ニュース

ウォーキングと腹式呼吸でうつ病を克服 2ヵ月のトレーニングで効果

 ウォーキングなどの有酸素運動と腹式呼吸を組み合わせたトレーニングが、うつ病の効果的な治療法になるという研究が発表された。
うつ病の原因は精神的・身体的ストレス

 眠れない、食欲がない、1日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない――この「気分が落ち込む」「ゆううつ」な気分が長期にわたって続いている場合、うつ病の可能性がある。

 うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、さまざまな理由で脳の機能障害が起きている状態だ。

 4月になり仕事や学校、転居などで環境が変わり、最初のうちは張り切っていたのに、5月の連休明け頃から、なんとなく気分が落ち込む、仕事などに集中できない、眠れないといったスランプ状態に陥るのがいわゆる「五月病」だ。

 1日30分のウォーキングなどの有酸素運動と腹式呼吸を中心としたリラクゼーションを組み合わせることでうつ病を改善できることが、米ニュージャージー州のラトガース大学の研究で明らかになった。

腹式呼吸は誰でもできて効果があるリラックス法

 リラックスはストレスと対極にある状態で、「心と体の緊張が解けて安らかな状態」を指す。人は意識しないとなかなかリラックスできないため、リラックスした状態を保つには、意識的にトレーニングすることが大切だ。

 腹式呼吸は、誰にでもすぐできて効果があるリラックス法だ。例えば、緊張して心臓が動悸を打ったり汗をかいたときに、意識的に「心臓を鎮める」「汗を抑える」ことはできないが、呼吸は自分のペースで速くしたり遅くしたりできる。また、呼吸に集中することで雑念を払うことができる。

 呼吸には、呼吸や体幹部の安定性を作り出している「横隔膜」を上下させ、大きくゆっくり呼吸する「腹式呼吸」がある。リラックス法として有効なのはこの腹式呼吸だ。

 リラックスの原点は「大きくゆっくり腹式呼吸をする」ことだ。呼吸回数を減らすと、興奮を抑えるホルモンの分泌が増え、副交感神経が活性化し、リラックス効果を得やすくなる。仕事などでストレスや緊張を感じたときなど、日常生活で試してみると効果を実感できる。

 具体的には次のようなやり方で腹式呼吸を行うと効果的だ――
(1)息を吸うときにお腹が膨らみ、横隔膜が下がるのを感じる。はじめのうちは、お腹に意識するために、手を当てて行う。
(2)口からゆっくり息を吐き、お腹がへこみ、横隔膜が上がるのを感じる。吐ききったら少し息を止める。
(3)息を吐くときは、吸うときの2倍くらいの時間をかけ、ゆっくり吐く。慣れてきたら1回の呼吸時間を長くし、呼吸回数を減らしていく。

ウォーキングと呼吸法を組み合わせた治療

 ラトガース大学の研究チームは、ウォーキングなどの運動と呼吸法を組み合わせた治療を「メンタル アンド フィジカル」(MAP)トレーニングと名付けた。

 研究には、うつ病と診断された大学生22人と、精神障害の既往歴がない学生30人が参加した。参加者は日常や環境に不安や否定的な感情をもち、仕事や勉強に集中できないと訴えていた。

 研究チームは参加者に有酸素運動と腹式呼吸を中心としたリラクゼーションに週2回、8週間をかけて取り組んでもらった。

 トレーニングが終了した後、参加者をうつ病を評価するスケールで検査しアンケートに答えてもらった。その結果、うつ病の参加者のグループは、実施前に比べ症状が21%軽減し、健康な参加者でも抑うつ度が軽減した。参加者の行動へのモチベーションは向上し、生活に対して集中力と積極性が増していることが分かった。

 「ウォーキングと腹式呼吸を取り入れたリラクゼーションの組み合わせにより、メンタル面での臨床的に有意な改善がみられました。たった2ヵ月のトレーニングにより、参加者には明確な変化が起きていました」と、ラトガース大学スポーツ運動科学部のブランドン アルダーマン氏は言う。

