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認知症対策 自治体の最新の取り組み 「認知症でも住みやすい町に」
2016年06月29日

厚生労働省は「認知症の本人及び家族への地域資源を活用した支援に関する調査」の結果を発表した。認知症対策の新しい取り組みを紹介している。
先進的な認知症対策に取り組む自治体を紹介
日本の認知症高齢者の数は、2012年の時点で約462万人。2025年には約700万人に増加し、65歳以上の約5人に1人に達すると推計されている。国は2015年1月に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)-認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて-」を策定し、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会を実現することを目標に定めた。
今回の調査は、認知症の人が自分らしく暮らし続けることができる地域づくりについて、地域資源を活用しながら取組を主体的に進めている自治体を調査することで、他の自治体や、関係機関などの参考にしてもらうことを目的としている。
調査対象となったのは、▽北海道砂川市、▽岩手県岩手郡岩手町、▽兵庫県川西市、▽熊本県山鹿市。
自治体が中心となり「認知症サポーター養成講座」を開催
「認知症サポーター養成講座」の受講者は、全国的には地域住民全般が中心だが、今回の調査では自治体が中心となり講座を開催していた。岩手町では民生委員、保健推進員等、川西市では民生委員、福祉委員等を対象にサポーター養成講座を開催している。
これは地域における認知症高齢者の支援がより積極的に行われるよう、行政から業務を委嘱され、地域の高齢者に接する機会が多い民生委員、福祉委員等を対象に実施しているものだ。
砂川市では、認知症が疑われる人に対応する機会がある事業者などを対象に実施している。山鹿市では、小・中学校、高等学校等教育機関でサポーター養成講座を実施し、将来的に地域の担い手となる児童と生徒を対象として、認知症の学習を早期から始めている。
認知症サポーターの取組として、認知症に関する知識の啓発を通じて認知症高齢者にやさしい地域づくりを推進する活動が求められている。
山鹿市では、サポートリーダーが地域ごとにグループを作り、地域課題に対応する取組を進めていた。例えば、地域内で何かが起きたときにSOSを連絡できる公共施設、商店、民家などを示した地域資源マップの作成や、認知症の人への接し方や見守りの方法を喜劇仕立てで公演する劇団活動などを行い、認知症に関する啓発活動が活発に進められていた。
また、サポーター養成講座の講師を務める「キャラバン・メイト」の活動も行われている。川西市のキャラバン・メイトは、サポーター養成講座の講師のほかに、市内の全14地区で認知症カフェや交流サロンの運営に参加し、認知症の人とその家族への支援に関する中心的な役割を担っていた。
「認知症初期集中支援チーム」が地域と医療・介護をつなげる

「医療介護情報連携ツール」で情報共有を推進
「医療介護情報連携ツール」は認知症支援で医療と介護の関係者が、認知症の病態や対応について情報を共有するために作成され、各自治体で利用されている。情報連携ツールの利用により、認知症の人とその家族が孤立を感じることなく、安心感を得ることも目的としている。
今回調査された3自治体での情報連携ツールの導入には、自治体と地域内の医師会が従来から地域医療に関して連携し、ネットワーク体制を築いてきた関係性が効果的に作用している。
川西市では、市民医療フォーラムの開催などを通じて、川西市医師会と協力関係を築いてきた経緯が情報連携ツール「つながりノート」の導入に生かされている。導入に当たって、川西市、川西市医師会、専門機関(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)で20回ほど検討会を開催し、内容と普及の方法について協議が重ねられた。川西市と川西市医師会、専門機関が顔の見える関係をつくっていたことが、情報連携ツールのスムーズな導入に結びついており、利用開始後も普及に向けた取組を協力して進めている。
砂川市と岩手町でも自治体と地域内の医師会等が連携し、情報連携ツールの作成と配布を行っている。砂川市は、市と砂川市立病院及び地域包括支援センターが認知症支援の各取組を協働で進めるネットワークが活用され、情報連携ツール「支えあい連携手帳」の円滑な利用開始に結びついていた。
