オピニオン/保健指導あれこれ
「働く母1000人実態調査~健康×子育て×働き方」を実施して ~働きながら、安心して妊娠・出産・子育てができるために~

No.5 働く母1000人の自由記述からみた「働く母が求めていること」

(株)ウェルネスライフサポート研究所 代表取締役、保健師
加倉井 さおり

働く母1000人の自由記述の声から

 今回の実態調査では「働く母が心も体も健康に働き続ける上で必要なことは?」という問いに対する自由記述をしていただきました。その自由記述の中で、働く母が求めているものについて紹介していきます。

 働く母1000人の声の多くが、長文であったことにまず驚きました。それだけ、現状の改善を訴えたい、求めていることが多いことの表われなのではないかと思います。

 その内容を分類すると、大きく5つのことに大別できました。それは、①企業・職場に対して②社会や周囲の人に対して③夫またはパートナーに対して④国・行政に対して求めること⑤働く母自身に対して求めることでした。以下、それぞれの内容を紹介いたします。

①企業・職場に対して求めること
②社会や周囲の人に対して求めること
③夫またはパートナーに対して求めること
④国・行政に対して求めること
⑤働く母自身に対して求めること

「働く母が心も体も健康に働き続ける上で必要なこと」とは

 企業・職場に対する要望としては、制度を導入するだけでなく、使いやすい風土づくりが重要であるという意見が多く寄せられました。また、働く母だけでなく夫またはパートナーの職場での子育てしやすい働き方や制度・風土を求めていることが分かります。

・働き方、働く時間の選択肢を増やしてほしい。子供といる時間をもっと長く取りたいため時短制度を延長したい
・男性側も子どもの病気等で気軽に休める環境が整ってほしい
・子供の体調不良で突然休まなければならないことへの会社の理解が必要
・まだまだ古い考え方を持った人が多い。職場の人事部などは特に専門的な講習を受ける制度を義務化してもらい、強制的にでも知識をつけてもらいたい
・乳幼児期は時短勤務がとれること、育児休暇は期間いっぱいまでとれるようになってほしい
・職場、上司、同僚の寛容性、制度があるだけではなく、実際に使いやすいこと
・在宅勤務・リモートワークの充実化

 夫またはパートナーからの理解と協力を求める声は多く、「男性の意識改革が必要」「夫婦の家事育児分担の見直しが必要」「夫またはパートナーには主体的、積極的、自発的に家事育児に参加してほしい」という声が多くありました。

・夫が家事や子育てを「手伝う」ではなく「やって当然」だという意識を持つこと
・パートナーには、出来る限りの家事・育児などの分担してもらいたい。全てを母が担うのでは働き続けるのは難しい
・まずは夫の理解。家事・育児は夫が「手伝う」ものではなくて夫婦2人で行うものという意識を持ってもらい、夫も主体的に取り組むようになること
・夫の協力が必要。平日の家事の負担を減らしてもらえると心にも体にも余裕ができると思う
・夫・パートナーからの思いやり、察する気持ち
・夫婦で話し合うことが必要だと思う

「周囲」の理解と協力が必要

 総務省の「平成 28 年社会生活基本調査」によると、6 歳未満の子どもをもつ夫婦の家事・育児関連時間は、女性の週全体の平均は 1 日あたり約7時間34分、これに対し男性は 1 時間23分と、圧倒的に短く、国際比較でも日本の男性の家事・育児時間は少ないことが分かっています(※1)。

今回の調査結果の自由記述からも、具体的に家事育児に参加する行動を求めていることが明らかです。

 この他にも、「夫またはパートナー以外からの理解や協力が必要である」という声の中に「周囲の理解と協力」という言葉も多くありました。この「周囲」というのは誰を指しているのでしょうか。

・社会に対して子供をもつ前の自分自身を含め、子供を育てるということの大変さが理解されていないように思う。何が大変なのか、もっと広まればいいなと思う
・女性だから母親だから全部完璧になんでもしなければいけないという周囲の意識が変わっていく社会
・保育園に預けることに「まだ小さいのに…」など罪悪感を感じるようなことを言われる時があるが、もう少し社会からの理解があっても良いと思う
・育児や家事の女性負担がまだ多いので、周囲のフォローや意識改革が必要と感じます
・夫婦ともに育児に協力できる環境。子供の保育園の送り迎えや子供の突発的な発熱のときは妻が行うことが当たり前だと認識されているこの国の現状を変えてほしい
・共働きになれば母親がどうしても大きな負担を強いられることが多いと思うが、母親もひとりの人間であり、心が休まる時間が必要、と周囲の人に理解してもらえればと思う
・学校行事やPTA活動の負担が少なくなること
・子どもを預けられる場所や情報、サービスがほしい
 毎日長時間一緒に過ごしている職場の人はもちろん、夫またはパートナー以外の家族(両親)や親せき、近所の人や会社の人、保育園や学校関係者、また地域で暮らす中で出会う人など広く指していると考えると、社会全体への仕事をしながら働く母への理解と協力を求めていることが考えられます。

