オピニオン/保健指導あれこれ
「働く母1000人実態調査~健康×子育て×働き方」を実施して ~働きながら、安心して妊娠・出産・子育てができるために~

No.2 働く母の健康状態

(株)ウェルネスライフサポート研究所 代表取締役、保健師
加倉井 さおり

調査結果からみた「働く母の健康状態」

 今回は、先行研究をもとに行ったプレテストの上位25症状について、仕事を続ける中で悩んだり困った経験があるかどうかを「妊娠中」「育休復帰後」「現在」で調査をしました。

【妊娠中】
 妊娠中に、仕事を続ける中で何かしらの症状で悩んだり、困った経験がある人の割合は93.3%でした。これは「中小企業における母性健康管理に関する通信調査」1)における妊娠中に出た身体的な症状や精神的な症状の有症割合が、77.1%から83.3%であったことと比較すると高い結果でした。

 症状については、1位「つわり」(55%)、2位「下腹部の張り」(40.3%)、3位「疲労感」(39.3%)、4位「仕事中眠気に襲われる」(35.3%)、5位「腰痛」(32.1%)という結果であり、つわりで悩む人は半数以上でした。このことから、就労上、妊娠中のマイナートラブルを多くの働く母は抱えていることを理解した上での職場の環境や対応は重要であると考えます。

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【育休復帰後】
 育休復帰後、仕事を続ける中で悩んだり、困った経験があった人の割合は86.4%という結果でした。

 症状は、1位「疲労感」(39.9%)、2位「肩こり」(31.3%)、3位「へとへとだ(運動後を除く)」(29.5%)、4位「朝起きた時にぐったり疲れを感じる」(26%)、5位「イライラする」(24.9%)。これらのことから、育休復帰後は身体的な症状だけでなく、精神的な症状もうかがえます。

【現在】
 現在、仕事を続ける中で何かしらの症状で悩んだり、困った経験がある人の割合は82.2%であり、先行調査『平成29年度「働く女性の健康推進」に関する実態調査(経済産業省)』の「勤務先で女性特有の健康課題や症状で困った経験の有無」であるという回答比率 51.5%よりも高い結果となりました。

 症状は、1位「肩こり」(36.2%)、2位「疲労感」(33.4%)、3位「イライラする」(24%)、4位「腰痛」(23.6%)、5位「朝起きた時にぐったり疲れを感じる」「へとへとだ(運動後を除く)」「頭痛」(21.3%)でした。

 このことから、子育てしながら働く母は、妊娠中や産後だけでなく、日常的に心身の不調を抱えながら働いていることが分かります。長く継続して働き続けていく上でも、健康支援の体制を整えていく必要があると考えます。

心身の不調への対処

【体に不調を感じた際の対処】
 体に不調を感じた際、どのように対処しているかを調べたところ、1位「病院に受診をする」(48.7%)、2位「家族に相談をする」(32.1%)、3位「何も対処していない」(26.8%)でした。

 「上司に相談をする」(4.6%)「会社の保健師・看護師・産業医に相談をする」(3.9%)などの職場への相談は非常に少ない結果に。

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【心に不調を感じた際の対処】
 心に不調を感じた際にどのように対処しているかを調べたところ、1位は「家族に相談する」(42.6%)、2位「何も対処していない」(37.9%)、3位「同僚や友人に相談する」(29.9%)であった。「病院に受診をする」は(10.4%)と非常に少なく、体の不調時には病院を受診しているものの、心の不調時には医療機関を利用していない結果でした。

 また「上司に相談する」(3.9%)「会社の保健師・看護師・産業医などに相談する」(2%)は、体の不調を感じた時の対処と同様に少ないことが分かりました。

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 体の不調も心の不調も、企業の産業保健スタッフに相談する割合は少なく、企業内での健康支援を活用してもらえるような取り組みと合わせ、本人が必要な正しい情報を得て選択できる力「ヘルスリテラシー」を高める取り組みも重要であると考えます。

復帰前に心や体のことで知っておけば良かったと感じること

 「職場復帰前に、心や体のことで知っておけば良かったと感じること」があったと回答のあった人(125名)の自由記述を分類しました。

 「メンタルヘルスケア」「産後の心身の変化」に関することなど、仕事復帰する前に知っておきたかったという情報獲得のニーズが高いことが分かりました。

 この他、心と体のこと以外にも「もっと母親教室にいけば良かった」、「実際に復帰されている同僚の方にアドバイスをもっと求めればよかったと思う」などの声もあり、「仕事と育児の両立ノウハウ」に関することも「復帰前に知っておけばよかったこと」としての記載が多くありました。これらのことも踏まえ、地域や企業での健康支援や教育研修を考えていく必要があると考えます。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて想う働く母への支援

 今、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、働く母の状況は大きく変化しています。職業によっても違いはありますが、新しいライフスタイルとして在宅勤務が進むことになれば、在宅勤務だからこその健康支援も必要になると思います。またこのような状況下で先行きの見えない不安や子育てとの両立の悩みの声も聞こえています。

 今回の調査結果では妊娠中、育休復帰後、現在に至るまで心身の不調を抱える働く母は8割を超えていました。それだけ多くの働く母が心身の不調を感じながら仕事と子育てをしていることを理解して企業側も対応していく必要があると思います。

 4月には厚生労働省からも、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた妊娠中の女性労働者等への配慮について要請がありましたが、これを機会に各企業で働く女性の健康支援も見直して欲しいと思っています。

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 そして今回の調査結果では、心身の不調を抱える働く母は8割を超えていながらも、会社の保健師等に相談している割合は非常に少ない現状ということも気になる点です。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大の状況で、働く母がどのくらい保健師や看護師を頼りになる存在として活用していてくれただろうか、ということも考えています。

 働く女性達に身近で安心して相談してもらえ、また情報を提供し必要な場にも繋げていけるプラットホームとしての存在として、産業保健職が役割を果たしていくことを期待していきたいと思っています。

【関連資料】
平成30年度 中小企業における母性健康管理通信調査結果 報告書((財)女性労働協会)
平成29年度「働く女性の健康推進」に関する実態調査(経済産業省)
職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた妊娠中の女性労働者等への配慮について要請(厚生労働省)

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