オピニオン/保健指導あれこれ
「働く母1000人実態調査~健康×子育て×働き方」を実施して ~働きながら、安心して妊娠・出産・子育てができるために~

No.6 働く母が心身共に健康で働き続けるためへの提言

(株)ウェルネスライフサポート研究所 代表取締役、保健師
加倉井 さおり

はじめに

 今回の調査を通じて、心身に不調を感じている人は妊娠中、育児復帰後、その後現在に至るまでいずれも多いことが明らかになりました。また、子育てをしながら働くことに罪悪感や不安感などのマイナス感情を抱いており、そのために仕事を続けることに悩みながら働いている母も多く、特に自由記述欄には、社会、職場、夫またはパートナーに対し、理解と協力を求めている数々の切実な意見が寄せられていました。

 この実態を踏まえた取り組みをしていかなければ、心身不調となり、仕事の継続が困難な働く母を増やすことになることが懸念されます。それは企業にとっても、日本社会全体とっても大きな損失になります。働きながら安心して妊娠・出産、そして子育てできる環境づくりをしていくことは、今後の日本の最重要課題であると言えるでしょう。

 そこで、今回の調査結果を踏まえ、「働く女性への健康支援促進」「男女共に学ぶ教育・研修の実施」「子育て社員を支援する働き方・制度の見直し」の3つの提言をしたいと思います。

1.働く女性への健康支援促進

 今回の調査から、妊娠中から育児休業を経て現在に至るまで、仕事をする上で困るような何らかの心身の不調を感じている母は、全体の8割を超えるということが明らかになりました。また、母たちは不調を感じても何も対処していない人が多く、企業における健康支援スタッフの活用も少ないという実態も明らかになりました。

 さらに、多くの母が育児をしながら働くことに罪悪感や、劣等感、不安感、つらさなどのマイナス感情を抱え、夫またはパートナーだけでなく、職場や社会、国にまで理解と協力を求めているという現状が明らかとなりました。

 妊娠出産に関連した心身の変化や母乳育児を継続するためのケアや対処など、なかなか当事者や経験者でなければわからないこともあることから、働く母の心身の不調へのケアや予防と合わせて、女性が健康を促進し維持するために必要な情報にアクセスし、理解し、活用していくための能力「ヘルスリテラシー」を向上させていくことも重要と考えます。

 日本医療政策機構の調査によれば、ヘルスリテラシーの高い女性の方が、QOLが有意に高く仕事のパフォーマンスもが高いという調査結果(※1)もあり、企業の生産性において女性の健康が重要であることが示唆されています。これらのことからも、働く女性のヘルスリテラ―を向上させる健康支援は働く女性側、企業側にとって重点課題であると考えます。

 また、復帰前に知っておきたかった心と体のことについては、「メンタルヘルスケア」「産後の心身の変化」のニーズが高く「母乳・授乳・断乳」「運動」「睡眠」「感染予防」「不調への対策」など多岐に渡っていることが分かり、これらのことは健康教育や研修のテーマとしても考えていきたいことです。

 近年、健康経営(※)が各企業で進められ、健康経営の質をさらに高めるためには、今後は女性の健康についても重要であることが示唆されています(※2)が、働く母の実態や状況を踏まえた健康支援体制を整え、企業と地域の両輪で今後さらに促進していく必要があるでしょう。

 ですが、産業保健スタッフの半数は女性労働者からの相談の対応に困難を感じており、その理由として産業保健スタッフ自身の知識や情報の不足などを挙げているという調査結果(※3)もあります。働く女性の健康支援を促進していく体制を整えていくためにも、保健師等のスタッフがあらゆる場面で女性の健康教育を担っていけるように人材育成をすることも課題であると考えます。

①出産前後のサポートをしていく
・働く母の妊娠中、復帰後、そして現在に抱える不調の特徴を理解した支援や妊娠中、復帰後は特に個別相談の機会を設定)

②企業の人事総務が全社員向けに社内の健康支援の仕組み産業医・保健師等の存在や利用できる
・健康支援サービスを積極的に周知

③罪悪感、不安感などを軽減できるようなメンタルケアに関する健康教育や相談の場の設置

④社内の産業医・保健師等が健康をテーマにした研修セルフケアの教育機会や相談窓口の告知と活用への促進

⑤地域(病院、助産院、保健センターなど)でも働く母への健康支援の促進
・母乳育児の場合、復職前に乳房のケアや相談サポートなど

⑥すべての女性が働き続ける上で必要なライフステージにおける女性のからだの変化やしくみ、更年期、セルフケアなどの知識を提供
・例:年代別の女性の健康セミナーや悩みが多いテーマでの健康教育、また個別相談の場や相談窓口を設置)

