ニュース

糖尿病治療に「IoT」を活用 高い介入効果 経産省の実証事業

 スマートフォンアプリなどを利用し、糖尿病有病者や予備群のHbA1c、血圧、体重、歩数・活動量などを記録し、それをもとにして必要に応じて医師や保健師、管理栄養士などが遠隔でアドバイスするプログラムが各地で行われている。実証試験が行われ、HbA1cが改善した事例も報告された。

 こうした実証事業について、経済産業省が2月に開催した「企業保険者等が有する個人の健康・医療情報を活用した行動変容に向けた検討会」で報告された。インターネットや週1回以上のメールなど即時性を活かした介入の効果が高いことが分かった。

 実証事業は、NTTデータ経営研究所や愛知県健康づくり振興事業、名古屋大学などで構成される8コンソーシアムで実施された。
埼玉県の糖尿病腎症重症化予防対策
 「IoT」は、歩数計や体重計などのモノをインターネットを介してつなげて、情報交換することで相互に健康増進の効果を上げていこうという考え方。情報・通信に関する技術である「ICT」が発達し、「IoT」を医療・保健分野に役立てようという動きが活発になっている。

 人工透析が必要となる患者が増えており、糖尿病性腎症が最大の原因となっている。埼玉県では特定健診やレセプト(診療報酬明細書)のデータを活用して、糖尿病が重症化するリスクの高い人が人工透析に移行するのを防止するため、2014年度から糖尿病腎症重症化予防対策が行われている。

 この事業では、市町村が事業主体となり、ハイリスク者のうち、医療機関未受診の人や治療中断している人への受診勧奨、また、糖尿病で通院中の方への食事・運動などの保健指導を行う。

 その事業を支援するために提供されるのが、県、市町村、かかりつけ医と連携し、患者に対するスマートフォンアプリなどを活用するIoTによるプログラムだ。
自己管理を促し糖尿病の重症化を予防
 「IoTを活用した埼玉県糖尿病重症化予防継続支援事業」は、NTTデータ経営研究所が代表となり、埼玉県、日本医師会・日本医師会総合政策研究機構(日医総研)、埼玉県医師会などが協力して行われている。

 プログラムの目的は、医師による指導とセルフモニタリング(歩数や血圧、体重などの数値の記録・フィードバック)を実施することで、参加者の日常生活での自己管理行動の維持や重症化予防を促すこと。

 参加者は、歩数計や体重計、血圧計で測定したデータをスマートフォンのアプリに送信し、グラフなどで可視化。同時にデータは医師に送られて診療サポートに役立てられる。

 対象となったのは、埼玉県内のかかりつけ医の通院治療を受けている患者で、HbA1c6.5%以上、経口血糖降下薬を1種類以下服用し、腎症2期以下に該当する患者。かかりつけ医による同意取得者は56人、実証参加者は55人だった。

 プログラムでは、参加者が約3ヵ月計測した歩数・血圧・体重を、医師が診察時に閲覧し運動や食事の指導を行った。また、3日以上血圧・体重データの登録がなかった場合、ヘルプデスクが参加者に直接架電をして登録を促す運用ルールが設けられた。
運動や食事に意識や行動の変化が
 結果を検証したところ、HbA1cについては実証開始時・終了時の比較で有意差はなかったが、運動や食事に意識や行動の変化がみられた。週1回以上のウォーキングを行っている人は37.1%から97.1%に増加した。

 さらに、体重を週1回以上測っている人は51.4%から100.0%に、血圧を週1回以上測っている人は60.0%から100.0%に、それぞれ増加した。摂取エネルギー量(カロリー)や塩分量の制限を週1回以上行っている人も54.3%から77.1%に増加。

 参加者からは「日々のデータが蓄積されるので、張り合いが出る」「家で炬燵に当たってばかりだったため、コタツ虫と言われていたが、外出するようになった」「手間もさほどかからず、自分自身で数値を確認できるため、健康に対する意識が高まり良かった」とったコメントが寄せられた。

 参加者のうち、「体調管理についての理解度が向上した」という人は54%。「診察時にデータの推移や変化の確認を行いアドバイスしてもらえた」「医師のデータによる指導が具体的でわかりやすく、やる気が出た」といったコメントが寄せられた。
医師と患者のコミュニケーションが向上
 また、医師と参加者の6割前後が体調管理についての理解度が向上し、医師・対象者間の会話も増加したと回答。プログラム実施が、医師と患者のコミュニケーションの向上に寄与した。

 医師からは、「患者の体調管理についての理解度が向上した」(62%)、「患者との会話が増えた」(46%)という感想が寄せられ、「データを見ることにより、診察時に話す内容がより具体的になった」「診察日以外の生活状況が把握できて良いと思う」といったコメントが寄せられた。

 一方、指導主体の考え方としては、「指導は、医師が行なったほうがよい。かかりつけ医は、患者の生活背景や性格を熟知した上で、患者の病態や処方などの診療全体をふまえて指導できる」「管理栄養士や保健師などは、生活全体を聞き出すスキルを持っている場合が多い。チームでアプローチができるとよい」といった意見が出された。

 同コンソーシアムはこうした結果をふまえ、日本糖尿病学会や日本医師会、自治体などと連携し、糖尿病患者を対象に新規事業を行う考えだ。
七福神が応援メッセージ 生活習慣改善を支援
 愛知県健康づくり振興事業団が代表になり実施されているプログラム「チーム七福神」では、医療ICTを活用した遠隔診療に加え、結果に応じて七福神が応援メッセージを送ってくれるアプリを活用し、行動変容を支援する。

 「チーム七福神」は、知県健康づくり振興事業団や名古屋大学医学部糖尿病内分泌内科が企画・実証・評価を行い、日本オラクル、オムロンヘルスケアなどが協力して実施されている。

 治療中の糖尿病患者や健診でHbA1cが高いことが分かった人を対象に、活動量などのIoT情報を活用して、新たに開発した「七福神アプリ」によって、生活習慣改善を支援したり、患者の行動変容を促し検査値を改善することなどを目的にしている。

 身体に装着した電子機器から日々の活動量などを収集し、そこで得られた健康情報を新規開発したアプリの「七福神キャラクター」による応援メッセージに変換し、各患者に配信することで、生活習慣における行動変容を促し、検査値改善を目指す。
HbA1c値が改善 参加者からも好評
 181人の対象者を介入の有無に分けて改善状況を検討した結果、投与治療歴がある症例では、HbA1c値の減少は介入群で0.85%(7.48%→6.63%)、非介入群で0.49%(7.26%→6.77%)だった。「HbA1c 0.6%以上低下」の割合は、介入群で39.0%、非介入群で20.4%だった。また、「HbA1c改善率が5%以上の例」の割合は、介入群で52.5%、非介入群で31.5%だった。

 いずれもIoT利用の優位性が示された。今後は6ヵ月後のHbA1cなどのデータを取得し、継続効果を確認する予定だという。

 七福神メッセージについては、参加者、指導者に対しおおむね良好な反応が得られ、デバイスの装着状況や値がリアルタイムに分かることで、より早い対応や適切な指導につなげられるという意見が出された。

企業保険者等が有する個人の健康・医療情報を活用した行動変容に向けた検討会
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2024年04月25日
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠
2024年04月22日
【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
2024年04月18日
人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月18日
健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月09日
子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
2024年04月08日
【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
2024年03月18日
メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
2024年03月11日
肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
2024年03月05日
【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
2024年02月26日
近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