オピニオン/保健指導あれこれ
職域の「禁煙」を確実に進めるために
―「喫煙」対策の最新情報と「禁煙」の実践紹介―

No.2 職場外でも「喫煙できる場所と時間」をなくすこと

産業医科大学 産業生態科学研究所 教授
大和 浩

勤務時間中の「禁煙」を推進する根拠

 吸える場所と時間がある限り、禁煙企図は高まらない。まず、勤務時間中のタバコ離席を禁止する根拠を示したい。

  1. デスクに居ない時間が長い=本人の作業効率が低下する
  2. 喫煙離席の間、周囲の人は待つ必要がある=チーム全体の作業効率が低下する
  3. その間に電話や来客を周囲が対応しなければならないため、余分な負担が発生する
 喫煙者本人はタバコ離席が周囲に作業負担をかけていることに気づいていない。一方、非喫煙者は「仕事をさぼっている」「不公平」という不満を募らせている。


勤務日の禁煙で「三次喫煙対策」

 次に、出勤前と昼休みの喫煙を禁止する根拠となる「三次喫煙」を解説する。

 三次喫煙(thirdhand smoke)とは、別の場所で喫煙した人の呼気や衣服・毛髪から長時間にわたって発生するタバコのニオイを吸わされることを指す。わが国では、2010年の厚生労働省健康局長通知で「残留タバコ成分」として初めて紹介されている。
 この現象を客観的に把握するために、まず、喫煙前の口臭に含まれる総揮発性有機化合物(シックハウスビルディングの調査指標)を測定した。屋外で1本喫煙した後の呼気を5分おきに測定したところ、以下に示すのように喫煙前の状態に戻るのに45分かかっている。

 このデータが参考となり、イオン社では喫煙する職員に対して、職場に入る前45分間の喫煙をしないこと、具体的には出勤前と昼休みの喫煙の自粛を求めることになった。
 また、北陸先端科学技術大学院大学では喫煙後45分間以内での敷地内入構、および最寄り駅からのシャトルバスの乗車が禁止された。
 京都府の洛星高等学校では「タバコ臭い教師はNG」という生徒の要望により、教師は講義の45分前の喫煙が禁止されている。

 タバコ臭い息でお客様に不愉快な思いをさせないことは、接客業の基本である。接客部門ではなくても、職場に“タバコ臭”を持ち込むことは厚生労働省が推進する「快適な職場環境の形成」の妨げとなる。
 では、喫煙後に歯磨きをすればよいのだろうか? 歯磨きとうがいで洗浄できるのは口腔粘膜だけだ。気管支の粘膜を洗うことはできない。よって、答えは否である。ヒトの嗅覚は測定器よりも敏感なので、喫煙者の呼気は終日タバコ臭い、と感じる。三次喫煙対策は「勤務日は少なくとも朝から禁煙」以外にないのだ。

就業規則での「喫煙禁止」も選択肢のひとつ

 昼休みや帰宅中に最寄りのコンビニエンスストアなどの商業施設や公共の屋外喫煙場所で喫煙する人が「望まない受動喫煙」の加害者になることは前回述べた。ここで、就業規則や独自のルールで「喫煙禁止」を定めた企業をいくつか紹介したい。

 外食産業のすかいらーくホールディングス社では、各店舗の敷地内禁煙と通勤途中の喫煙を禁止し、部下を禁煙させた上司のボーナスをアップさせた。
 健康経営銘柄を取得しているSCSK社(旧・住商情報システム)では、懇親会等での喫煙禁止の呼びかけをしていたものの、喫煙する上司に対して部下が禁煙を要請することは難しいという声を受け、会社の懇親会は喫煙NGの旨が就業規則に追加されたことが日経新聞でも報道された。
 2015年1月から敷地内禁煙としたリコー社には、機器の納入やメンテナンスのために敷地外で働く従業員がいる。内勤者と勤務条件に不公平が発生しないように「就業時間中はどこに居ても禁煙」というルールが導入されている。職場の喫煙対策のシンポジウムで、「敷地外の喫煙禁止をどうやって確認するのか?」との質問を受けた同社のシンポジストが、「リコーマンのプライドに期待しております」という“格好いい返答”をしていたことをよく記憶している。

 改正健康増進法(2020年)が施行された令和の時代、会社の中、外にかかわらず、また、プライベートな場であっても他者に「望まない受動喫煙」を発生させる状況は、法律違反・コンプライアンスの問題である。社員を受動喫煙の加害者にさせないために「喫煙者ゼロ」を最終目標とすることを検討しよう。


平成21年度 職場における受動喫煙対策に係る調査研究委員会 報告書
(平成22年3月/中央労働災害防止協会 中央快適職場センター)より

自宅での喫煙も「望まない受動喫煙」の原因

 自宅に戻ってから喫煙することも問題になる。

 家族への受動喫煙を防止するため、ベランダで喫煙すると、上のフロアはもちろん、同じフロアの隣家にも「望まない受動喫煙」を強いる加害者になってしまうのだが、そのことを意識している喫煙者は少ないだろう。戸建て住宅の台所の換気扇の下で喫煙した場合でも、その排気口から半径少なくとも25メートルで「望まない受動喫煙」が発生してしまう。

 住宅街を歩いていると「どこかでカレーをつくっている」ことがわかる。先述のとおり、吸わない人のヒトの鼻はタバコ臭に対して敏感なのだ。喫煙者の鼻はタバコの臭いに対して鈍感になっているからわからないだけである。タバコの臭いは遠くからでも鼻につく悪臭であることを喫煙者は知ってほしい。



風が強いと下方向にも拡散、窓が閉まっていてもサッシの隙間から侵入することを別の実験で確認しています。

 コロナ禍でテレワークを導入した企業では、野村ホールディングス社や味の素社のようにテレワーク中に他家に対する加害者にならないように喫煙禁止の注意喚起を行うべきである。それが、禁煙企図を高めることにも繋がる。

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