いつでもどこでも行えるトレーニングでうつ病を改善

 「2つの行動療法のそれぞれはうつ病の治療法として有効であることは知られていましたが、組合せることでより効果的な治療ができるようになることがはじめて解明されました。活動への関心や喜びの低下を特徴とする"うつ病性障害"の症状も改善しました」と、同大学心理学部のトレーシー ショーツ教授は言う。

 うつ病を発症する患者は増えており、世界の17ヵ国で実施された国際調査によると、10~20人に1人が生涯にうつ病の状態を経験しているという。うつ病の標準的な治療法として、向精神薬により脳内化学物質を調整する薬物療法と、医療者との対話による認知療法が行われているが、うつ病をコントロールするには多くの時間と医療費が必要だ。

 「メンタルとフィジカルのトレーニングであれば費用があまりかからず、短時間で効果を得られます。今回の研究では、参加者は1日に30分のウォーキングと30分の呼吸トレーニングから始めました」と、アルダーマン氏は言う。

 ハーバード大学の研究グループが磁気共鳴画像法(MRI)を使って、呼吸トレーニングに取り組んでいる人たちの脳を調べたところ、注意や感覚情報の処理といった役割を担っている前頭前皮質の一部の体積が大きくなることが確かめられた。

 また、運動そのものが気分の高揚に直接的影響をもたらし、うつ病の状態を改善することがさまざまな研究で確かめられている。

 「ウォーキングや呼吸法にはいつでもどこでも行える強みがあります。もしも患者がうつ病を再発したときでも、これらのトレーニングで改善したときのことを思い出しながら、再び取り組めば、状態を良くすることを期待できます」と、アルダーマン氏は指摘している。

 この研究は精神医学誌「Translational Psychiatry」オンライン版に発表された。

Exercise and Meditation–Together–Help Beat Depression, Rutgers Study Finds(ラトガース大学 2016年2月10日)
MAP training: combining meditation and aerobic exercise reduces depression and rumination while enhancing synchronized brain activity(Translational Psychiatry 2016年2月2日)

[Terahata]

「健診・検診」に関するニュース

2021年01月28日
【オピニオン新連載】行動科学に基づいた保健指導スキルアップ~対象者の行動変容を促すには?~
2021年01月26日
【新型コロナ】接触確認アプリ「COCOA」がコロナ禍の心理的ストレスを減らす? 企業従業員の心の健康をどう守るか
2021年01月26日
スマホの運動アプリで1日の歩数を2000歩増やせる 新型コロナをきっかけに、運動への関心は世界中で拡大
2021年01月26日
「脂肪肝」が手遅れになる前にスマホで早期発見 病気と認識してきちんと対策 「脂肪肝プロジェクト」を始動
2021年01月26日
人工知能(AI)を活用して大腸がんを高精度に発見 医師とAIが一体となり、がん検査の見逃しをなくす
2021年01月25日
「内臓脂肪」と「腸内細菌」の関係を解明 肥満の人で足りない菌とは? 腸内細菌のバランスが肥満やメタボに影響
2021年01月25日
コレステロール高値で高尿酸血症のリスクが上昇 メタボリックシンドロームと高尿酸血症の関連に新たな知見
2021年01月19日
【新型コロナ】「自然」の豊かな環境でストレスを解消 心の元気を保つために「行動の活性化」を
2021年01月18日
「和食」が健康にもたらすメリットは多い 5割が「健康に良い」、8割以上は「和食が好き」
2021年01月18日
冬の「ヒートショック」を防ぐ6つの対策 急激な温度変化は体にとって負担 血圧変動や脱水に注意
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
  • 週1回配信(毎週木曜日)
  • 登録者数 10,890 人(2021年06月現在)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 2.7%
  • 保健師 44.8%
  • 看護師 10.8%
  • 管理栄養士・栄養士 19.8%
  • その他 22%
登録はこちら ▶
ページのトップへ戻る トップページへ ▶