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肥満をストップ 専門家に聞いた「体重を減らす確実な方法」

 一般社団法人日本肥満症予防協会は6月6日に東京で、設立記念セミナー「STOP!! 肥満症?ご存知ですか? 肥満が招く11の病気」を開催した。どうすれば体重を減らし肥満を改善できるかを、肥満医療に携わる専門家がそれぞれの立場から最新の知見にもとづき解説した。
まずは「体重の3%を減量すること」を目指すと成功しやすい
 「日本人には軽度の肥満であっても、さまざまな健康障害を引き起こす"内臓脂肪型肥満"の人が多くみられます。そうした人でも、体重を3%以上減らすだけで内臓脂肪が減り、検査値が改善することが多いのです」と、結核予防会理事・総合健診推進センター長の宮崎滋氏は説明する。

 肥満やメタボの原因になる内臓脂肪が蓄積すると、中性脂肪が増加し、善玉のHDLコレステロールが減少しやすくなる。さらに、脂質と糖質の代謝をコントロールしている"アディポサイトカイン"という生理活性物質の分泌異常を引き起こし、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなり、結果として動脈硬化が進行しやすくなる。

 あいち健康の森健康科学総合センターで実施された保健指導では、6ヵ月間で体重を3kg、BMIを1kg/㎡、ウエスト周囲径を2cm、それぞれ減らすことで、血圧値・血中脂質値(HDLコレステロール・中性脂肪)・血糖値などが改善することが確かめられた。

 特定健診のウエスト周囲径の基準値となっている"男性85cm/女性90cm"は、内臓脂肪を早めにチェックするための良い手段になる。体重の3%以上の減少を達成するために、食事と運動をコントロールすることが重要となる。
睡眠不足が3日続いただけで肥満や糖尿病になりやすくなる
 「睡眠不足や睡眠障害が肥満症、糖尿病、高血圧症などの発症の危険因子であることが、さまざまな研究で明らかになっています。睡眠時間だけでなく、睡眠や食事などの生活リズムも、生活習慣病と密接な関連があります」と、塩見利明・愛知医科大学医学部教授は言う。

 総務省の社会生活基本調査(2011年)によると、日本人の睡眠時間は減少傾向にある。平均睡眠時間は7時間42分で、とくに45歳以上で減少している。睡眠時間は多すぎても肥満の増加につながるが、十分な睡眠時間を毎日確保することが望まれる。

 また、睡眠不足は食欲を調節するホルモンの分泌にも異常をもたらし、睡眠不足が3日続くと肥満や糖尿病に悪影響を及ぼすおそれがあることが指摘されている。

 「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)は睡眠中、上気道の狭窄が原因で、いびきが生じ、無呼吸が出現する疾患だ。そのため、睡眠の断裂が生じ、昼間に眠気が生じる。主症状の夜のいびき・無呼吸と昼間の眠気が、体に悪い影響を与えている。

 「SASに加えて、昼間に強い眠気が起こるナルコレプシーや、レストレスレッグス(むずむず脚)症候群など、ほとんどの睡眠障害に対して、近年は保険診療が可能となっています。睡眠についての悩みをもっている人は、肥満症を改善するためにも、早めに医療機関に相談することをお勧めします」と、塩見教授はアドバイスしている。
玄米を食べると高脂肪食に対する食欲を抑えられる
 2000年代に入り、長寿県として有名だった沖縄で男性の平均寿命が急降下した「沖縄クライシス」は、医療・保健従事者に衝撃を与えた。欧米型の高カロリーの食事がいち早く普及したことで、メタボリックシンドロームのワースト県となった沖縄の現状は、日本全体の近未来の姿とも言われている。

 「玄米は沖縄で古くは良く食べられていましたが、欧米型の食事スタイルが普及した結果、あまり食べられなくなりました。実はこの玄米に血糖値の上昇を抑制する成分が含まれることが分かってきました。その成分が"γ-オリザノール"です」と、益崎裕章・琉球大学大学院医学研究科教授は言う。

 メタボリックシンドロームの人を対象に行われた過去の研究でも、玄米をよく食べる人では体重の減量、血糖値の低下、血管の改善などの効果を得られることが明らかになっている。益崎氏らの研究チームは玄米の胚芽に含まれる「γ-オリザノール」という成分に着目した。

