―「喫煙」対策の最新情報と「禁煙」の実践紹介―
No.3 「加熱式タバコ」がもたらす害について
進む禁煙化と加熱式タバコの登場
紙巻きタバコは天井まで立ち上る副流煙と口から吐き出される呼出煙があきらかに視認できること、強烈な刺激臭があることから非喫煙者が居る閉鎖空間の禁煙化が進んだ。
職場の禁煙化は常識となり、敷地内禁煙の企業も増えてきている。かつてのように自宅のリビングで喫煙できる家庭も減ってきた。改正健康増進法(2020年)が施行されたことで、ファミリー向けのレストランだけでなく居酒屋の禁煙化も進みつつある。
吸える場所が減れば、禁煙する人が増える。ところが、その流れに逆行するかのように大手のタバコ会社が「周囲の空気を汚さないので屋内で使用できる」「有害性成分を90〜95%低減」などとアピールした加熱式タバコの販売を始め、それを使用する人が急増している。
令和元年の国民健康・栄養調査では若〜壮年層の半数弱が加熱式タバコに切り替わった、あるいは、紙巻きタバコと併用していることが報告されている。
わざわざ数千円もするデバイスと、1箱580円もするスティックを購入して加熱式タバコに切り替える/紙巻きと併用する理由は以下の3点と考えられる。
- 周囲の人への迷惑になりたくない
- 自分への健康被害を軽くしたい
- 紙巻きが吸えないところでは加熱式でニコチン補給をしたい
本当に「空気を汚さない」のか
加熱式タバコはグリセロール(独語では「グリセリン」)などの有機溶剤を加熱して、発生するエアロゾル(霧・ミスト)にニコチンを乗せて肺に届ける仕組みになっている。
製造メーカーの広告では「空気を汚さないので室内で使うことができる」とアピールしているが、加熱式タバコからも受動喫煙に相当する二次曝露は発生している。
人間の呼吸器は、口〜喉〜気管〜気管支〜肺胞と連続しており、全肺気量は3,500〜5,000mlである。1回の呼吸量は500mlだが、気管支までしか吸入されなかった約150mlの空気は次の呼気にそのまま呼出される。
つまり、口から吸入された加熱式タバコのエアロゾルを含む空気の約3割は、肺胞での吸収が行われずにそのまま呼出されてくるのだ。
電灯や日光では口元から30cmほど白いエアロゾルが呼出される様子が視認できるが、部屋の照明を落として、背後から二次元に拡がるレーザー光線を照射すると写真のように呼気の勢いに乗って約2m先までエアロゾルが呼出される様子が確認できる。
呼出されるエアロゾルは液体の微粒子なので、気温で揮発して気体に変化するため、粒子径がどんどん小さくなり、1〜2分後にはレーザー光線も反射しなくなる。
ただし、有害物質が液体から気体に変わるだけなので、周囲には加熱式タバコ独特の嫌なニオイ、つまり、加熱式タバコの有害な成分が拡がる。その中には、図に示すようにホルムアルデヒドやタバコ特異的ニトロソアミンなどの発がん性物質も含まれている。
加熱式タバコにも発がん性物質は含まれる
加熱式タバコのもう一つのアピール「有害性成分90〜95%低減」は、「病気のリスクも大幅に減少する」ことを期待させるためのフレーズである。しかし、さきほどの図で示したように、加熱式タバコにも発がん性物質が含まれている。
発がん性物質は「5〜10%に減らしたから口に入れてよい」というものではない。たとえば「排泄物の量を1割にしたから」といって口に入れるだろうか? 発がん性物質は一切摂取しないことが大切なのだ。
連載のおわりに:地球規模でタバコの問題を考える
世界保健機関(WHO)は毎年5月31日を「World No Tobacco Day(タバコをなくす日)」と定め、タバコの害をなくすキャンペーンを行っている。
2022年のテーマを「Tobacco: Threat to Our Environment (タバコは地球環境への脅威)」として、タバコの製造のために毎年6億本の樹木が伐採され、8,400トンの二酸化炭素の放出、2,200万トンの水が汚染されることが動画で紹介されている。タバコは人類だけでなく、地球にも悪影響があることが強調されたテーマであった。
WHO「World No Tobacco Day 2022」
WHOのホームページは英語なので、日本語で解説された日本呼吸器学会のホームページを参照してほしい。
タバコは栽培、製造、消費、廃棄のすべての過程が環境汚染に繋がっていることだけでなく、新型コロナの感染と重症化のリスクであることも解説されている。
3回の連載では身近な問題を取り上げてきた。温暖化、水質汚濁、SDGs、ESG投資などに関心・関わりがある人が喫煙することは矛盾する行為である。
タバコの存在について地球規模でも考えてみよう。おのずと進むべき道が見えてくるはずだ。
「職域の「禁煙」を確実に進めるために
―「喫煙」対策の最新情報と「禁煙」の実践紹介―」もくじ
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