⑦地域での働く母への支援サービス等の情報提供

⑧女性の健康支援ができる人材育成や外部機関・人材の活用
・婦人科に関する相談や指導も実施できる様な体制づくり

 地域の病院・助産院・自治体・保健センター等は、働く母にも役立つ両親学級や健診、家庭訪問などのサービスを提供しており、妊娠期~産後、そして育児期と企業内だけではサポートできない部分を直接的にケアできる場です。

 しかし、平日の昼間に実施されることも多いことから、働く母にも利用しやすいような日時設定や、働く母の実情を踏まえた保健サービスの提供が必要になるでしょう。

 男女雇用機会均等法では、妊産婦健診のための時間の確保(法第12条)、妊娠中又は出産後の症状等に対応するための措置(法第13条)を事業主に義務づけています(※4)。企業側も、健診や相談などの保健サービスを利用できるよう休暇への配慮も必要です。

 また企業側では定期健康診断の他、保健指導や個別相談の他、入社時の若い時期から女性のからだのことや妊娠出産についても学べる機会を設けることが、今後のキャリアを考え子育てしながら働くことへの理解にも繋がるはずだと考えます。また、復職前後の面談も個人の心身の状況を把握しケアできるためにも必要でしょう。

2.男女共に学ぶ教育・研修の実施

 今回の調査結果から、「働く母が心も体も健康に働き続ける上で、必要だと思うこと」への自由記述には、パートナー・職場・周囲への「理解と協力」という声が圧倒的に多い結果でした。

 このことから、女性だけではなく、男性や管理職も含めた教育・研修の機会が必要だと考えます。子育て社員だけでなく、全社員に向けたダイバーシティ研修やマネジメント層(人事労務担当者含む)向けの子育て社員の理解と対応を学ぶ研修の実施も必要だと考えます。

 また、働く母に対しては、今回の調査結果を踏まえ、働く母の悩みを具体的に解決できる研修プログラムの提供が求められるでしょう。

 一方的ではなく、グループワークなどで参加体験型や実際の子育て社員の先輩の体験談を聴くなどの工夫も必要です。入社してから結婚前の若い新入社員時代から「誰もが長く安心して働ける職場である」ために知っておきたいこととして教育や研修の機会があることが望ましいと思います。

 働く母だけでなく、子育て中の男性に対する教育や研修の機会は、今回の調査結果からも、家事育児の理解とサポートを一緒にできるような意識と具体的な実践のヒントになるような内容が必要だと考えます。男性も妊娠や産後に起こる女性の心身の変化やコミュニケーションを学ぶことは、自身の子育てだけでなく、マネジメントする側になった時にも必ず役に立つはずです。

 管理職には、今の働く母や父に多い悩みなどをまず知って理解することや、妊娠、出産で起こりやすい症状など女性特有のからだの変化について知ることがマネジメントする上でも重要です。育児休暇などの制度について理解し、母性保護の視点でどのようなことに配慮しマネジメントすることが必要なのかを学ぶことが必要だと考えます。

 また、心身の状況や家庭の状況、サポート体制や本人の働き方への希望や想いは、1人1人違うということにも配慮できることが重要でしょう。

 今回の調査結果からも、職場の理解と協力を求める声が多数あがっていましたが、そのためにはまず管理職がこのような教育研修の機会を通じて、理解し行動できることが不可欠であると考えます。

①女性だけではなく、男性・管理職も含めた研修を実施
・あらゆる研修に健康の視点や働く母の現状や母性保護の視点等を入れた内容を盛り込むべき→働く母、女性の心身の特徴の理解

②マネジメント層向けの子育て社員の理解と対応を学ぶ研修の実施
③子育て社員向け仕事と育児の両立支援セミナーや夫婦参加型セミナーなどの実施
④働く意義や働き方も見つめ、長期のビジョンも描けるようなキャリア支援

3.子育て社員を支援する働き方・制度の見直し

 今回の調査結果から、「職場をやめたい、働き方を変えたい」と思ったことがある人は7割を超えていたことや、「職場の制度の充実度と職場の理解への満足度」は働く母の心身の不調と関連があることが明らかになりました。

