健診におけるHbA1c酵素法、グリコアルブミン測定の有用性
健診におけるHbA1c酵素法、グリコアルブミン測定の有用性
〜異常ヘモグロビン例への対応を含めて〜
異常ヘモグロビン症はHbA1c以外の異常を呈さないため見過ごされやすい
HbA1cが異常値を示す主な疾患・病態を表1に挙げる。このうち例えば肝硬変や腎不全などによるものは病歴や一般的検査により基礎疾患の存在を想定できる。しかし、赤字で示したものは症状が少なく一般的検査には異常が現れないことから、HbA1cしかみていないと背景因子に気づかず血糖コントロールの判断を誤ることがある。具体的には、異常ヘモグロビン症がその多くを占める。
- 急激に改善した糖尿病
- 鉄欠乏性状態・妊娠
- 赤芽球癆
- 一部の異常ヘモグロビン症
- 急激に発症・増悪した糖尿病
- 赤血球寿命の短縮する疾患
溶血性貧血(代償性溶血)、出血、肝硬変
慢性腎不全(腎性貧血)
エリスロポエチンの治療期
鉄欠乏貧血の治療期 - 大半の異常ヘモグロビン症
〔古賀正史. 日本臨牀 70(S3) : 438-441, 2012より改変〕
そもそも、かって電気泳動を用いて異常ヘモグロビン症を見いだす研究が行われていたとき、糖尿病患者の検体は糖化ヘモグロビンのピークが高く現れることがわかり、それがHbA1c発見につながったという経緯がある。そのためHbA1cの測定法として最初に臨床応用されたHPLC(high performance liquid chromatography;高速液体クロマトグラフィー)法では、異常ヘモグロビン症の血糖コントロールを正確に把握できないという宿命的な問題がある。
酵素法等、HPLC法以外の測定法は異常
ヘモグロビンの影響をほとんど受けない
アミノ酸の変異があるとその糖化産物はHbA1cとは異なる位置に泳動されてしまう。そのため、HPLC法では通常、異常ヘモグロビン症のHbA1cは偽低値となる。しかし、変異のタイプによっては異常ヘモグロビンの泳動される位置がHbA1cと重複し、偽高値となる。一方、比較的新しい測定法である免疫法、酵素法などは異常ヘモグロビン症の影響を受けることはほとんどない。
なお、異常ヘモグロビン症以外に、溶血が亢進しているとHbA1cは測定法に関わらず偽低値を示すが、造血作用により溶血が代償されている状態(代償性溶血)ではそれに気づきにくい。
HbA1cが異常値である可能性を
常に念頭におくことが求められている
日本人の異常ヘモグロビン症の頻度は2,000 〜 3,000人に1人と言われており、比較的稀ではある。しかし、そうと知らずにHbA1cが偽低値であった場合、糖尿病の発症や血糖管理状態の悪化を見逃し、合併症の進行を許してしまう。逆に、偽高値であれば薬物介入により医原性低血糖を惹起する危険を孕む。したがって、検査結果として示されたHbA1c値が異常値である疑いを常に念頭に置き、測定法の差異を理解しておくことが求められる。そこで現在の主なHbA1c測定法を解説する[表2]。
測定原理 | 単 位 | 特 徴 | |
---|---|---|---|
HPLC法 | % | 多数のエビデンスがある 異常ヘモグロビン症で異常値(※2) |
|
免疫法※1 (IA) |
% | 分析特異性 抗原性の亢進例の存在 |
|
酵素法※1 (EA) |
%(mol比で求め換算) | 分析特異性 化学量論的 IFCC法と原理が近似 |
|
IFCC法 | nmol/mol | 化学量論的 製品はなし 測定時間が約25時間 |
[古賀 正史 先生提供]
当初はHPLC法のみの時代が続いたためにDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)など初期の大規模スタディに採用され豊富なエビデンスがあるが、弱点は異常ヘモグロビン症で正しく測定できない点である。
次に開発されたのは免疫法で、大半の異常ヘモグロビン症でも正しく測定できる。しかし、一部では抗原性の亢進により異常値が出る。これについては後述する。
続いて十年ほど前に臨床応用されたのが酵素法で、これはヘモグロビンのβ鎖N末端の糖化部位を蛋白分解酵素により切り出して測定する。国際基準の測定法であるIFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine;国際臨床化学連合)が定める測定原理に非常に近い。酵素法も大半の異常ヘモグロビン症を正しく測定できる。
これらの測定法を組み合わせて用いることで、HbA1c異常値の見逃しを減らし、原因の鑑別が可能となる。なお、IFCC法は前述のように国際基準の測定法だが、分析が煩雑でコストも高く製品化されていない。
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