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睡眠を十分にとれないと肥満や糖尿病が悪化 日本人は睡眠が足りていない こうすれば解決できる

 睡眠を十分にとることが、肥満や糖尿病をより良くコントロールするために必要だ。
 睡眠不足が続くと、血糖を下げるホルモンであるインスリンの作用を得られにくくなり、認知機能にも悪影響があらわれるという研究が報告されている。
 具体的な解決策も提案されている。1日の中で、座ったまま過ごしたり不活動の時間を1時間減らして、その分を睡眠にあてるとメンタルヘルスが改善するという研究が発表された。
睡眠時間が6時間未満の人が4割
 日本人の睡眠時間が短いことが問題になっている。厚生労働省の2019年「国民健康・栄養調査」によると、「睡眠時間が6時間未満」の人の割合は、男性 37.5%、女性 40.6%に上る。とくに男性の30代、40代、50代、女性の40代、50代で、「睡眠時間が6時間未満」が4割を超えている。睡眠不足は深刻だ。

 睡眠は、単に休息をとったり眠気を解消するために必要なだけではなく、自律神経やホルモンバランスの調整、免疫機能の増強、記憶の定着や脳の老廃物の除去などのためにも必要だ。

 適切な睡眠をとらないでいると、2型糖尿病、肥満、高血圧といった生活習慣病だけでなく、精神疾患、感染症、認知症などのリスクも高まることが知られている。
睡眠不足が3日続くと体に異変が
 睡眠不足が3日続くと、肥満や糖尿病に悪影響を及ぼすおそれがある。睡眠の質を高めることが、血糖コントロールを改善するために必要だと考えられている。

 米シカゴ大学の研究チームは、18~30歳の健康な男性19人を対象に、4日続けて約8時間の睡眠をとるパターンと、4日続けて4時間強の睡眠をとるパターンで過ごしてもらう実験を行った。

 その結果、睡眠不足が4日続いた男性では、深夜と早朝に遊離脂肪酸が15~30%上昇し、早朝まで高濃度の状態が5時間続くことが分かった。

 遊離脂肪酸は、脂肪細胞内に蓄えられた中性脂肪が分解され、血液中に放出されたもの。体を動かすエネルギー源になるが、血中の濃度が高まると、肥満や2型糖尿病、脂質異常症などを悪化させる要因になる。
睡眠不足が続くとインスリンの働きが低下
 遊離脂肪酸が多いと、血糖を下げる働きをするインスリンに対する反応が鈍くなる「インスリン抵抗性」も起こりやすくなる。今回の研究でも、睡眠が不足している人では遊離脂肪酸が増え、インスリンの働きが23%低下することが分かった。

 つまり、睡眠不足が続くと、肥満や2型糖尿病を悪化させやすい状態におちいることが分かった。今回の実験では短い睡眠を4日間続けてとってもらったが、3日目でその影響ははっきりあらわれたという。

 「睡眠不足により、重要なホルモンであるインスリンの作用を得られにくくなり、2型糖尿病のリスクが高まることが分かりました。十分な睡眠をとることで、肥満や糖尿病のリスクを打ち消せる可能性があります」と、ジョンズ ホプキンズ大学の睡眠の専門家であるジョナサン ジュン氏は言う。
良い睡眠をとれないと認知機能も低下
 米イリノイ大学の研究によると、糖尿病の人や糖尿病予備群が質の良い睡眠をとれないでいると、認知機能が低下するおそれがある。

 「加齢にともない、体が血糖値を正常に保つ能力を示す耐糖能は低下し、2型糖尿病を発症しやすくなります。糖尿病の治療を適切に行っていないと、認知機能も低下しやすいことが知られています。今回の研究では、これに睡眠の障害が加わると、認知機能にさらに深刻な影響があらわれることが示されました」と、イリノイ大学医学部糖尿病・代謝学のシリモン ロイトラクル氏は言う。

 研究グループは、2型糖尿病患者81人と、糖尿病予備群81人、計162人の参加者(平均年齢54.8歳)を対象に、睡眠と覚醒の時間が記録できるアクチグラフを7日間装着してもらい、睡眠の時間と効率を調べた。

 参加者の平均睡眠時間は1晩6時間で、睡眠効率の平均は82.7%だった(ベッドで過ごす時間のうち睡眠に費やされたのが82.7%ということ)。

 認知機能を評価するための検査法である「MoCA」で調べたところ、睡眠効率が低下している糖尿病と糖尿病予備群の人では、認知機能が低下している傾向がみられた。

 「糖尿病患者や糖尿病予備群の睡眠を改善することが、認知機能の改善につながる可能性があります」と、ロイトラクル氏は述べている。
座位時間を1時間減らして、その分を睡眠にあてるとメンタルヘルスが改善
座位行動や低強度身体活動の時間を1日当たり60分減らして、睡眠にあてると、メンタルヘルスが不良になることが11~26%程度低くなる
出典:明治安田厚生事業団体力医学研究所、2020年

 睡眠を改善するために、具体的にどうすればよいのか。日本人を対象とした研究で、日常生活で座ったまま過ごす時間を1時間減らして、その分を睡眠にあてると、メンタルヘルスの不良が11~26%減少することが明らかになった。

 これは、明治安田厚生事業団体力医学研究所の北濃成樹氏らが、「明治安田ライフスタイル研究」(MYLSスタディ)で明らかにしたもの。

 研究グループは、2017~2018年にMYLSスタディに参加した勤労者1,095人に、活動量計を装着してもらい、1日の身体活動量や座位行動時間を測定した。さらにメンタルヘルスについて、心理的ストレス調査票(K6)とワーク エンゲイジメント尺度(UWES)で評価した。

 その結果、「睡眠時間が短いこと」と「座位行動や低強度身体活動の時間が長いこと」が、メンタルヘルスの不良と関連していることが示された。
誰にとっても1日は24時間 睡眠時間を確保する工夫を
 さらに、これらの行動を変化させた場合のメンタルヘルスへの影響について予測したところ、座ったまま過ごす時間などを1日に60分減らし、その分を睡眠にあてると、メンタルヘルスの不良が11~26%改善されることが明らかになった。

 「勤労者のメンタルヘルスを管理するために、平日に適切な睡眠時間を確保することが重要であることが確認されました。海外の研究では、座位行動を減らして運動(身体活動)を増やすことが、良好なメンタルヘルスと関連すると報告されています。しかし、世界的に睡眠時間が短い人が多い日本では、行動変容の優先度は睡眠が高いものと考えられます」と、研究者は述べている。

 「1日は24時間と決まっているため、睡眠を増やすには、座位行動などの別の時間を同じだけ減らす必要があります」。

 「職場での座業、余暇時のテレビ視聴やパソコン利用など、座ったまま過ごす時間を見直し、睡眠時間を十分に確保する取組みが必要と考えられます」と強調している。

New study helps explain links between sleep loss and diabetes(シカゴ大学 2015年2月19日)
Sleep restriction increases free fatty acids in healthy men(Diabetologia 2015年2月22日)
https://today.uic.edu/poor-sleep-efficiency-linked-to-lower-cognitive-functioning-in-people-with-diabetes-and-prediabetes(イリノイ大学 2018年6月6日)
The relationship between sleep and cognitive function in patients with prediabetes and type 2 diabetes(Acta Diabetologica volume 2018年6月6日)
明治安田厚生事業団体力医学研究所
Compositional data analysis of 24-hour movement behaviors and mental health in workers(Preventive Medicine Reports 2020年12月)
[Terahata]
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