ニュース
【新型コロナ】接触確認アプリ「COCOA」がコロナ禍の心理的ストレスを減らす? 企業従業員の心の健康をどう守るか
2021年01月26日
東京大学は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大するつれ、企業従業員の心の健康がどのように変化するかを調べ、COVID-19接触確認アプリ「COCOA」のダウンロードを行った人は、行わなかった人と比較して、心理的ストレスありと答えた割合が低下していたと発表した。
このアプリを利用することは、安心感を与え、COVID-19の拡大というストレッサーに対処することで、心理的ストレスの軽減につながる可能性がある。
このアプリを利用することは、安心感を与え、COVID-19の拡大というストレッサーに対処することで、心理的ストレスの軽減につながる可能性がある。
労働者の心理的ストレスや精神的不調を防止するために
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大下では、地域住民や労働者の心理的ストレスが増加していることが報告されており、感染防止と並んで、心理的ストレスや精神的不調の防止が重要な公衆衛生上の課題になっている。
そこで東京大学は、COVID-19により企業従業員の心の健康がどのように変化したかを調べるため、「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)」を行っている。
このほど、COVID-19の接触確認アプリ(COCOA)をダウンロードすることが、心理的ストレスの予防に効果がある可能性があることを明らかにした。
COCOAをダウンロードすることで、コロナ禍における心理的ストレスを改善できる可能性があるという。
研究は、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の川上憲人教授、佐々木那津氏らのよるもので、研究成果は「JMIR Mental Health」に掲載された。
COVID-19の拡大がストレッサーに どんな対処策が?
COVID-19の流行拡大を防止するのための手段のひとつとして、接触確認アプリが効果的であるとされている。
新型コロナウイルス感染症の流行にあたり、日本でも2020年6月19日に、厚生労働省から新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAがリリースされ、2020年12月初旬までに約2000万件以上ダウンロードされている。
COCOAを利用することは人々に安心感を与え、COVID-19の拡大というストレッサーへの対処策になる可能性がある。しかしこれまで、COVID-19の接触確認アプリをダウンロードすることが抑うつ・不安の軽減にどのような効果を与えるかは明らかになっていなかった。
そこで研究グループは、全国の企業の従業員約1,500人を対象に、「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)」を実施し、その第3回調査は2020年8月7~12日に行った。COCOAリリース前に実施された第2回調査(5月22~27日)と比較した。
COCOAをダウンロードした人は心理的ストレスの割合が半分に減少
研究グループは、COVID-19に対する心配を1項目(6件法)で、心理的ストレス(抑うつ・不安)をK6尺度で調べた。心配については「いくらか」以上を「心配あり」、K6尺度は5点以上を「心理的ストレスあり」と判定した。
K6尺度は、抑うつ、不安症状など6項目を尋ねることで、心理的ストレスを点数化して測定する自己記入式尺度。国民生活基礎調査に使われるなど、日本国内で広く使用されている。
また、第3回の調査では、厚生労働省のCOVID-19の接触確認アプリCOCOAをダウンロードしたかについても質問した。第3回調査には902人が回答し、COCOAをダウンロードしたのは184人(20.4%)だった。
その結果、COCOAをダウンロードした人では、第2回から第3回の調査にかけて、心理的ストレスの割合が減少したことが分かった。ダウンロードしていない人では逆に、心理的ストレスの割合が増加していた。
第2回調査で心理的ストレスのなかった人での第3回調査での心理的ストレスありの割合(発生率)は、COCOAをダウンロードした人で11.8%、それ以外の人で21.0%と、大きな差が確認された(χ二乗検定,p=0.04)。
基本的属性(性別、年齢、婚姻、学歴、同居する子供の有無、職種、テレワークの有無、慢性疾患の有無、5月に非常事態宣言のでた地域での居住)および第2回時点での心理的ストレスを調整した多重ロジステイック回帰では、COCOAのダウンロードと心理的ストレスの関係は、オッズ比で0.59(95%信頼区間、0.38-0.91,p=0.02)だった。
つまり、ダウンロードした人で有意に心理的ストレスが生じにくいことが示された。一方、COCOAをダウンロードした人とそうでない人の間で、COVID-19への心配の有無に有意な差はみられなかった。
COCOAをダウンロードした人では、「心理的ストレスあり」の割合が低下した
出典:東京大学大学院医学系研究科、2020年
労働者以外の一般住民でもストレス改善の効果が得られるか?
このように、COCOAをダウンロードすることには、COVID-19への心配があっても、心理的ストレスを増やさないで済むような効果がある可能性がある。
研究グループは、COCOAの心理的ストレスの改善効果が、労働者以外の一般住民でみられるかどうかを確認することを今後の課題としている。
たとえば、COCOAのインストールにより、いくらか安心して外出できるようになったり、人との交流ができるようになったりしたことで心理的ストレスが改善する可能性がある。
逆に、COCOAをダウンロードすることで、緊張が高まるなどの副作用があることも考えられる。
「研究が進むことで、感染症流行時に接触確認アプリを利用して、人々の心理的ストレスを改善し、心の健康の増進をはかることができるようになることが期待されます」と、研究グループは述べている。
新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)(厚生労働省)東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野
新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)
The Effects of Downloading a Government-Issued COVID-19 Contact Tracing App on Psychological Distress During the Pandemic Among Employed Adults: Prospective Study(JMIR Mental Health 2021年1月12日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月09日
- 子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
- 2024年04月08日
- 【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
- 2024年03月18日
- メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
- 2024年03月11日
- 肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
- 2024年03月05日
- 【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
- 2024年02月26日
- 近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も