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「若年性認知症」の有病者数は10万人当たり51人 7割が退職を余儀なくされる 就労・社会参加の支援が必要
2020年08月11日

東京都健康長寿医療センターは、若年性認知症の調査を行い、日本の若年性認知症有病率は18~64歳人口10万人当たり50.9人で、若年性認知症者の総数は3.57万人と推計されると発表した。
7割が若年性認知症のために退職しており、6割で世帯収入が減少している現状も明らかになった。
7割が若年性認知症のために退職しており、6割で世帯収入が減少している現状も明らかになった。
発症すると就労・経済、社会生活への影響が大きい
認知症は一般的には高齢者に多い病気で、64歳以下で発症した場合は「若年性認知症」とされる。働き盛りの世代の人が若年性認知症を発症すると、本人だけでなく、家族、子の養育、就労・経済、社会生活への影響も大きいが、その実態は明らかになっていない。
若年性認知症では、高齢者とは異なり、その年代に合った社会支援が求められるが、そのための社会政策や社会資源は十分に整備されていない。
そのため今回の研究は、今後の若年性認知症施策を考えるうえで基礎資料を得るために、今日の若年性認知症の有病率、有病者数、生活実態を把握することを目的とした。
研究は、東京都健康長寿医療センター研究所の粟田主一副所長らの研究グループが行ったもので、調査は、2017~2019年度に日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業によって実施した。
7割が若年性認知症のために退職 6割が世帯収入が減少
研究では、全国12地域(北海道、秋田、山形、福島、茨城、群馬、東京、新潟、山梨、愛知、大阪、愛媛)で、1万6,848ヵ所の医療機関、介護サービス事業所、障害福祉サービス事業所、相談機関などの協力を得て、全国の若年性認知症の標準化有病率と有病者数を推計した。
その結果、2018年時点での日本の若年性認知症有病率は人口10万人あたり50.9人(95%信頼区間 43.9-57.9)で、有病者数は3.57万人であることが明らかになった。
原因疾患別にみると、アルツハイマー型認知症(52.6%)がもっとも多く、血管性認知症(17.1%)、前頭側頭型認知症(9.4%)、頭部外傷による認知症(4.2%)、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症(4.1%)、アルコール関連障害による認知症(2.8%)が続いた。
生活実態調査では、最初に気づいた症状で多かったのは「もの忘れ」(66.6%)、「職場や家事などでのミス」(38.8%)であることが判明した。
さらに、6割は発症時点で就労していたが、そのうち7割が調査時点で退職、6割が世帯収入の減少を感じており、主たる収入源は4割が障害年金、1割が生活保護であり、3割は介護保険の申請をしていないことが明らかとなった。
若い世代の人口減で有病者数は減少
日本では2006~2008年度にも若年性認知症の有病率調査が行われており、有病率は人口10万人あたり47.6人、有病者数は3.78万人と推計されている。前回調査に比べて有病率は若干増加したが、有病者数は減少しており、これは若い世代の人口減によるものだという。
また、前回調査では血管性認知症がもっとも大きな割合を占めたが、今回の調査ではアルツハイマー型認知症の割合がもっとも高くなり、前頭側頭型認知症の割合も増加。
その背景には、若年性のアルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症に対する国民の意識の高まりとともに、変性型認知症に対する医療機関の診断の精度が向上していることが関係していると考えられるとしている。
若年性認知症への社会的支援は十分ではない
生活実態調査の結果では、多くの若年性認知症の人の多くが発症時には就労していたものの、退職を余儀なくされ、その結果として収入が減少し、主な収入源が障害年金や生活保護になっていることが示された。また、若年性認知症者の多くが認知症疾患医療センターで診断されていることも明らかになった。
働き盛りの世代が発症する若年性認知症への社会的な支援はまだ十分に整備されていない。東京都が2019年に発表した調査でも、若年性認知症を発症した人の3割は、通勤や職場内での配置転換、産業医の受診勧奨などの職場からの配慮はなかったと回答している。
診断から治療、介護などで必要と感じている情報として、「病気の症状や進⾏に関する情報」「治療⽅法や薬に関する情報」「専⾨医や専⾨病院に関する情報」が多く挙げられ、若年性認知症の⼈の通いの場として「外出や趣味活動を楽しめる通いの場」「軽作業に取り組むなど就労に近い内容の通いの場」「就労⽀援を受けられる通いの場」を求める声も多い。
「認知症疾患医療センターにおける質の高い診断と、診断後支援、就労・経済・社会参加など、若年性認知症患者のニーズに合ったサービスの充実が求められています」と、研究グループは述べている。
東京都健康長寿医療センター研究所調査報告等 とうきょう認知症ナビ(東京都福祉保健局)
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