 また「パートナーの働き方への満足度」も、働く母の罪悪感、劣等感、不安感、つらさなどのマイナス感情と関連があることも認められました。

 このことから、女性だけでなく男性も子育てしやすい職場の働き方や制度を整えることが必要です。時短制度やリモートワーク、休暇制度なども、制度があっても使いづらい職場の雰囲気や風土をなくしていかなければいけません。

 だからこそ、子育て社員に限らず、すべての人が個人の状況に合わせた選択ができる働き方や制度も企業は見直し整えていくことが必要であると言えるのではないでしょうか。

 また、復帰後も母乳育児をする人の中で、乳腺炎などのトラブルを経験している人も半数を超えていたことから、休憩できる環境を整えることも必要です。就業規則や社内制度を見直し、働き方・休み方などの選択肢を増やすことや男女が平等に子育てに参加できる環境を整えることは、これからの時代、長く安心して子どもを産み育てながら健康に働き続ける上で必要であると考えます。

①男性の育児支援の施策推進
・子育て中の男性も育児参加しやすい職場の理解や制度積極的な男性の育休取得を促す(男性育休必須化)
・子育てのための休暇や時短による待遇に差別ないこと
・マタハラやパタハラ予防の徹底

②制度の見直し
・男女問わず、誰もが、時短制度やリモートワーク、休暇制度など、個人の状況に合わせた「選択の自由度」がある柔軟な対応ができるよう制度の見直し

➂子どもの体調不良での休みにくさを解消するための取り組み

➃休憩できる環境の整備・復帰後に母乳育児をする社員に対する職場の理解・サポート
・搾乳場所の確保や設置、横になって休める休憩場所の用意など

⑤妊産婦が安心して働き続けることができる職場環境の整備と制度の周知
・相談窓口の設置、妊娠中の通勤緩和などの措置、母性保護規定の徹底など

おわりに

 今回の調査では、心身共に不調を感じながらも働く悩める母の実態が浮き彫りになりました。その背景要因として、職場での働き方や制度、パートナーの働き方への満足度も影響を与えていることも明らかになり、これらの調査結果から示唆されることは、心身の健康を支援するための取り組みにとどまらず、女性だけでなく男性も含めた「子育てしながら働く」が当たり前になる社会にするための具体的なアクションの必要性です。

 平成28年に女性活躍推進法が制定され、働く女性は増え共働きが主流となっている中で、働き方改革や健康経営なども企業の取り組みとして注目されています。しかし、まだスタートしたばかりであり、働く母たちが決してその恩恵を受けていない現状が、この調査の中でも明らかです。

 労働人材不足が叫ばれる現代社会において、働く女性が増えていくことが期待されています。しかし、何よりそこで働く女性が心も体も健やかであり、子どもを産み育てながら働き続けることが無理なく当たり前にできる社会であらなければ、「真の幸せな女性の活躍」はあり得ないでしょう。少子化対策だけでなく、健やかな子どもの成長も気になることです。

 そのためにも罪悪感、不安感、劣等感、つらさを感じることなく働けるように「女性自身の意識」だけではなく、企業側の制度を含めた風土、パートナーの理解と男性も家事育児参加しやすい働き方などが、働く母のイキイキとした活躍にも繋がっていくでしょう。

 また、人生 100 年時代と言われる時代、心も体も健康で働き続けられるためにも、働き方改革と合わせ、企業側の働く女性への健康支援体制も健康経営の課題として取り組むことが強く望まれます。働く母の膨大な自由記述は、その期待が込められていることの表われであると受け止めています。

 コロナ禍においては働き方も生活様式も人々の意識も大きく変化している状況を踏まえながら、働く母だけでなく男性側への情報提供や社会全体として取り組めるように提言を続けていきたいと思います。

2021年4月17日(土)オンライン開催!
第1回「働く女性の健康支援スキルアップセミナー」

 また、皆さんの会社では「女性の健康支援」についてどのような取り組みをされていますか?2021年4月より、これから女性の健康支援を推進していく上で、健康支援スタッフがぜひ知っておきたいことをテーマにセミナーを開催する運びとなりました。(※3回1コース)

 健康支援スタッフに限らず、働く女性ならばすべての方に知っていただきたく、人事や労務担当者の方もぜひ学んでいただきたい内容です。またご自身のスキルアップだけでなく、セルフケアや健康な職場づくりにも役立ちます。

