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運動が身体の炎症・老化を抑制するメカニズムを解明 骨に加わる力が炎症を抑制

 東京都健康長寿医療センターは、骨の健康を維持するために、運動による骨に加わる力(衝撃)が、骨細胞での炎症や老化を抑制するメカニズムを分子レベルで明らかにした。全身にある「間質液」の動きを促すことが運動の本質だという。
運動は全身の炎症を抑制する
 研究は、東京都健康長寿医療センターと国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部分子病態研究室、シンガポール国立大学などとの共同研究グループによるもの。

 骨粗鬆症は、骨がスカスカの状態になってもろくなる病気。女性は男性の3倍、骨粗鬆症になりやすいという報告があり、男性でも高齢になるほど患者数は増える。

 とくに立った脚の付け根(大腿骨頚部)の骨折は、歩行能力を損ない、生命維持に影響を与える深刻なもので、認知機能にも障害をもたらす。

 骨粗鬆症をはじめ、ほとんどの加齢性の疾患・障害に「適度な運動」が有効であることが分かっている。加齢にともなう運動不足は、筋萎縮や、糖代謝障害(糖尿病)・心血管障害などの二次障害を引き起こす。

 糖尿病などの生活習慣病や認知障害などの加齢性の慢性疾患に、炎症が深く関与している。運動には、身体のほとんどの臓器・組織で炎症を抑制する効果があるとみられている。

関連情報
「適度な運動タンパク質」が全身の健康維持に役立つ
 研究チームは、運動で生じる骨への「力(衝撃)」が、体の力を感知する分子に作用し、組織・臓器の炎症や老化に関与するタンパク質の活性を抑制し、骨の強度・密度を維持することを発見した。

 間質液とは、細胞を浸す液体で、細胞外液のうち血液とリンパ管の中を流れるリンパ液を除く体液。量は血液の4倍を占め、細胞外液としては圧倒的に多い。

 研究グループは、適度な運動の炎症抑制効果をとりもつタンパク質、すなわち「適度な運動タンパク質」があり、そのタンパク質の機能が組織液の流動でコントロールされていることを発見した。

 「1日10分間の運動で骨に衝撃を与えることが、骨、さらには身体の健康維持に役にたつ可能性が考えられる」と述べている。

 「適度な運動タンパク質」の機能あるいは組織液の流動を操作・制御することによる骨粗鬆症さらには全身の臓器の機能低下の治療・予防法の開発につながる可能性がある。

 間質液の動きを促進することが健康維持法としての運動の本質であり、「運動ってなんだ」という問いへの答えにつながるという。どんな運動を1日どのくらい、1週間に何日行えば、健康維持、抗老化になるのかといった健康寿命延伸へ向けた重要な問題の解決にもつながるとしている。
運動の炎症抑制・抗老化効果を解明

 研究グループは、普通に運動をしているマウスで、力を感知するタンパク質Casが骨細胞の核内に分布し、細胞・組織の炎症・老化に関与するタンパク質NF-κBの活性が低下することで、骨破壊へのプロセスが抑制されていることを発見した。

 マウスの片方の後ろ足の運動性を低下させ、マウスが歩く、走るなどした時に骨に加わる衝撃を弱めたところ、骨細胞でCasが核外に分布し、NF-κBの活性を低下させることができず、骨破壊へのプロセスが活性化され、骨量が減少することがわかった。また、骨細胞でCasが欠損する遺伝子改変マウスでは、普通に運動している状態でも、骨に衝撃が加わらない状態と同様に骨量が減少していた。

 骨に衝撃を与えた時に起きる骨内の組織液(間質液)の流動で骨細胞に加わる力学的刺激を培養骨細胞に加えたところ、Casが核内に分布しNF-κB活性を低下させ、破骨細胞分化へのプロセスを抑制していた。この培養骨細胞への10分間の力学的刺激の効果は、その後24時間以上持続したという。

 骨への衝撃の効果だけでなく、骨以外の組織でも「間質液流動→細胞に力学的刺激→Casが核内に分布→NF-κBの活性抑制」という分子の仕組みが、運動の炎症抑制・抗老化効果に関与しているという。

 今回の研究は、間質液の動きを促進することが健康維持法としての運動の本質であり、障害などで運動できない人にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性がある。

東京都健康長寿医療センター研究所
Mechanical regulation of bone homeostasis through p130Cas-mediated alleviation of NF-κB activity(Science Advances 2019年9月25日)
[Terahata]
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