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がん検診受診率の目標を60%へ
職域のがん検診受診「個人単位」での把握検討を―「がん検診のあり方検討会」より


 9月は日本対がん協会が定めた「がん征圧月間」である。現在、厚生労働省では、第3期がん対策推進基本計画(2018年3月閣議決定)に基づいて、がん対策を進めている。
 一方、並行して「がん対策推進協議会」を設置し、その基本計画に定める目標等を評価、今後のがん対策のあり方についての検討も進められており、今年6月には「がん対策推進基本計画中間評価報告書」が公表されている。報告書では、がん検診の受診率は上昇傾向にあるが、「男性の肺がん検診を除いて、目標値の50%を達成できていない」さらに「職域におけるがん検診の実態を把握する仕組み」の構築などを大きな課題としてあげている。

日本のがん対策

 がんは、1981年以来、日本人の死因第1位。現在、がんで亡くなる人は4人に1人以上、がんに罹患する人は2人に1人の時代となっている。
 2021年度の人口動態調査で、死亡数を死因順位別にみると、第1位は悪性新生物(がん)で38万1,497人、第2位は心疾患で21万4,623人、第3位は老衰で15万2,024人、第4位が脳血管疾患で10万4,588人。死亡率の年次推移をみても、がんは一貫して上昇しており、全死亡者に占める割合は26.5%であった。ちなみに新型コロナウイルス感染症で亡くなった方は1万6,756人である。

「令和3(2021)年度人口動態調査」より
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 これまでのがん対策を振り返ると、1984年から始まった第1次から第3次にわたる「対がん10か年総合戦略」を経て、2006年の「がん対策基本法」が制定されたことによって、国による本格的ながん対策は始まった。翌年の同法施行に伴い、「がん対策推進基本計画」が策定され、スタートを切ることになる。以降、同基本計画は5年~6年を1期として改訂され、現在は、第3期がん対策推進基本計画(2017年~2022年度)を基に進められている。
 今年が第3期の最終年度にあたり、6月17日に「第3期がん対策推進基本計画中間評価報告書」を公表、9月5日からは新たに第4期計画策定へ向けた検討も始まった。同基本計画は「がん予防」「がんとの共生」「基盤の整備」「がん医療の充実」と大きく4つの分野に分けられ、分野ごとに必要な検討会等が設けられ、今後のあり方について議論されている。

がん対策推進協議会と基本計画に基づく主な検討会等について
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日本のがん検診の現状

 そのうち「がん予防」分野における「がん検診」は、がん対策の大きな柱である。がん検診は、1983年の「老人保健法」により、胃がんと子宮がん検診が開始された。その後、その時々の社会状況を踏まえて検診項目や内容なども変遷し、2008年度からは「健康増進法」を法的根拠に市町村事業として実施されるようになり、現在は科学的根拠に基づいて5つ(胃・大腸・肺・乳・子宮がん)のがん検診が実施されている。
 現在の第3期基本計画では、がん検診の目標値を50%と定め、厚生労働省を中心に受診率向上に努めている。しかし、2019年に実施された国民生活基礎調査によると、がん検診受診率(過去1年間に受診した40~69歳の割合)は、男性では、胃がん48.0%、大腸がん47.8%、肺がん53.4%と、肺がん検診以外は50%に届かなかった。女性ではさらに低く、胃がん37.1%、大腸がん40.9%、肺がん45.6%。また過去2年間の乳がん(40~69歳の女性のみ)の受診率は47.4%、子宮頸がん(20~69歳の女性のみ)では43.7%と、目標値の50%に到達していないのが実情である。

がん検診受診率の推移
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がん検診受診率の目標を60%へ
職域のがん検診把握とその仕組みづくりの検討を

 このような現状を踏まえ、厚生労働省では「がん検診のあり方に関する検討会」を設置し、第4期がん対策推進基本計画へ向けた提言も議論されているところだ。
 7月15日に開催された「第36回がん検診のあり方に関する検討会」では、第4期がん対策推進基本計画へ向けて下記の5つに論点をまとめ、討議されている。

  1. 国民生活基礎調査によるがん検診受診率の目標値を60%に引き上げること。
  2. 職域におけるがん検診の受診率を継続的に把握できるよう検討を行ってはどうか。また、個人単位の職域における受診状況について、自治体においても把握できるよう検討を進めること。
  3. 職域におけるがん検診の適切な実施に向け、事業主や保険者その他の関係者の意見を聴き、まずはそれぞれが実施可能な取組や関連する課題の整理を行うこと。
  4. 「がん検診のアクセシビリティ向上策等の実証事業」や各自治体における取組などから得られた知見を横展開し、より科学的かつ効果的な受診勧奨策を推進すること。
  5. 危機時において一時的に縮小することがあっても、がん検診提供体制自体のリカバリーが速やかに行われることができるよう、リカバリーを促進する施策に関する研究を実施すること。

 検討会では、受診率の目標値を50%から60%へ引き上げることを提言。目標値を上げることによってさらなる受診率向上へ取り組む姿勢をみせている。
 また、男性と比較して低い女性のがん検診受診率を向上させるため、世代ごとに適した受診勧奨等の工夫や女性が受診しやすい環境整備に努めることも提起。職域でも男性に比べ女性の受診率が低いとの指摘があり、検診の対象年齢である20~40代は子育て等による休職中のため、職域での受診機会がないのではないかという議論が交わされた。一方、別の観点から働き盛りの女性は非正規や派遣社員が多く、職域での検診自体の受診機会が少ないのでは、との意見も出され、現代の社会状況を浮き彫りにする問題点も指摘されていた。

企業のがん検診受診率(がん対策推進企業アクション)

※「がん対策推進企業アクション」のパートナー企業・団体への調査によるもので、
がん検診に関心が高い企業の実施状況と推測される(編集部)

職域での検診「個人単位」の受診状況の把握へ

 さらに、従前から懸案となっていた「職域のがん検診受診率の把握と適切な実施」が大きな課題として議論の俎上に載せられた。これまでも「法的根拠がない」「がん検診自体を実施していない」「精度管理が十分ではない」「企業の規模で実施率や内容に大きなバラつきがある」など多くの課題が指摘されていた。
 このような課題について議論を積み重ね、検討会では「個人単位」で、職域のがん検診受診状況を自治体でも把握する仕組みを検討する方向性が出された。検討会メンバーからは、新型コロナワクチン接種記録が一元管理できているように、個人単位の情報として「マイナンバー」等を活用することも例としてあげられ、中長期的視野に立って職域の受診状況を自治体においても把握できるよう検討を進めることも提言案に盛り込まれる模様だ。
 個人単位でがん検診受診の有無を把握できるようになれば、「受診率の正確な把握」が可能になるとともに、「受診していない人への効果的な受診勧奨」も可能となり、受診率向上につなげることも期待できる。

[保健指導リソースガイド編集部]
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