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ペットロボ「アイボ」の癒やし効果を医療に活用 成育医療研究センター
2018年12月05日
国立成育医療研究センター(NCCHD)は、ソニーが販売しているペットロボット(エンタテインメントロボット)である「アイボ(aibo)」を使った、小児医療現場で長期療養中の子どもに与える癒し効果を検証する研究を開始すると発表した。
今年行ったパイロット研究では、「アイボ」を使った介在療法により、子どもの情緒交流、気分転換、癒しの効果が向上するという結果が出ているという。
今年行ったパイロット研究では、「アイボ」を使った介在療法により、子どもの情緒交流、気分転換、癒しの効果が向上するという結果が出ているという。
「アイボ」を通じ、子どものこころの発達過程を分析
人工知能(AI)を組み込んだペットロボットは進歩しており、近年はこれを子どもの心の発達心理学研究(とくに認知、意図、意思、心の理論)に取り入れようという動きが出ている。
生まれて数ヵ月の乳児は人に興味をもち、顔や身体の形の特徴、動き方に注目し、人と特別な関係性を築こうとする。このステップが対人コミュニケーションの発達に大きく影響すると考えられている。
近年、ロボットでも、乳児との相互作用や人らしい形態などを付与すると、その視線を追従しようとすることが明らかになってきた。このことは、子どもがロボットをインタラクティブな存在と認知すれば、ロボットから学習効果を引き出せる可能性があることを示している。
とくに子どもの「メンタライジング(人の心を推し量る課題)」の発達は社会で重要だ。人の動きをみて反応し行動する「アイボ」の特徴を通じて、こうした子どもの発達要素が刺激され、癒し効果を得られる可能性がある。
医療でのロボット技術応用に対する期待は高まっているが、小児ではロボット技術の汎用性が狭く、まだ十分に臨床応用されていない。今回の研究が、ロボットを通じて子どもの発達過程を分析的に知るはじめての試みになる。
子どもを家族、医療従事者、社会とつなぐ「リエゾン診療」
国立成育医療研究センターは、小児・母性疾患を治療するナショナルセンターで、小児がん・臓器移植・慢性疾患などで長期入院を要する小児症例が多数ある。これまで長期入院を要する慢性疾患患者に対して「家族」「医療従事者」「社会」などとつなぐ「リエゾン診療」を実施してきた。
小児リエゾン精神医学領域では、認知行動療法(リラクセーションなど)、家族療法などの効果が報告されており、その実践効果が検証されてきた。
一方、補完代替え療法としての動物介在療法は、動物と人との交流がもたらす健康、自立、生活の質改善を目的に、補助療法、非薬物療法あるいはケアの一環として臨床で行われている。
その対象は、うつや統合失調症、PTSDなどの精神疾患患者、情緒や発達障害を伴う子どもであり、実施の利点として、対象者の情緒安定、自主性意欲の向上、社会性改善、自立適応の向上などの効果が挙げられている。
他方、動物介在による感染症のリスクや、外傷、咬傷などの副作用が懸念されることから、開放創や皮膚疾患、動物アレルギー、免疫力低下のある患者などには適用されていない現状がある。ペットロボットはこうした課題を克服するものだと期待されている。
子どもたちの孤独と不安に寄り添う癒しの効果を期待
研究グループは、「アイボ」を慢性疾患で長期入院を要する子どもたちへのリエゾン医療として導入し、子どもと家族の癒し効果を生物・心理・社会的手法を用いて質的・量的な検証を行う。
用いる「アイボ」は研究に向けた特別仕様の機体で、市販の「アイボ」と異なり、被験者の顔写真などの個人を特定可能なデータは同センター内でのみ管理し、クラウド上への保存やソニー側では管理しない。
また、「アイボ」が取得したセンサーや認識結果などのデータは、研究分担者が研究上の分析にのみ用いる。なお、実験に用いる「アイボ」の通信機能(電波利用)は必要に応じて制限される。
検証では、「アイボ」からみた子どもの視線追従、共同注意、模倣などを対人コミュニケースキルの発達を月齢別に分析。また、非生命体である「アイボ」への愛着形成のプロセスを、参与観察による発話数と情動表出数(ポジティブとネガティブの2方向)など、ストレス下にある子どもの対人コミュニケーション促進に必要な要素を抽出し、「アイボ」による顔認識、音声認識、タッチング(なでる、叩く、触る)の種類・回数の入力データなども分析に利用する。
ロボットによる介在療法の導入の可能性
2018年4~5月に実施したパイロット・スタディでは、子ども同士の社会的相互作用の促進(とくに社会的な側面からみた自律性、配慮性など)や、表出が困難なケースにおける緊張緩和・リラクゼーション効果、孤立しがちな親子関係性への介入への期待、介在による三項関係の促進(共感性、共同注意力の促進、他者への参照など)、「アイボ」との定期的コミュニケーションによる情緒交流、気分転換、癒しの効果が期待される結果がすでに出つつあるという。
研究グループは、「今後、心理社会的な面において、支援を必要とする現場へのロボットによる介在療法の導入の可能性を示すことで、動物療法の必要性を認識しながらも導入に至らない小児療養施設・児童福祉施設(児童相談所一時保護所など)であっても同様に、子どもたちの孤独と不安に寄り添う癒しの効果が広がることを期待している」と述べている。
国立成育医療研究センター
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