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働く人のメンタルヘルスケアをどうする? 労働者のストレスやうつ病を改善 6つの対策を提言 東京大学

 労働環境によるストレスとうつ病の発症とのあいだに関連があることを、東京大学などが明らかににした。

 従業員の健康を高めることは、生産性を高めることにつながり、指導者や経営者にとっても重要だが、労働時間・作業方法・組織・人間関係・職場のレイアウトなど、職場環境の整備の多くは個人レベルの介入に焦点があてられており、組織や労働環境を改善する組織レベルの積極的な介入は不足している傾向が示された。

 研究グループは、職場のメンタルヘルス対策の進展を促すために、6つの提言を発表。事業場や部署での仕事の量的・質的負担を適正にしたり、教育訓練プログラムの充実、周囲からの社会的支援を増やすなど、職場環境の改善が必要としている。

従業員のメンタルヘルスを保持・増進するための介入

 研究は、東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授が、デンマーク、アイルランドなどの研究者と共同で実施したもの。研究成果は、「Lancet」に掲載された。

 精神的な健康問題や精神障害は、労働者でよくみられる健康問題であり、本人と雇用主だけでなく、社会にも大きな影響をおよぼす。

 仕事がメンタルヘルスにもたらす影響について明らかにし、従業員のメンタルヘルスの保持・増進のための介入手法の現状と課題を明らかにしたうえで、必要な研究や施策を進める必要がある。

 研究グループはこれまで、仕事と健康に関する調査・研究を発表しており、職場のメンタルヘルス対策ついても発表している。

 働く人たちが心も体も心も健康な状態で、いきいきと働くことが好循環を生み、生産性の向上や組織の活性化につながる「ポジティブ メンタルヘルス」を提唱してきた。

 今回の研究では、物理・化学的、人間工学的、心理社会的な労働環境への暴露と、精神障害の発症について調査した前向き研究について、2017年~2021年に公表されたメタ分析を行っている系統的レビューを解析した。

 1,242件のうち7件の研究から、26の労働環境と精神障害との関連性に関する統合された推定値を抽出した。

職場のストレスやうつ病などを3つのモデルで解明

 その結果、職場の高ストレス状態や、いじめ・嫌がらせなど、うつ病性障害の発症リスクとの関係がみられる背景として、下記のモデルがあることが分かった。

仕事の要求度―コントロールモデル
仕事で求められる負荷などの要求度と、従業員がもつ裁量権とのバランスにより、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方

努力報酬不均衡モデル
 仕事で求められる努力と、そこからえられる報酬がつりあわない場合に、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方

組織公正
 組織での意思決定の手続きや管理監督者の部下への態度が公正でない場合に、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方

 これらから、職業性ストレスの理論の深化、暴露測定の方法の改善、生物心理社会的機序の解明、研究デザインや解析手法の革新、ライフコース視点の取り込み、悪化や再発に関する研究などが、今後必要であることが示された。

従業員のメンタルヘルスを保持・増進するための介入を3つに区分

出典:東京大学、2023年

 研究グループはさららに、従業員のメンタルヘルスを保持・増進する職場での介入に関して、以下の3つに区分して文献をレビューした。

1
有害影響を防止する (prevent harm)
2
仕事のポジティブな面を促進する (promote the positives)
3
精神的問題に対応する (respond to problems)

 1については、仕事のコントロールを改善する組織介入により、一貫して効果が示された。

 2については、科学的根拠は限られているものの、管理監督者およびリーダーシップ研修が効果的である可能性が示された。

 3については、専門家に相談する前に、一定の訓練を受けた非専門家の支援者や市民が、精神的問題を有する人に対して、適切な初期支援を行うための行動計画を示す「メンタルヘルスファーストエイド」などが効果的である可能性が示された。

 メンタルヘルスファーストエイドは、「こころの応急手当」と呼ばれることもある。

組織への介入と個人向け介入を統合した介入戦略

 一方、ほとんどの職場での介入は、個人レベルに焦点を当てており、組織と労働環境を改善する積極的な介入をよりいっそう開発・実施する必要であることも分かった。

 世界保健機関(WHO)のメンタルヘルス対策ガイドラインやILO/WHOの政策ガイドでは、組織への介入と個人向け介入を統合した介入戦略により、労働環境と従業員のメンタルヘルスの両方を改善できると注目されている。

 さらに、関係者により共創的にデザインされ、さまざまな状況に対応した介入を開発・実施するには、全ての関係者が参画する学際的アプローチを進めてゆくことが必要としている。

 研究グループは、これらの結果にもとづき、6つの推奨事項を提案している。

職場のメンタルヘルス対策を促進するための6つの提言

1
精神的問題および精神障害のリスクを増加させる労働環境を規制し管理する。
2
精神的に健康な仕事を形成する方針を作成し改善する。とくに熟練していない従業員や、低所得の従業員の労働環境に焦点をあてる。
3
組織内のすべての階層で、精神的に健康な仕事を創り維持するための指針や、管理監督者および労働安全衛生の専門家のために、体系的な能力向上や教育訓練プログラムを促進するための指針を作成する。
4
精神的問題および精神障害をもつ人が労働に参加できるよう、国がサポートし、職場環境を改善する。
5
精神的問題および精神障害の臨床的評価、診断および管理で、仕事と労働環境についての情報を常に考慮する。
6
国の精神保健の戦略のなかに職場が含まれることを確実にし、職場のメンタルヘルスの重要性について社会的な認識を醸成する。

 「これらの6つの提言は、これからの職場のメンタルヘルス対策の進むべき方向性を示すものであり、2022年発表されたWHOメンタルヘルス対策ガイドラインやILO/WHO政策ガイドとともに、職場のメンタルヘルス対策の研究および実践を推進する基盤となると期待されます」と、研究グループでは述べている。

東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座

Work-related causes of mental health conditions and interventions for their improvement in workplaces (Lancet 2023年10月14日)

事業場におけるメンタルヘルス対策の取組事例集 (厚生労働省)
[Terahata]
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