岩手町では、町と岩手西北医師会認知症地域支援ネットワークの協力の下に情報連携ツール「医療・介護連携シート」が導入され、近隣の町とともに普及が進められている。
自治体ごとに工夫を凝らした「連携ツール」
各自治体の情報連携ツールでは、認知症の病態、既往歴、介護サービスの利用状況など認知症の人に共通する基本情報に加えて、自治体ごとに、工夫を凝らした構成にしている。
介護の現場では、介護者である家族が、医療・介護の専門職に質問や意見をしにくいという状況が見受けられる。川西市の情報連携ツールは、介護者である家族が医療・介護の専門職とコミュニケーションを取りやすくするため、連絡や質問の内容とともに、知ってほしい、または答えてほしい人を指名する構成になっている。例えば、家族から認知症の病態に関する疑問を医師に聞いたり、介護の悩みを介護支援専門員に相談したりするなどの使われ方をしている。
砂川市は、各種受診の際に必要な情報として、MRI検査に関連してペースメーカーの有無、閉所への恐怖感の有無、胃ろうについての認知症の本人とその家族の意向など、長期的なケアに対応することを念頭においた内容になっている。
岩手町は、認知症の人の心身の変化や日常生活上の困難に関する説明について、医療・介護の専門用語ではなく平易な言葉で記載することで、専門職ではない認知症の本人、家族、介護者などが理解しやすいように工夫されている。また、診療時と普段の様子が異なる場合もあるため、診療の際に、医師へ日常の様子を正確に伝えることを重視した構成となっている。
情報連携ツールの利用により、医療・介護に関する情報の共有が、認知症の本人と介護者である家族が孤立する状況を防ぎ、安心につながるツールになっていた。
情報連携ツールの利用を促進するため、川西市では、認知症の本人とその家族、ケアスタッフ等に向けて、情報連携ツールの効果的な使い方や地域での普及方法に関する連絡会を毎月1回実施している。連絡会では、川西市医師会の協力を得て、認知症の病態や高齢者をテーマとした市内の各診療科の医師によるミニレクチャーや情報連携ツールに関する事例検討を行っていた。認知症が生活習慣病と同じような身近な疾患であるという認識を広め、支援事例を通じた情報連携ツールの効果的な使用法を紹介することにより、情報連携ツールの利用促進が行われていた。
認知症に対する誤った知識や偏見を解消 理解を深める工夫
認知症の人やその家族の中には、認知症に対する誤った知識や偏見から周囲の人などに打ち明けることをためらい、地域包括支援センター、病院等に相談または診療に訪れる際には、治療や支援に遅れが生じ、認知症の病態が悪化している事例が多い。
認知症になると何もできなくなってしまうという認知症に対する社会の見方を変えるきっかけとして、できないことをさまざまな工夫で補い、できることを生かして希望や生きがいを持ち、自分らしく暮らしている認知症の人の姿を、当事者が自らの声で語り、発信していくことが重要である。それにより、認知症の診断を受けた後の生活への安心感を与え、早期受診につながることが期待される。
認知症の人の介護者への支援を行うことが、認知症の人の生活の質の改善にもつながるため、家族介護者の不安や悩みに応える相談機能の強化を含む支援体制の充実を図ることも重要だ。具体的には、「認知症地域支援推進員」の企画・調整にもとづいて、認知症カフェなどを活用したボランティアによる居宅訪問や家族向けの介護教室の開催を推進する等、在宅介護における認知症の人の最も身近な伴走者である家族介護者の精神的・身体的負担を軽減する観点からの支援や、家族介護者の生活と介護の両立を支援する取組を進めて行くことが必要とされる。
認知症サポーターの養成や自治体が行う見守り支援など、地域住民の積極的な参加が必要な取組では、高齢化に対応し、住民の参加を促進する工夫が必要だ。そのため、自治体の広報誌などを通じた地域住民への認知症支援に関する周知など参加者の掘り起こしや、地区または自治会等が小規模の単位で行う認知症高齢者等の日常生活の支援など、地域住民が認知症の支援に継続して参加する仕組みづくりが必要とされている。
認知症の本人及び家族への地域資源を活用した支援に関する調査(厚生労働省 2016年6月24日)
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