オピニオン/保健指導あれこれ
「働く母1000人実態調査~健康×子育て×働き方」を実施して ~働きながら、安心して妊娠・出産・子育てができるために~

No.3 就労環境と母乳育児

(株)ウェルネスライフサポート研究所 代表取締役、保健師
加倉井 さおり

職場復帰時に母乳育児をしていた人は約半数、
そのうちの半分以上が乳房トラブルでつらい経験をしている

 母乳は乳児にとっての栄養面だけでなく、母子の精神安定や母親の健康維持への効用もあり、日本でも近年改めて見直されています。そのような背景もあり、平成27年度乳幼児栄養調査によると、10年前に比べ母乳栄養の割合が増加し、混合栄養も含めると母乳を与えている割合は、生後1か月で96.5%、生後3か月で89.8%となっています。

 さらに、1年未満で職場復帰した人については約半数が母乳栄養のみ、35%が混合栄養をしていると報告されており、この10年間で母乳を与えながら働く母は約10%程度増えてきている状況です。

 このことからも、職場復帰時に母乳育児を継続している人が今後も多くなることが予想されます。職場環境整備や健康支援を考える必要があると考え、母乳育児をしながら働く母の実態を調査しました。

 育休から職場復帰していた時、母乳育児をしていた人の割合は50.9%であり半数を超えていました。また復帰後に、乳腺炎になったり、乳房が張ったりなどで辛かったという人はそのうちの52.3%であり、母乳育児をしていた人のうち半数以上の人が辛い経験をしていることが分かりしました。

乳房トラブルと搾乳場所の悩み 7割はトイレを利用

 今回の調査では、職場で搾乳はしなかった人は254人(48.5%)、職場で搾乳をしていた人は299人(51.5%)でした。職場での搾乳を行っていなかった69人(25.2%)は、仕事中に乳房が張ってつらい思いをしたり、乳腺炎になったりしていました。

 また、母乳を絞る場所で悩んだ経験がある人177人のうちの18人(10.2%)は職場での搾乳をしなかったと回答しています。

 今回の調査から、搾乳しなくても問題なく仕事をできた人もいたようですが、搾乳できる場所がなくて我慢していた人もいたことが分かりました。

 搾乳を必要とする頻度は人によって差がありますが、授乳をしている人の場合、定期的にしぼらなければ乳房が張って辛い、あるいは乳腺炎の原因にもなります。また、張っている状態を放置すれば母乳は出なくなってしまうリスクもあります。

 そのため、搾乳をするということは重要なセルフケア行動です。今回の調査では、搾乳した人たちの7割は「トイレ」を利用していた状況でした。このことからも、職場復帰後に母乳育児をしている人は、乳腺炎などでつらい経験をしながら、搾乳場所も整っていない中で仕事を継続していることが分かりました。

 筆者自身も3人の子どもの育休復帰後に、母乳育児を継続していましたので、同じように搾乳場所に悩んだ経験があります。同じようにトイレで搾乳したことは約20年たった今でもなんとも言えない、やるせない想い出となって残っています。

 そのような体験からも現状はどうなっているかを調査したのですが、今でもまだまだ働く母に優しい職場環境が整備がされていない社会の実態に驚くと共に、残念な気持ちでいっぱいでした。

 平成27年度乳幼児栄養調査によると、出産後1年未満の母親の就業状況別に母乳栄養の割合をみると、出産後1年未満については、仕事に戻った人のうち母乳育児をしていた人が49.3%、働いていないあるいは育休中の人で56.8%です。

 特に出産後1年未満に働いていた人について、母乳栄養の割合がこの10年間で22.6ポイント増加しています。このような調査からも、職場復帰の時期によっては母乳育児を継続する人や継続したい人も一定数いることが考えられます。

 今回の調査結果でも、母乳育児をしながら職場復帰する人は半数を超えている現状を考えると、出産前の病院や助産院での健康教育だけでなく、社内に保健師等がいる場合は、出産前後での相談による支援も必要であると考えます。

 在宅勤務にシフトしている職場も多くなっていると思いますが、企業においては搾乳場所の環境整備も考慮し、働く母への情報提供もしていく必要があると考えます。

【関連資料】
平成27年 乳幼児栄養調査第1部概要「乳幼児の栄養方法や食事に関する状況」(厚生労働省)

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