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産後うつと関連して対児愛着が悪くなる 母親を早期支援し「ボンディング障害」を予防

 母親の対児愛着は産後うつと関連して悪くなることが、富山大学が実施している「エコチル調査」から明らかになった。
 産後1ヵ月時の母親の産後うつと子どもへの愛着指標の関連を調査した結果、産後うつは「育児不安」「母親感情の欠如」といった感情と関連が深いことが分かった。早期の対応により、ボンディング障害を予防できる可能性がある。
7万人強の母親を対象に調査
 母親は出産後、自然とわが子に愛情を抱き世話をしたいという「対児愛着(ボンディング)」の感情をもつことが一般的だ。しかし、自分が産んだ子どもを愛せない・世話をしたいと思えない「ボンディング障害」という症状に苦しむ母親も少なくない。

 このボンディング障害は虐待やネグレクトにつながり、子どもの成長や発達にも悪影響を与える場合もある。これまで、ボンディング障害は産後うつの発症と同時に起こる例が多いことが知られているが、その実態については不明の点も多い。

 そこで富山大学の研究グループは、エコチル調査に参加している約7万6,000人の母親の産後1ヵ月時のボンディングと産後うつの程度を評価し、関連を調べた。

 約7万6,000人の母親を対象にボンディング障害について調べたのは世界ではじめて。

関連情報
子どもの健康と環境に関する全国調査
 「エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)」は、2010年度に開始された大規模かつ長期にわたる疫学調査。妊娠期の母親の体内にいる胎児期から出生後の子どもが13歳になるまでの健康状態や生活習慣を2032年度まで追跡して調べることとしている。

 子どもの健康にどのように影響するのかを明らかにし、「子どもたちが健やかに育つ環境をつくる」ことを目的に実施されている。

 エコチル調査は、国立環境研究所に中心機関としてコアセンターを設置し、国立成育医療研究センターにメディカルサポートセンターを設置し、各地域の15の大学に拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに実施されている。

 富山大学は、富山市、滑川市、魚津市、黒部市、入善町、朝日町を調査地区とする「富山ユニットセンター」として、エコチル調査に参加している。
「ボンディング」スケールで調査
 母親が子どもを愛し、世話したい、守りたいと思う情緒的絆は、一般的に「ボンディング」と呼ばれる。この感情を評価するために、英国で開発されたのが「Mother-Infant Bonding Scale」。

 各質問は赤ちゃんへの肯定的・否定的な気持ちを尋ねるもので、0・1・2・3点の4件法で回答し、各回答からの得点で評価する。点数が高いと否定的な感情が強いとみなす。

赤ちゃんへの気持ち質問票
(1)赤ちゃんをいとおしいと感じる
(2)赤ちゃんのためにしないといけない事があるのに、おろおろしてどうしていいかわからない時がある
(3)赤ちゃんの事が腹立たしく嫌になる
(4)赤ちゃんに対して何も特別な気持ちがわかない
(5)赤ちゃんに対して怒りがこみあげる
(6)赤ちゃんの世話を楽しみながらしている
(7)こんな子でなかったらなあと思う
(8)赤ちゃんを守ってあげたいと感じる
(9)この子がいなかったらなあと思う
(10)赤ちゃんをとても身近に感じる
「育児不安」「母親感情の欠如」がボンディングに影響
 研究グループはボンディングについて、赤ちゃんへの気持ち質問票からの5つの質問項目を用いて評価した。また、産後うつについてはエジンバラ産後うつ病質問票を用いて評価した。

 産後、10~15%の母親にうつ病の症状があるとみられており、とくに産後1ヵ月ごろに多く発症するのが「産後うつ」。エジンバラ産後うつ病質問票は、産後のうつ症状を簡便にスクリーニングするため開発された10項目からなる質問票。各回答からの得点で評価し、点数が高いと抑うつ的な感情が強いとみなす。

 まず、約7万6,000人の母親全員の赤ちゃんへの気持ち質問票の回答をもとに、5つの質問がどのような回答の傾向を示すか因子分析を用いて検討した。その結果、2つの質問からの回答が「育児不安」の傾向を、3つの質問からの回答が「母親感情の欠如」を示すことが明らかになった。

 そこで、ボンディングのこれらの指標と産後うつの指標の関連を調べたところ、「育児不安」と「母親感情の欠如」のいずれについても関連があることが明らかになった。

 これにより、産後うつに対して早期の対応をすることによって、ボンディング障害を予防する可能性があることが示唆された。
出産・育児経験を経ることでボンディングと産後うつが改善
 次に、2回参加されている約3,700人で、ボンディングおよび産後うつの指標が、上の子と下の子の出産後でどう変化するかサブ解析を行った。その結果、それぞれの総得点は、下の子の出産後で改善した。また、「育児不安」「母親感情の欠如」を示す指標についても、下の子の出産後で改善した。

 「出産・育児経験を経ることでボンディングと産後うつの指標が改善し、とくに育児における"不安"の感情が和らぐことが示唆されました。はじめての出産を迎える妊婦さんには、出産前に赤ちゃんと触れ合う体験を増やすことで、育児不安を軽減できる可能性があります」と、研究者は述べている。

 一方で、「今回の研究は実験的なものではなく、観察研究であるため、限界があります。今後は、産後うつへの早期介入や、初産婦さんや未婚の女性への育児体験プログラムを提供するといった研究を積み重ねて、さらに検証していく必要があります」と付け加えている。

 研究は、富山大学医学部公衆衛生学講座の土田暁子助手らのグループによるもの。研究成果は精神医学系専門誌「Journal of Psychiatric Research」に掲載された。

環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」
富山大学 エコチル調査
Changes in the association between postpartum depression and mother-infant bonding by parity: Longitudinal results from the Japan Environment and Children's Study(Journal of Psychiatric Research 2019年1月5日)
[Terahata]
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