オピニオン/保健指導あれこれ
高齢者の外出、移動の問題を考える
No.2 民間の力を借り、より魅力的な事業に
医療・保健ジャーナリスト
2017年09月01日
産官学民の協働
2017年5月、三重県松阪市の三重ダイハツ販売松阪船江店において、三重ダイハツ販売=林恒雄取締役社長、ダイハツ工業=三井正則取締役社長、松阪市=竹上真人市長、日本理学療法士協会=半田一登会長など、各団体の長が揃った報道発表が行われました。これはダイハツ工業が進めている「コトづくり」の一環として「高齢者の自己低減に受けた取組みを、産官学民での協働のもと開始」し始めたことの発表で、「いくつになっても自由に移動できる自立した生活」と「地域と連携してサポート」することを目的にしたものです。 基本的な役割は産(ダイハツ工業/日本自動車連盟)、官(自治体)、学(日本理学療法士協会)、民(住民)が担い、実施する地域によりそれぞれの主体は変わります。 そして発表後、協働の成果である「健康安全運転講座」が公開されたわけですが、一般的な高齢者のための講座とは一線を画す、興味深い内容だったのでご紹介します。
餅は餅屋
健康安全運転講座の中身と運営事業者、各者の役割は次のようなものでした。 (産=その1/三重ダイハツ販売)自社のショールームや車両を提供し、社員は講座全体の運営を円滑に進める
(産=その2/日本自動車連盟三重支部)
安全運転のための講習を担当。専門家による詳しい説明に加え、会場内の実車を使い乗車姿勢やドアミラーなどの死角についても実体験してもらう
(官=三重県松阪市)
事前の住民への周知と産学民の取りまとめ役。講座中に直接的な介入はないものの、高齢者支援課や包括支援センター、地域づくり連携課のスタッフが見守りながら、次なる連携を模索。
(学=三重県理学療法士会)
すでに松阪市の事業で高齢者のための教室を任されていたスタッフが中心となり、車を運転するために役立つ動きと運動をレクチャー。
(民=松阪市港地区周辺の住民有志)
住民同士誘い合っての参加(約20人)。松阪市は高齢者支援課などが住民による自主活動の芽を育ててきたので、有志の助け合いもかなりあった。中には民生委員が高齢者を伴っての参加も。 つまり、いずれもその道のプロが得意分野をしっかり教える体制を整え、実車やAV機器など最新のものを駆使した講座が展開されていったわけです。
明確な目的と賑やかさ
画像を見ていただければ伝わるように、会場はガラス張りの明るいショールームなので、とても華やかな雰囲気がありました。関わる人の数も多く、それぞれの講師がどこの所属なのかわかるようなユニフォームを着用し、参加者は「専門家に教えてもらっている」との意識が強く受けたと思われます。 ところで、皆さんはここに紹介している画像に、男性の参加者が多いことにお気づきでしょうか? 理由は以下のようなものがあると思われます ・テーマが自動車(安全運転)だったから・自動車メーカーの華やかなショールームが会場だったから
・いつもの市や自主活動の雰囲気と何か違うはずと思ったから さらに、地元の自動車ディーラーが会場という親しみやすさ。事前に「どのメーカーの車に乗っていても参加OK」としっかりアナウンスし、市の担当者も後押ししていることの安心感もあったはず。
もちろん、ダイハツとしてはこれを期に、より地元のお客さんとのつながりを深め、同居の家族や知人たちへの販売に結び付けようとの狙いは当然あるでしょうが、お互いに得るものあることなので、何の問題もないはず。
さらなる行政と民間の連携に期待
今、行政と民間企業などの連携が増えています。保健分野では、健診会場にコンビニエンスストアの駐車場を利用させてもらうなどの事例もあります。住民にとっても会場の選択肢が増えるよいことだと思います。 一方「行政が一企業と連携することに疑問を呈す声」もあり、A社と共に何かしようとすると「同じ業種はたくさんあるのに、A社とだけ提携するのはいかがなものか」との声があがることも珍しくありません。私の知る限り、そのような声は住民よりも役所内から出ることが多いようで、結局諦めてしまったケースもいくつか聞きました。俗にいう「事なかれ主義」ですね。 超高齢化社会では、高齢者が爆発的に増えていくのに対し、それを支えるマンパワーが圧倒的に不足します。行政だけで支えるなんて財政的にも厳しいことは明白なので、連携できる企業があるのなら、発想を変えて共に生き残る道を探るのが筋だと思う訳です。 保健指導に携わる行政の皆さんも、もし自分の働く環境で連携するとしたら、どんな企業が候補になり、何ができるのか、今一度考えてみてみませんか?「高齢者の外出、移動の問題を考える」もくじ
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