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緑茶カテキンが膵臓がんに対する新たな治療薬に がん幹細胞を阻害
2017年06月01日

九州大学は、膵臓がん幹細胞の機能を阻害する化合物を発見したと発表した。この化合物は、緑茶カテキンの一種である「EGCG」の水酸基をメチル化したもの。膵臓がんに対する新たな治療薬となる可能性がある。
がん幹細胞を阻害する治療法を開発
渋み、苦み、旨みなどの独特な味わいをもつ緑茶には、さまざまな生理活性のある天然物として注目を集めているカテキンの一種である「EGCG」(エピガロカテキンガレート)が含まれる。
研究は、九州大学院農学研究院の立花宏文主幹教授らの研究グループが、東京工業大学田中浩士准教授の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、国際学術雑誌「Scientific Reports」に発表された。
膵臓がんは治療が困難ながんとして知られており、5年生存率はわずか5%程度と非常に低いのが現状だ。
抗がん剤の使用により一時は治ったように見えても、一部がまだ残っていたり、がんが既に別の場所に転移していたりして再び増殖し、再発してしまうことが多い。
がんの転移と再発で重要な役割を担っているのはがん幹細胞だ。がん幹細胞は、抗がん剤に強い耐性をもつ。
そのため、既存の治療薬ではこのがん幹細胞が残存してしまい、これが増殖・分化することで再発が起こると考えられている。
がん幹細胞は転移にも関わっており、このがん幹細胞を有効・安全に阻害する治療法が求められている。
緑茶のEGCGがん幹細胞を抑制
研究グループは過去の研究で、膵臓がんのがん幹細胞を抑制するために、がん細胞の成長を抑える因子である「FOXO3」が重要な役割を果たしていることを確かめた。細胞内で酵素の活性を調節する分子「cGMP」が、FOXO3の発現を低下させると、がん幹細胞は抑制される。
さらに、緑茶の主要な成分であるEGCGが、がん細胞表面に発現する膜タンパク質で、抗がん作用を仲介する「67LR」を活性化してcGMP産生を誘導することを突き止めた。
そこで、EGCGとcGMPを分解する酵素である「PDE3」を阻害する薬剤を膵臓のがん細胞に投与したところ、がん幹細胞機能の指標であるスフェロイド形成能が抑制されることが判明した。
研究グループは、EGCGとPDE3阻害剤の併用効果が生体内でも発揮されるか確認するために、膵臓がんを移植したマウスにEGCGとPDE3阻害剤を投与した。
その結果、原発巣の腫瘍成長が劇的に抑制された。その作用は、現在膵臓がんの治療薬として用いられている「ゲムシタビン」よりも強力だという。
さらに、転移に対する効果を検討したところ、EGCGとPDE3阻害剤の併用は、膵臓がんの肝臓への転移も抑制することも明らかになった。
EGCGの化合物が強力なアゴニストに
また、EGCG誘導体の中からスフェロイド形成能阻害活性にもとづくスクリーニングを行った。
その結果、EGCGの5、7および4'位の水酸基がメチル化された化合物「No.19」が強力な作用を示した。また、膵臓がん幹細胞を移植したマウスにNo.19を投与したところ、EGCGとPDE3阻害剤の併用と同等以上にマウスの生存期間延長作用が認められたという。
今回の研究により、67LRの活性化因子である緑茶カテキンEGCGの作用増強が膵臓がん幹細胞機能の阻害に有効である可能性が示された。
67LRの強力なアゴニスト(作動薬)は膵臓がんに対する新たな治療薬となることが期待される、と研究グループは述べている。
九州大学院農学研究院
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