 職種や性別問わず受講でき、単発受講&動画受講も可能です。ご興味がおありの方は、ぜひご参加ください。

【開催日】
 第1回:2021年4月17日(土)13時半~16時半
・「知っておきたい 女性のからだのしくみと病気について&ざっくばらんにQ&A」
 講師:赤心堂病院 直林 奈月氏(産婦人科医)

 第2回:2021年5月15日(土)13時半~16時半
・「助産師から伝えたい 妊娠・出産・産後について~産後うつを予防するために~」
 講師:ナチュラル母乳育児相談室 又木 由美氏(アドバンス助産師)

・「人生100年時代に今からやってほしい!ケアエクササイズ」
 講師:村上 けいこ氏(健康運動指導士)

 第3回:2021年6月19日(土)13時半~16時
・「知っておきたい働く女性を取り巻く労働法とハラスメント対応」
 講師:オフィス小宮山 代表 小宮山 敏恵氏(社会保険労務士)

・「働く女性の健康支援の実践事例とポイント」
 講師:(株)ウェルネスライフサポート研究所 代表 加倉井 さおり(保健師)

【受講料】
・3日間1コース:30,000円(税込・資料・動画配信込み)
・単発受講の場合は、1回11,000円(税込・資料・動画配信込み)
※動画受講可能:リアル参加した方にも動画を配信します。

▼セミナーの詳細については下記をご覧ください。

【参考】
※「健康経営」は、NPO 法人健康経営研究会の登録商標。
(※1)特定非営利活動法人 日本医療政策機構.働く女性の健康増進に関する調査 2018 https://hgpi.org/wp-content/uploads/1b0a5e05061baa3441756a25b2a4786c.pdf(2019 年 8 月 21 日アクセス) (※2)経済産業省.平成 31 年 3 月 健康経営における女性の健康の取り組みについて https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf(2019 年 8 月 21 日アクセス)
(※3)財団法人 女性労働協会.平成 16 年 働く女性の健康に関する実態調査 http://www.jaaww.or.jp/about/pdf/document_pdf/health_research.pdf(2019 年 8 月 21 日アクセス)
(※4)厚生労働省.働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku05/01.html(2019 年 9 月 8 日アクセス)

【関連リンク】

「産業保健」に関するニュース

2021年04月28日
三世代同居ではないシングルマザーの約9人に1人が「こころの不調」の可能性~国立成育医療研究センター調査
2021年04月27日
【新型コロナ】コロナ禍のメンタルヘルスサポート アプリで1人ひとりに合わせて遠隔評価・相談 精神・神経医療研究センターが研究を開始
2021年04月27日
【新型コロナ】「医療従事者のための新型コロナウイルスワクチンを安全に接種するための注意とポイント」を公開 厚生労働省
2021年04月27日
「食物繊維」を多く摂っている人ほど死亡リスクが低い 玄米など穀類で食物繊維を増やす 日本人9万人超を調査
2021年04月27日
従来の高血圧診断基準より低い血圧値から心不全や心房細動のリスクが上昇 200万例の日本人のビッグデータで明らかに
2021年04月26日
緑地が高齢者の心の健康に良い効果をもたらす 小学校の近くに住む女性高齢者もうつが少ない 高齢者にやさしいまちづくりを
2021年04月23日
【健やか21】体外受精などの高度不妊治療を受ける女性の約半数が治療開始初期の段階で、すでに軽度以上の抑うつ症状あり(国立成育医療研究センター)
2021年04月20日
中年期に運動と食事を改善すると人生後半は健康に 肥満・メタボは体重を3%減らしただけでも改善
2021年04月20日
口の中の健康状態が悪い高齢者は認知機能低下リスクが高い 口腔の健康を維持すれば、認知症を減少できる可能性
2021年04月19日
【新型コロナ】運動不足が重症化リスクを高める 肥満・メタボよりもさらに深刻 コロナ禍でもウォーキングなどの運動を
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
  • 週1回配信(毎週木曜日)
  • 登録者数 10,678 人(2021年04月現在)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 2.7%
  • 保健師 44.8%
  • 看護師 10.8%
  • 管理栄養士・栄養士 19.8%
  • その他 22%
登録はこちら ▶
ページのトップへ戻る トップページへ ▶