ニュース
「森林セラピー基地」でウォーキング ストレスが減りがん予防の効果も
2016年08月31日

森林に身を置くと、心が落ち着き、居心地の良さを感じる――そんな経験をおもちの人は少なくないだろう。最近の研究で、木々に囲まれた自然が豊かな環境でウォーキングをすると、「ストレスホルモンが減少し、免疫力が上がり、がんをはじめとするさまざまな病気の予防につながる」ことが明らかになってきた。
森林ウォーキングには多くの効果がある
研究は日本医科大学衛生学公衆衛生学の李卿氏らによるもので、科学誌「Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine」に発表された。
研究には19人の中高年の男性が参加した。参加者は、長野県飯山市の森林環境に2泊3日で滞在し、森林の中を朝と夕方に、80分をかけて2.6kmのウォーキングをした。
雑木林、ブナ林および杉林の森林遊歩道をウォーキングし、その前後に採血し、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性を調べた。
その結果、森林浴によって抗がんタンパク質が増加し、NK細胞が活性することが確認された。森林からのフィトンチッドと森林浴によるリラックス効果がこの活性化に寄与したと考えられる。
また、森林をウォーキングすることで、アディポネクチンが増えていた。アディポネクチンは脂肪組織で作られるホルモンで、抗炎症作用とインスリンの効果を高める作用がある。肥満者や2型糖尿病患者ではアディポネクチン血中濃度が低いことが多い。
「森林浴」の3つの効果
「森林浴」は1980年代に提唱され、それ以来、徐々に国内で普及してきた。森林浴は、血糖値、血圧およびストレスホルモンを低下させ、自律神経のバランスを整え、リラックス効果をもたらすと報告されている。
【森林浴の主な効果】
森林浴効果(1) がんへの抵抗力が高まる
森林浴によって、3つの抗がんタンパク質(パーフォリン・グランザイム・グラニュライシン)が増加し、がんを破壊するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が上昇する。
森林浴効果(2) ストレスが減少する
ストレスが増えると収縮期血圧や拡張期血圧が上昇し、脈拍数が増える。森林でウォーキングすると、これらの数値が低下する。また、ストレスホルモンのコルチゾールは、森林にいるときは、都市にいるときに比べて減少することが実証されている。
森林浴効果(3) リラックス効果が高まる
交感神経は身体の活力が活発なときに高まり、副交感神経は身体がリラックスしているときに高まる。森林では、都市にいるときと比べ、交感神経の活動が抑制され、副交感神経が優位になることが明らかになった。
長野県飯山市の「森林セラピー基地」
「森林セラピー基地」は、森の香りや空気の清浄さ、美しい森の景観などによるリラックス効果が科学的に実証され、関連施設などの自然・社会条件が一定の水準で整備されていることが認定された地域。全国で62の地域が「森林セラピー基地」として認定されている。
長野県飯山市は2006年に日本で最初の「森林セラピー基地」の1つとして認定を受けた。飯山市の森林セラピー基地は大きく2つに分かれており、「母の森・神の森」と名付けられている。「母の森」は、なべくら高原、黒岩山、斑尾高原のブナの森一帯と、湿原や湖沼が点在する斑尾高原の2つのエリアがある。
「神の森」は、市の東側に位置する小菅山麓の小菅神社奥社に続く杉並木の古道と北竜湖畔周遊の道がある。それぞれに拠点施設を設け、2つのエリアを信越トレイルが結ぶ。
「母の森」と「神の森」2つのエリア合わせて全部で30コースが用意されている「森林セラピーロード(森林浴歩道)」は、時間や体力、目的などに合わせて柔軟に設計されており、初心者から上級者まで幅広く対応している。
「森林セラピー基地」は全国に整備されている
日本は世界でも有数の森林大国だ。国土の67%を森林が占め、先進国ではフィンランドに次いで2番目に森林率が高い。米国、ドイツ、スイスなどの森林率が30%であることを考えると、日本人がどれだけ豊かな森林に囲まれて生活しているのかが実感できる。
木々の中に立っているだけで、心がゆったりとやさしい気持ちになったり、疲れが癒されリラックスした気持ちになれる。本来、自然の中で生活してきた私たち人間は、森の中に囲まれているだけでも落ち着く。
現代社会では生活習慣病やメンタルヘルス(心の健康)の不調が問題になっている。心と身体の健康への関心が高まるにつれ、森林浴に対する期待も「健康になりたい」「ストレスを解消したい」という積極的なものになっている。
「森林セラピー基地」に認定されている森は歩きやすく、ほとんどが緩やかな勾配で、中には車いすでも入ることのできるバリアフリーのロードもある。近くの「森林セラピー基地」に出かけてみてはいかがだろう。
森林セラピー 総合サイト日本衛生学会 森林医学研究会
Effects of Forest Bathing on Cardiovascular and Metabolic Parameters in Middle-Aged Males(Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine 2016年6月8日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2023 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「健診・検診」に関するニュース
- 2023年08月09日
-
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より - 2023年08月08日
- 若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
- 2023年07月28日
- 2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
- 2023年07月24日
- 標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
- 2023年07月11日
- 自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
- 2023年06月20日
- 肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
- 2023年06月12日
- 自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
- 2023年06月05日
- 要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
- 2023年05月19日
- 令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
- 2023年05月18日
-
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-