ニュース

人工知能(AI)を活用して大腸がんを高精度に発見 医師とAIが一体となり、がん検査の見逃しをなくす

 人工知能(AI)を活用して、大腸がんやその前がん病変のポリープを高精度でみつけられる、大腸内視鏡用のAI診断支援医療機器システムを、国立がん研究センターと日本電気(NEC)が開発し、このほど医療機器として承認された。
 この診断支援システムを大腸内の視鏡検査中に併用すると、AIが通知音と円マークで病変を疑う部位をリアルタイムに示し、内視鏡医へ伝える仕組みになっている。
人工知能(AI)を活用し、がん診断精度の改善・向上
 この診断支援システム「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」は、AIにディープラーニング(深層学習)の手法で学習させた大量の画像情報をもとに病変を検知、医師に伝えて病変発見を確実にする仕組みになっている。

 国立がん研究センター中央病院に蓄積された、1万病変以上の早期大腸がん、および前がん病変の内視鏡画像をAIに学習させ、典型例だけでなく非典型例も検出できるよう精度を高めた。

 この診断支援システムを、大腸内視鏡検査中に併用すると、AIが通知音と円マークで病変を疑う部位をリアルタイムに示し、内視鏡医へ伝える。内視鏡医とAIが一体となって検査を行うことで、診断精度の改善・向上が期待される。

WISE VISION 内視鏡画像解析AI

出典:国立がん研究センター、2021年
前がん病変や早期がんを内視鏡検査で見逃さないことが重要
 大腸がんは日本でも頻度の高い疾患で、罹患者数も死亡数も増加している。大腸がんの場合、通常は前がん病変である腫瘍性ポリープ(陥凹性病変や平坦型腫瘍を含む)から発生することが分かっている。

 人間ドックや大腸がん検診で前がん病変が発見された場合は、積極的に内視鏡的切除が行われている。

 実際に米国では、1993年に報告されたNational Polyp Studyと2012年に報告されたそのコホート研究の結果から、前がん病変の多くを占める腺腫性ポリープを内視鏡的に切除することが、大腸がんの罹患率を76%~90%抑制し、死亡率を53%抑制したことが明らかにされている。

 そのため、前がん病変、あるいは早期がんを内視鏡の検査時に見逃さないことが重要になるが、肉眼での認識が困難な病変や、解剖学的死角、医師の技術格差などにより、24%が見逃されているという報告もある。

 また別の報告では、大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんに至るケースが6%あり、その原因は内視鏡検査時の見逃し(58%)、来院しない(20%)、新規発生(13%)、不十分な内視鏡治療による遺残(9%)が挙げられている。
AIの診断性能は経験豊富な内視鏡医と同程度
 大腸内視鏡検査時の病変見逃しを改善し、前がん病変発見率を向上させることが、大腸がんの予防、早期発見に大きく寄与する。そのため、内視鏡医が診断支援システム「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を使うことで、発見率を大幅に向上できると期待している。

 研究グループは、AIが学習していない350種類の病変を対象に、開発した診断システムの有効性を検証した。その結果、比較的判断しやすい隆起型の病変では約95%、判断しにくい表面型でも約78%を正しく検出した。

 これらの結果を臨床医の診断結果と比較すると、例えば隆起型病変に対しては、経験豊富な内視鏡医と同程度の診断性能があることが分かった。

「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を用いた大腸癌検出の例

出典:国立がん研究センター、2021年
より精度と性能を上げ高度医療・個別化医療に貢献
 この診断支援システムは、従来の内視鏡検査と比べて、より広い画像空間を瞬時に解析することができ、人間の視野の限界を補い大腸前がん病変と早期大腸がんの見逃し率が減少することが期待され、大腸内視鏡検査中の大腸がんの見逃し回避を解消する画期的なAIシステムだという。

 研究グループは今後は、内視鏡の治療目的で、より多くの"人間には認識が困難な平坦・陥凹性病変"をAIに学習させ、精度を上げていくとしている。

 また将来的に、画像強調内視鏡に代表される新しい内視鏡を利用し、大腸前がん病変と早期大腸がんの表面の微細構造や模様を学習させ、大腸病変の質的診断や大腸がんのリンパ節転移の予測への対応も目指している。

 さらに、CT画像、病理画像や分子生物学的情報などの情報とリンクさせ、より利用価値の高い、より人に近づけさせたマルチモーダルなリアルタイムのシステムを目指している。開発研究を進めることで、高度医療や個別化医療、遠隔診断にも貢献できると期待している。

 「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」に関する一連の研究開発は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業や日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業などの一環として行われた。

国立がん研究センター
革新的がん医療実用化研究事業(日本医療研究開発機構)
内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」医療機器承認(科学技術振興機構 2021年1月12日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2025年06月02日
肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
2025年05月20日
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化
2025年05月16日
高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
2025年05月16日
【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
2025年05月12日
メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
2025年05月01日
ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】
2025年05月01日
【デジタル技術を活用した血圧管理】産業保健・地域保健・健診の保健指導などでの活用を期待 日本高血圧学会
2025年04月17日
【検討会報告】保健師の未来像を2類型で提示―厚労省、2040年の地域保健を見据え議論
2025年04月14日
女性の健康のための検査・検診 日本の女性は知識不足 半数超の女性が「学校教育は不十分」と実感 「子宮の日」に調査
2025年03月03日
ウォーキングなどの運動で肥満や高血圧など19種類の慢性疾患のリスクを減少 わずか5分の運動で認知症も予防
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,800名)
登録者の内訳(職種)
  • 医 師 3%
  • 保健師 47%
  • 看護師 11%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 20%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