No.1 メンタルヘルスをミッションに!

大きな窓から大阪の街が一望できる高層ビル。一仕事終えて、見おろす夜景がきれいな20Fに私の小さなカウンセリングルームがあります。
ここには、自分と向き合い、自分の人生を取り戻そうと願う人たちが、やってきます。じっくり自分の心に語りかけ、たっぷりエネルギーを補充しながら、しっかり夢を育てるための第一歩を踏み出すのです。
行政で働く保健師だった私は、2005年、「うつ病」と診断されました。1年間休職をしましたが、復職を間近に控えた翌年の春、24年間の公務員生活に幕を下ろしました。ストレスに満ちた職場には戻る気持ちにはなれず、ある夜、誰もいなくなった職場に荷物を取りにいきました。パソコン立ち上げて 退職届を送信したのです。
よくドラマにあるような手書きの退職届けを提出するのではなくて、電子決裁になっていましたから、必要事項を入力してENTERを押したら、それで おしまい。24年間勤めましたが、去る時なんて本当にあっけないものでした。
アルバイト程度の仕事をしながら、自分なりのリハビリ期間をすごしました。少しずつですが、保健師としての自信を少しずつ取り戻してきた頃、ふと思い立ったのです。
「なぜ、私がうつ病になったのか?」「何があれば予防できたのか?」「もし、それがわかったら、心の健康に関することを仕事にしよう!保健師である自分が『うつ病』になったのは、きっと何か意味がある!」
そして、心理学を学び直し、自らの経験とスキルを活かすならこれしかないと、働く人たちのメンタルヘルスに関わろうと思いました。大手電機メーカーの健康管理室スタッフを経て、「会社の保健室」という屋号を掲げ、開業しました。
主な仕事は、健康相談、カウンセリングとメンタルヘルスに関する研修、メンタルヘルスに関わる人事担当者へのコンサル業務です。
産業保健の業務の中の、ほんの一部ですが、人の心とじっくりと向き合っていきたいと思ったときに、あれこれと多分野に渡るのではなく、メンタルヘルスに絞ったほうが自分らしい仕事ができると思ったからです。

メンタルヘルスの4つのケアで言うと、私がやっている仕事は、「事業場外資源によるケア」に相当します。
自社で産業保健スタッフを置くことができない規模の会社に利用されることが多く、仕事帰りや休日に立ち寄れるように、カウンセリングの時間帯は、平日の18時以降と土日です。
会社に知られることなく、安心して弱音が吐ける場を提供できるのが、事業場外資源のメリットですが、メンタル不調の原因が、業務に起因していて、会社としての対応が必要という判断をしたときには、本人の了解を得て、人事担当や、その会社の産業医と連携を取ることもあります。
今年からストレスチェックが義務化されますが、医師の面談以外の相談できる場へのニーズは高まってくると予測しています。
元気は「ワクワク」につられてやってくる。これは、私の持論です。精神科で処方された薬で、症状を軽減できても、心の苦しみのすべてを癒すものではありません。
ところが、家族の優しい声でホッとしたり、職場の仲間や上司の確信を持った一言で勇気をもらったりします。気持ちが癒され、心に元気が戻ると、ワクワクが芽生えてきます。
保健師としてメンタル不調者と出会うと、「病気を治す」ことを共通の目標に二人三脚が始まります。私たちは、つい、相手が訴える症状に目が行きがちですが、その人が、どんな仕事をし、どんな家庭に育ち、どんな人間関係を結び、どんな人生を歩みたいと望んでいるのかに思いを馳せてみると、その人が元気になれる源が見えてくることがあります。
「人生のしょんぼりはワクワクに変える」というのが、私のミッションです。
人には、心が動き出す源があります。症状ばかりではなく、病の不安で凍り付いて固まっている心に、「ワクワク」の光を当てると、少しずつ、少しずつ、緩み始めます。そして、その人らしい生き方が顔を見せ始めます。 私たちが支援するのは、「人」であり、「病気」ではありません。病気があっても、障がいがあっても、「その人らしさ」に焦点を当てて、何が心を動かす源かをみつめます。
そこには、必ず「ワクワク」の源があります。「病気を治す」をゴールにするのではなく、「いかに人生をワクワク楽しむか」に焦点を合わせたときに、その人らしい人生を取り戻すことができるのです。
メンタルヘルスをミッションにするということは、その人の生き方に関わることです。それは、メンタル不調を引き起こした生き方を見直し、考え方の幅を広げ、日々の行動を変えることへの支援なのです。
「ストレスチェック制度と産業保健師の役割」もくじ
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