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家庭では心停止患者の心肺蘇生の実施率が低い 「動揺」などが原因
2014年12月03日

患者の家族が心停止を目撃した場合には、知人や同僚らに比べて、「119番の早期通報」や「心肺蘇生を含めた適切な一次救命処置」を実施する比率が低く、結果として心停止患者の生存率が悪いことが、約55万人のデーターを解析した調査で明らかになった。
心停止患者の家族は心肺蘇生の実施をためらう
この研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系の田中良男協力研究員、前田哲生助教、稲葉英夫教授らの研究グループによるもの。
研究グループは、2005年~09年に国内で発生した55万人の患者に関する総務省の「ウツタインデータ」をもとに、目撃者と患者との関係を調べた。
ウツタインデーターは、院外心停止症例を対象とした統一された記録方法であり、国際的に広く使われている。日本では2005年より消防庁などが導入している。
データがはっきりしていた14万人の患者を、目撃者によって「患者の家族」「患者の友人や同僚」「その他」に分けた。その上で、「口頭指導の成功率」「心肺蘇生の実施率と実施までの時間」「119番通報までの時間」「機能良好1ヵ月生存率」を解析した。
その結果、心停止を目撃したのが「患者の家族」であった場合には、自分の家族が心停止している状況で、▽心肺蘇生の実施率は低く、▽心肺蘇生の開始や119番通報も遅れ、▽結果として生存率が最も低いことが明らかになった。
これらの結果は夜間よりも日中に顕著だった。また、もっとも生存率が高かったのは「患者の友人や同僚」が心停止を目撃した場合だった。

家族が心肺蘇生などの対応をできない理由
心停止は突然に起きることが多い。どこで心停止したかによってその人の命運は左右される。
病院外で発生した心肺停止患者の生存率を向上させるためには、目撃者の迅速な一次救命処置が重要だ。そのため、世界各国で一般市民向けの一次救命処置に関する講習会が積極的に行われている。
しかし、実際の心停止の現場では、目撃者がそのような適切な救命処置を行う比率は依然低いことが問題となっている。
「心停止の多くは自宅で発生するので、患者の家族がその目撃者となる場合が多い。また、日中は自宅内にとどまる家族の人数は減少し、目撃者の人数が1人になることが多い」と、稲葉教授らは指摘。
患者の家族が心肺蘇生などの適切な対応をできない背景として、「精神的動揺など心理的な要因」や、「助けになる人がそばにいない」などの複合的な要因が影響しているという。
また、少子高齢社会の日本では、日中に自宅にいる家族の人数が減る傾向にある。日中に高齢者夫婦のみが自宅にいる場合が多くなり、心停止に対する適切な対応ができない可能性が高い。
「ファーストレスポンダー」を支援する対策も必要
「『患者の家族は心肺蘇生の実施をためらう』という事実を社会全体が認識して、自宅で家族が心停止した場合を想定した新しいシナリオなどを用いた心肺蘇生法の講習会や、通報時に通信指令員が行う心肺蘇生の口頭指導の工夫が必要だろう」と、稲葉教授らは指摘している。
近年は認知症や体力低下の予防のために、高齢者が日中に自宅で過ごすのではなく、社会福祉サービスなどを利用し積極的に自宅外での活動に参加することが推奨されている。
自宅以外で心停止になった場合には、家族以外の複数の市民が目撃者となる確率が高く、結果として生存率は向上する。「日中に自宅以外の公共の場で過ごす事は重要」と指摘している。
さらに、消防本部からの指令を受け救急現場に駆けつけ応急手当を行う一般人を示す「ファーストレスポンダー」を支援する対策も必要だという。
「石川県メディカルコントロール協議会」が日本で先駆けて石川県加賀市に導入した制度では、出動要請を受けたファーストレスポンダーが、隊員証や応急手当キット、AEDなどを持って駆け付け、救急隊が到着するまでに心肺蘇生などを実施している。
「よく訓練された近隣住民が蘇生の手を家庭に差し伸べることで、救命率の向上が可能になる」と、研究チームは強調している。
金沢大学
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