 国や行政に対する子育て支援や働き方の制度の見直しの意見も多数あり、さらなる男女共同参画社会を目指す取り組みを推進していく必要があります。

・育休、産休も無給の時があったり、経済的にも精神的にも辛く、早く仕事復帰せざるを得ない状況があった
・もう少し、子育てに対する支援が増えると働く時間を短くしても家計がなりたつと思う。経済的に今の状況だと、子どもと一緒にいる時間を減らして働かざるを得ない
・賃金を上げて、待機児童、小学校の学童を充実させて子供を産むことの負担より喜びを感じられるようにして欲しい
・待機児童問題、病児保育の充実、夫の職場の理解、ファミリーサポートの充実など、現在のサポートがもっと充実すれば、育児と仕事はもっと両立しやすくなるはず
・待機しなくてもいいだけの保育園の数や希望したところへ入園できるようにしてほしい
・病児保育の数を増やすことや時間延長をしてほしい
・リモートワーク、時短制度が使えるよう国から会社に対しての強い働きかけ
・父親の育休を義務化して、また、急な体調不良にも父親が融通を効かせて休む様にして欲しい

 そして、働く母自身に対しても頑張りすぎず周りにサポートを求めることや心構えも記載され、仕事と育児の両立への工夫や覚悟が感じらました。また心と体の健康管理の必要性も挙げられています。

・母親の方も子育てしているから当然、子供といるから当然という傲慢態度ではなく周りの協力があるからこそやっているという、劣等感ではなく謙虚な気持ちも必要
・仕事も家事育児も全部完璧にするのは難しいので、無理しすぎないで人を頼り色々なサービスを使うこと
・無理しすぎない。なかなか自分のことに時間をかけられないが、病院など早めに行く
・睡眠時間を確保し休める時は休む
・ストレスをためないようにし、自分の自由な時間も持つこと
・周りの情報に流されず、自分で自分にOKを出してあげることが大事

 これらの自由記述からも、働く母の心身の健康には自身の健康管理だけでなく、職場やパートナーの理解と協力が必須ということが言えます。

 夫またはパートナーの協力が少なかったり、賃金が少ないと感じていたり、家庭内生活にストレスを感じている場合、疲労の蓄積が大きくなる傾向が認められ、一方,家族生活でのストレスが低い場合は疲労の蓄積は軽減していたという研究もあります。(※2)

 また妊娠中の女性の心理的健康度は、夫婦関係が良好で夫またはパートナーからのサポートが得られている場合に安定し、不安の軽減につながることも知られています。(※3)

 今回の調査結果からも、心身の不調を抱えながら働く母が多い実態であり、夫またはパートナーの理解と協力を求める自由記述が多くありました。

 このことからも家庭内でのストレス軽減を図るには、働く母のモノの見方や考え方を変えるストレス対処法だけではなく、夫またはパートナーが家庭内で具体的な家事、育児の行動をすることが必要です。

 現在、新型コロナの感染拡大の影響を受けて、さらに働く母の不安は大きくなっていると考えられます。働き方も大きく変わっていく中で、企業として、また個人として考え行動できる体制の構築が不可欠であると考えます。その具体的な取り組みへの提言を最終回にお伝えしたいと思います。

【参考】
(※1)内閣府男女共同参画局.「平成 28 年社会生活基本調査」の結果から~男性の育児・家事関連時間 http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_42/pdf/s1-2.pdf(2019年8月30日アクセス)
(※2)石川ひろの,山崎喜比古.職業及び家族内状況がダブルインカム家庭の有職母親における疲労蓄積に及ぼす影響.
(※3)小泉智恵,福丸由佳,中山美由紀,無藤隆.妊娠期の女性の働き方と心理的健康.お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要.2007;4:1-13.The Journal of Science of Labour (Part II) .2000;76(3):1-15.

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