No.3 “スマートダイエット+運動”の有益性
スマートダイエット教室に参加した1,014名の減量結果を分析すると、スマートダイエット単独による減量は平均7.2 kg、運動を併用すると9.3 kg、運動単独では2.5 kgでした。運動は減量手段というよりも、体力、自己効力感、メンタルタフネスなどの維持・向上、そして体重再増加(英語ではリゲイン*)の防止に有効です。
*リバウントとリゲインの違い
リバウンド(rebound)には、痩せの人が太った後に再び痩せた場合も該当する。減量をweight loss、増量をweight gainと言う。いったん減った体重が再び増える場合weight regainと表記するのがベストである。リバウンドは日本式の表記である。
スマートダイエット単独と運動単独の比較
スマートダイエットは12週間コースの場合、週1回なので教室に通う回数は12回(12コマ)ですが、運動を含める場合、週3回なので36回(食事教室12コマを合わせて48コマ)となります。
ダイエット指導は運動指導に比べて3分の1の回数でありながら、1回あたりに換算した減量度は約3倍となります。また、血圧、中性脂肪、コレステロール、血糖値などの検査値は概ね体重の減少度に依存して変化するため、ダイエット指導のほうで明らかに大きくなります。
スマートダイエット+運動の有益性
運動を含めることの有益性は、持久力や柔軟性などの体力的向上が図られ、プログラム内容によっては筋力や筋パワーが高まり、それらを自覚して自己効力感が高まります。仕事への意欲が旺盛になるなど、日々の生活におけるメンタリティ(満足度)も改善するといった多くの効果が生まれます。
メタボリックシンドローム危険因子などの数値には見えにくいものですが、運動を習慣化することの意義は明らかです。また、体重の再増加(リゲイン)を抑制するためにも、運動は効果的です。
お勧めの運動
ウォーキング、インターバルウォーキング、ジョギング、エアロビックダンス、ステップエアロ、アクアビクス、筋トレなど(1~3種目)。減量度に種目間の差異は出ません(図5)。アスリートのように、運動を本格的にやり続ければ、ジョギングやエアロビクスで減量効果が最大となりますが、肥満者にとっていずれの運動もハードルが高いです。肝心なことは、その運動が楽しめること、ケガをしないこと、継続できること、できれば仲間と一緒に楽しめることです。
図5 食事群と運動群における活力年齢(約-7歳)と体重の変化(約-8㎏)
自宅で継続できる体力強化法
- 体操系: ラジオ体操、テレビ体操、リズム体操、ストレッチ、その場足ふみ
- 筋トレ: スクワット、ランジ(フロント、バック)、カーフレイズ、クロスレイズ、シットアップ、 プッシュアップ(図6)、玄関の階段往復
図6 自宅でできる筋トレ
スマートダイエットの原則
最大の特徴は、スマートダイエットに取り組む最初の1~3ヵ月間に限り、1に食事管理の徹底、2,3がなくて、4に適度な運動、5にしっかり禁煙、といった無理のない上手な生き方を推奨している点です。ここで“2, 3がなくて・・・”を強調するのは、食事管理を最重視しており、そのことに理解を促す(スイッチONへ導く)ためです(図7)。
減量効果が出現したら、1に運動、2に(引き続き)適正な食習慣の維持のもと、体力の増強を図り、エネルギー摂取量を徐々に増やしていくことが肝要と説いています。体力が高まり、1日の身体活動量が増え、習慣化につながる運動・スポーツが見つけられると、体重再増加(リゲイン)を防止できます。
図7 スマートダイエットの原則
個人差を重視した支援法
有所見の種類、食事をデリバリー購入する場合などの多様性を考え、個別支援の一助となるメッセージを以下に掲げます。
- 肥満対策:減量を実行したい場合:エネルギー摂取量は通常の7割程度(目安)に抑える。間食や酒のつまみは野菜、海藻類、適量の果物や刺身、少量の種実類とする。運動は実践できるなら取り組み、運動量(強度×時間×頻度)を大きくすることがベスト。運動嫌いなら、食習慣改善のみの取り組みでもよいこととする。
- 高血糖対策:糖質摂取を適量に留め、食後に有酸素運動または筋トレのいずれかを実行する。散歩よりは速歩またはインターバルウォーキング(速歩と緩歩の繰り返し)、可能ならジョギングがベスト。肥満かつ高血圧を伴う場合、それぞれの対策にも注視して取り組むのがよい。服薬している場合、血糖値の急上昇や運動後の低血糖防止に留意しなければならない。
- 高血圧対策:塩分摂取を適量に留め、毎日、体操系の運動を実行する。高血圧の場合、運動強度を高くしないほうがよいケースもあるので、個人差を十分に考慮して取り組むべきである。肥満であれば、減量による降圧効果が一般的に最大となる。なお、肥満対策と高血糖対策としての運動を参考にする。
- 高尿酸対策:レバー、干物、魚卵等を控え、たんぱく質や酒の摂りすぎに気を付ける。また、軽い運動を心がけ、筋トレは軽めに留める。軽強度の筋トレを20~30分以上やり続ければ、有酸素性運動のような効果が得られ、かつ無酸素性運動によって起きやすい尿酸値の上昇を防止できると考えられる。