 細胞小器官のひとつである小胞体は、「タンパク質の加工工場」と呼ばれており、さまざまなタンパク質の合成に関わっている。小胞体の中に役割を終えて不要になったタンパク質や、異常なタンパク質が蓄積すると、機能障害を起こるのが「小胞体ストレス」だ。

 高脂肪の食事を続けると、摂食中枢で小胞体ストレスが起こり、高脂肪食への依存性がさらに高まる。研究チームは過去の研究で、γ-オリザノールにこの小胞体ストレスを低下させる効果があることを突き止めた。

 γ-オリザノールの化学構造式は、小胞体ストレスを抑制する化学物質に似ているという。γ-オリザノールが小胞体ストレスを抑えβ細胞の細胞死を抑制し、インスリン分泌能を高める作用をすることが明らかになった。

 「玄米を食べると、高脂肪のジャンクフードを好まなく、食事のバランスが改善し、体重増加が抑制されることも分かっています。古くから食べられている玄米にはメリットが多くあります」と、益崎氏は指摘している。
運動による肥満対策には長期的な視点が必要
 肥満症に対する治療は、食事療法・運動療法・薬物療法に、行動療法を組み合わせて、患者の意欲を維持しながら行われる。肥満症の患者が主体的に自分自身で生活をマネジメントすることが求められる。

 しかし、生活習慣のマネジメントには、個々の患者の動機付けに個人差があり、生活習慣を改善して維持するのが難しいという問題がある。患者によっては、ストレス発散のために過食したり、長期間につくられる食事習慣を変えるのが難しいなど、肥満のセルフマネジメントには困難が伴う。

 「食事で摂取するエネルギーを運動で消費するエネルギー以下にすることが基本です。食事を減らしても栄養バランスを崩さないようにし、間食・早食い・夜食などの内臓脂肪をためる食習慣を改める必要があります」と、日本肥満症予防協会副理事長の齋藤康氏はアドバイスする。

 体重を減さそうとジョギングをしたりスポーツジムに通ったりしても、期待と裏腹にかえって太ってしまう人は少なくない。「運動をしたという達成感があり、エネルギーをたくさん消費したと思いがちですが、1時間の運動により消費量は100kcalしか増やせません。運動によって消費できるエネルギーは意外に少ないのです」と、齋藤氏は説明する。

 多くの人が運動して一汗かいた後で、飲んだり食べたりしてしまうが、これが落とし穴になる。消費量以上のエネルギーを摂取すると体重は増える。「運動を続けることで、エネルギーを消費しやすい体に変わっていきます。運動の効果は長期的にみた方が良いのです」と指摘している。
糖質制限ダイエットの効果は本物?
 パネルディスカッションでは「炭水化物を制限する"糖質制限ダイエット"が流行していますが、体重をコントロールし、ウエスト周囲径を減らすためにどのような食事法が効果的でしょうか」という質問が出た。

 これに対し、「糖質を制限すると、余った糖を脂肪に変えて脂肪細胞に蓄える働きをするインスリンの分泌を抑えられますが、やせられたとしても短期的な効果しか望めません。多くの人にとって、エネルギーを適正量にコントロールし、そのうえで糖質を摂り過ぎないようにするのがベストです」と回答された。

 食事の基本は、三大栄養素のタンパク質、脂肪、炭水化物(糖と食物繊維)のバランスだ。「日本人が食べる食品の50?60%が糖質で、糖質を減らすと、タンパク質と脂肪が増え過ぎてしまうおそれがあります。糖質制限によって、必要な栄養素のひとつを極端に減らすのは栄養バランスを欠くことになります」と指摘された。

 糖質制限食によって短期的に減量効果を得られたという報告があるが、数年後には体重がベースラインにほぼ戻ったという報告もある。脂肪のエネルギーは1g9kcalで、タンパク質や炭水化物の2倍以上だ。主食であるご飯の量を減らすと逆に脂肪の量が増え、エネルギーが増えて太りやすくなるおそれがある。

 「食事を完璧にコントールしようと思わないことも大切です。好きな食べ物をやめるとストレスになります。自分の食事で何が問題になっているかを知り、減らせる食べ物を決め、エネルギーを徐々に減らす方法であれば長続きします」と回答者はアドバイスした。

一般社団法人 日本肥満症予防協会
[Terahata]
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