を政策として進めるなど、積極的な対策をするべきだとしている。

 研究チームは、運動格差と都市環境の関連を調べるために、米国の69都市のデータを解析した。それぞれの都市がどれだけ歩きやすく、歩行者に有利に整備されているかを、公園、店舗、レストランなどの分布と、スマートフォンで収集したライフログを合わせて解析し、目的地への歩きやすさなどの要素を考慮した「ウォーキング・インデックス」を作成した。

 その結果、ウォーキングをしやすい都市ほど、運動の格差も少ないことが明らかになった。カリフォルニア州のサンフランシスコ、サンノゼ、フリーモントの3つ都市で比較したところ、サンフランシスコがもっともウォーキング・インデックスが高く、運動の格差はもっとも少なかった。

 ウォーキングに適した都市では、性や年齢、BMI(肥満指数)に関わらず、住民がまんべんなく毎日の歩数を増やしている傾向がみられるという。

 「ウォーキングを行いやすい都市環境を整備することが、運動の格差を少なくし、さらには肥満の増加を抑えることにつながります。都市計画や健康政策に携わる人は、経済格差だけでなく運動格差にも目を向けることが必要です」と、研究者は強調している。

Stanford researchers find intriguing clues about obesity by counting steps via smartphones(スタンフォード大学 2017年7月10日)
Large-scale physical activity data reveal worldwide activity inequality(NATURE 2017年7月20日)
[Terahata]
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