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乳児期の栄養が成人後の肥満や糖尿病に影響 エピゲノム記憶を解明
2018年03月01日

胎児期から乳児期かけての栄養状態が、成人してからの肥満や2型糖尿病などのなりやすさに影響することが、九州大学や東京医科歯科大学の研究で明らかになった。
妊娠期の母親が過栄養や栄養不足の場合には、生まれた子供は成人期に2型糖尿病などを発症する危険性が高まるという。
妊娠期の母親が過栄養や栄養不足の場合には、生まれた子供は成人期に2型糖尿病などを発症する危険性が高まるという。
妊娠期の母親の過栄養や栄養不足が影響
乳児期に適切な栄養を与えて育てられる環境を整えると、遺伝子にその「記憶」が残り、将来、肥満や2型糖尿病になりにくくなる可能性があり、「エピゲノム記憶」と呼ばれている。
妊娠期の母親が過栄養や栄養不足の場合には、生まれた子供が成人すると、2型糖尿病などの活習慣病を発症する危険性が高まることが知られており、「DOHaD仮説」として注目されている。
この仮説の分子メカニズムとして、代謝関連遺伝子の「DNAメチル化」などによる「エピゲノム修飾」が有力とみられている。
エピゲノム修飾とは、遺伝子そのものを変化させずに、後天的に遺伝子の発現量を調節する仕組みをさす。
DNAメチル化は代表的なエピゲノム修飾のひとつ。ある遺伝子のDNAメチル化の減少が起こると、その遺伝子の発現量が増加する。
乳児期のエピゲノム記憶は成人してからも残る
研究グループは、人間で妊娠後期と授乳期にあたる母親マウスに対し、血中の脂質を感知して遺伝子の働きを強める体内センサーである「PPARα」を活性化する薬剤を投与した。
すると、その薬剤が母乳に移行し、それを摂取した仔のマウスの体内で、肝臓で脂肪燃焼を促進させる作用をもつ「FGF21」というホルモンの働きが強まることが分かった。
FGF21には、脂肪組織に作用して脂肪燃焼および脂肪組織の糖の取り込みの促進、インスリンの産生の増加、肝臓でのインスリンの効き方を良くするなどの作用がある。
その結果、人間で成人にあたる時期になってから、脂肪分の多い食事を与えても、太りにくく糖尿病にもなりにくいことが確かめられた。
この時期にいったん確立したDNAメチル化状態は、仔が成長するまで長期間、記憶・維持されるという。
一方、成長してから薬剤を投与し始めた場合は、遺伝子の働きが強まることはなく、その効果は乳児期での投与に限定されることも確認された。

胎児期から乳児期にかけての栄養状態が大切
今回の研究結果は、乳児期の環境が、将来も含めた健康に大きな鍵となることを科学的に示したもので、「先制医療」の手掛かりを得たものと言える。
「先制医療」とは、将来の生活習慣病の罹りやすさを予測して適切に介入することで、その疾患の発症の危険度を下げる、あるいは症状が軽くなるようにする医療。医療費を抑制するためにも必要とされている。
研究を行ったのは、東京医科歯科大学大学院および九州大学大学院医学研究院の小川佳宏教授と東京医科歯科大学大学院の橋本貢士准教授らの研究グループで、科学誌「Nature Communications」に発表された。
研究グループは「マウスで示されたことは、人間でも同様に起こる可能性がある。胎児期から乳児期にかけての栄養状態は、将来的な肥満の生じやすさ、2型糖尿病の発症などに関連している。妊娠期の栄養不足などを生じさせないようにする必要がある」と述べている。
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野(第三内科)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科メタボ先制医療講座
Epigenetic modulation of Fgf21 in the perinatal mouse liver ameliorates diet-induced obesity in adulthood(Nature Communications 2018年2月12日)
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