- 食事をテイクアウトする場合:店によって販売促進方法が異なるが、米穀類の量を増やす例、腹持ち対策目的で油を使った揚げ物を主菜にする例、調理や盛り付けの手間を最少にする目的で品数を減らす例などがある。注文時に要望を伝え、できるだけ品数の多い栄養バランスのとれた弁当を選ぶか、野菜・海藻・キノコ類などは自宅で準備することが望ましい。
- 食事のデリバリーを求める場合:テイクアウトの場合と同様の配慮が必要である。また、不足する食材(野菜・海藻・キノコ類、果物など)は自宅で補うことが望ましい。
- 冷凍食品を使用する場合:栄養表示を確認し、栄養バランスの偏りに注意すべきである。冷凍食品の利用は調理の手間が省けて便利だが、運動しない日には料理に励むことも重要である。得意のレシピを増やせると、認知機能の賦活にも役立つことが期待できるので、冷凍食品の利用頻度は少なくしたい。
参考図書
1) Smart Diet. 田中喜代次(監修), THF発行, 2018
2) 食品80 kcalガイドブック. 香川芳子(編集), 女子栄養大学出版部(発行)
3) 健幸華齢のためのスマートライフ. 田中喜代次ら(編集), サンライフ企画, 2019
4) 医師・コメディカルのためのメディカルフィットネス. 中田由夫ら, 日本体力医学会(編集), 社会保険研究所, 2019
5) 運動生理学大事典. 田中喜代次ら(監訳), 西村書店, 2017
6) メディカルフィットネスQ&A. 田中喜代次ら(編集), サンライフ企画, 2014
7) エクササイズ科学―健康体力つくりと疾病・介護予防のための基礎と実践. 田中喜代次&田畑泉(編集),文光堂, 2012
8) 1600 kcalおいしくやせる献立. 牧野 直子 (著) 田中喜代次(監修) , 新星出版, 2009
9) スマートダイエット. 田中喜代次&大藏倫博, (公財)健康体力づくり事業財団発行, 2012
参考論文
1) Tanaka K, et al. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 16(11):339-347, 2018
2) Kim B, et al. Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy. 187-194, 2017
3) 田中喜代次, 他. 体力科学. 66 (5), 335-344, 2017
4) 田中喜代次, 他. 体力科学. 66 (3) 209-212. 2017
5) 若葉京良, 他. 肥満研究. 22(3): 195-206. 2016
6) Matsuo T, et al. Nutrition, Metabolism & Cardiovascular Diseases. 25(9): 832-838, 2015
7) Kim B, et al. Journal of Physical Therapy Science. 27(12): 3787-3791, 2015
8) Oh S, et al. Hepatology. 61(4):1205-1215, 2015
9) Kim M, et al. Metab Syndr Relat Disord. 12(9): 464-71, 2014
10) 田中喜代次, 他. 医学のあゆみ. 250(9):2014
11) Matsuo T, et al. Obesity. 20(5): 1122-1126, 2012
12) So R, et al. Tohoku J Exp Med. 227(4): 297-305, 2012
13) So R, et al. Nutrition and Metabolism. 9(1): 56, 2012
14) So R, et al. Eur J Clin Nutr. 66(12): 1351-1355, 2012
15) Tanaka K, et al. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine. 1(3), 457-465, 2012
16) 江藤幹, 他. 健康支援. 14(1): 13-23, 2012
17) 江藤幹, 他. 肥満研究. 18(1): 52-60, 2012
18) Nakata Y, et al. Obesity Facts. 4(3): 222-8. 2011
19) Matsuo T, et al. International Journal of Obesity. 34(1): 136-145, 2010
20) Ohkawara K, et al. Annals of Nutrition and Metabolism. 56(1): 1-8, 2010
21) Sasai H, et al. Diabetes Research and Clinical Practice. 88(1): 34-41, 2010
22) 田中喜代次. Journal of the Japan Dietetic Association(日本栄養士会雑誌). 53(2): 83-84, 2010
23) 田中喜代次, 他. アディポサイエンス. 6: 373-379, 2010
24) 中田由夫, 他. 肥満研究. 16(2): 90-94, 2010
25) 松尾知明, 他. 日本公衆衛生雑誌. 57(5): 390-402, 2010
26) Nakata Y, et al. Preventive Medicine. 48(4): 351-356, 2009
27) Kim MK, et al. Journal of Applied Physiology. 106: 5-11, 2009
28) Sasai H, et al. Diabetes Research and Clinical Practice. 84(3): 230-238, 2009
29) 片山靖富, 他. 肥満研究. 15(1): 80-88, 2009
30) Nakata Y, et al. Journal of Bone and Mineral Metabolism. 26(2): 172-177, 2008
31) 林容市, 他. 体力科学. 57(2): 197-206, 2008
32) 笹井浩行, 他. 体力科学. 57(1): 89-100, 2008
33) 笹井浩行, 他. 肥満研究. 14(3): 258-264, 2008
34) 笹井浩行, 他. 日本公衆衛生雑誌. 55(5): 287-294, 2008
35) 松尾知明, 他. 肥満研究. 13(2): 154-163, 2007
36) 中田由夫, 他. 臨床運動療法研究会誌. 9: 54, 2007
37) 田中喜代次, 他. 食生活. 101: 28-31, 2007
38) 田中喜代次,他. 臨床栄養. 110(5): 482, 2007
39) 田中喜代次,他. 臨床栄養. 110(7): 808, 2007
40) 田中喜代次,他. 臨床栄養. 111(1): 14, 2007
41) 田中喜代次, 他. 臨床運動療法研究会誌. 9: 36-42, 2007
42) 田中喜代次, 他. アディポサイエンス. 4(3): 291-297, 2007
43) Shigematsu R, et al. Circ J. 70: 110-114, 2006
44) 中田由夫, 他. 肥満研究. 11: 58-62, 2005
45) 沼尾成晴, 他. 肥満研究.10: 183-189, 2004
46) 魏丞完, 他. 体力科学.53: 311-320, 2004
47) Tanaka K, et al. Obesity Research. 12: 695-703, 2004
48) 片山靖富, 他. 日本ヘモレオロジー学会誌. 6: 13-22, 2003
49) 中田由夫, 他. 体力科学.51: 129-138, 2002
50) 田中喜代次, 他. 保健の科学.44: 440-445, 2002
51) 藤本誉博, 他. 肥満研究. 6: 279-283, 2001
52) 中垣内真樹, 他. 健康支援. 3: 11-16, 2001
53) 田中喜代次, 他. 肥満研究. 7: 182-183, 2001
54) 大蔵倫博, 他. 健康支援. 2: 12-21, 2000
55) 田中喜代次, 他. 肥満研究. 5: 40-45, 1999
56) Tanaka K, et al. Bulletin of Institute of Health & Sport Sciences, Univ. of Tsukuba. 22: 11-20, 1999
57) Tanaka K, et al. Applied Human Science. 15: 139-148, 1996
58) Hazama T, et al. Annals of Physiological Anthropology. 13: 245-252, 1994
59) 田中喜代次, 他. 体力研究.77: 73-81, 1991
60) Tanaka K, et al. Japanese Journal of Applied Physiology. 19: 495-504, 1989
61) 田中喜代次, 他. 日本臨床生理学会雑誌.17: 355-359, 1987
62) 田中喜代次, 他. 日本臨床生理学会雑誌.17: 267-272, 1987
63) 田中喜代次, 他. 体力研究.62[Suppl]: 26-40, 1986
64) 脇田正道, 他. 教育医学.30: 9-14, 1985
65) 脇田正道, 他. 教育医学.30: 33-35, 1985
「減量支援はお任せください!「スマートダイエット教室」」もくじ
「運動/身体活動」に関するニュース
- 2024年12月09日
- 肥満とフレイルのある高齢者は死亡リスクが高い 「痩せすぎず太りすぎず」が大切 日本の高齢者1万人超を調査
- 2024年12月09日
- 年末年始の健康管理は失敗しやすい? 8割の人は「もっと健康になりたい」が新年の抱負 日本など11ヵ国を調査
- 2024年12月09日
- わずか4分間の運動が女性の健康リスクを半分に減少 日本の女性は運動不足 9割以上が運動不足を実感
- 2024年12月09日
- 自然とのふれあいが肥満や糖尿病を改善 日本の里山の魅力を再発見 緑の豊かな環境は心身の健康を促進
- 2024年12月02日
- 脳卒中や心臓病の予防のために生活改善をはじめた人が半数近く 発症したら働き続けられる職場環境がない? 内閣府調査