ニュース
「遺伝子検査」で糖尿病リスクが分かる 日本人4700人超を調査
2018年05月23日

日本人を対象に大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行うことで、2型糖尿病に関連する遺伝子と、糖尿病の発症しやすさとの関係が明らかになった。多目的コホート研究「JPHC研究」の成果。
「遺伝子多型」で2型糖尿病の発症を予測
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
研究グループは、1990年と1993年に、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎の9保健所管内に在住していた4,753人を対象に、糖尿病の感受性があるとみられる「遺伝子多型」による2型糖尿病罹患の予測能との関係を調べた。
ヒトの全遺伝情報を「ヒトゲノム」と言う。ヒトゲノムは文字に換算すると約30億文字に相当する膨大な情報だ。ヒトゲノムの個人差は約0.1%であり、数にすると約300万文字相当の遺伝情報が個人間で異なることが分かっている。ヒトゲノムにみられる遺伝情報の違いが、2型糖尿病やがんの発症しやすさなどの個人差につながっていると考えられている。
ヒトゲノムにみられる遺伝情報の違いは、1~5%以上であれば「多型」と呼ばれている。多目的コホート研究では、ヒトゲノムにみられる遺伝情報の違いのうち多型を主な対象として、2型糖尿病やがんなどのゲノム研究が行われている。
ヒトゲノムの遺伝情報は、DNAの塩基配列というかたちで細胞の核に保存されている。ヒトゲノムの塩基配列を調べると、1ヵ所の塩基配列が個人間で異なっていることがある。このように、ヒトゲノムにみられる一塩基の変化は「一塩基多型」と呼ばれる。
11ヵ所の「糖尿病感受性遺伝子多型」を分析
2型糖尿病の発症に遺伝的要因が関わっていることが分かっており、特定の遺伝子の違い(多型)があると、2型糖尿病を発症しやすくなることが報告されている。これは「糖尿病感受性遺伝子多型」と呼ばれる。
「ゲノムワイド関連解析」(GWAS)は、約30億の塩基配列で構成されるヒトゲノム全体をカバーするように、一部の代表的な塩基配列を選んで網羅的に分析する研究だ。
これまでにGWASにより、日本人でも数十個以上の遺伝子多型が2型糖尿病と関連することが報告されている。研究チームは今回の研究で、遺伝子多型が糖尿病リスクにどう関わっているかを調査した。
研究の対象となったのは、1995~1998年に行った5年後調査で5年間に新たに糖尿病を発症した466人と、発症しなかった1,361人。5年後調査や2000~2003年に行った10年後調査の時点で糖尿病と判定された1,463人と、判定されなかった1,463人。
研究チームは計4753人を対象に、これまでゲノムワイド関連解析で同定された遺伝子多型のうち、代表的な11ヵ所の遺伝子多型について、年齢、性別、居住地域を統計学的に調整した上で分析を行った。
「糖尿病感受性遺伝子多型」が多いほど糖尿病リスクは高い
その結果、「CDKAL1」「KCNQ1」「CDKN2A/B」という遺伝子領域に特定の多型(糖尿病感受性多型)をもつ場合は、糖尿病のなりやすさ(オッズ比)が、それぞれ1.28倍、1.21倍、1.27倍であることが分かった。
次に、5年後調査以降の5年間に、糖尿病を発症した人と発症しなかった人(計1,827人)を対象に、糖尿病感受性遺伝子多型をもつ数で5つのグループ分け、糖尿病罹患の発症リスクを比較した。
その結果、糖尿病感受性遺伝子多型をもつ数がもっとも少ないグループに比べ、もっとも多いグループの糖尿病リスクは2.34倍に上昇することが分かった。

遺伝子多型の検査を加えると糖尿病の予測が高まる
研究グループは「日本人の一般集団において、従来の糖尿病リスク因子に遺伝子多型の情報を加えると、糖尿病罹患の予測能が高まる可能性がある。一方で、予測能の向上はわずかであったことから、糖尿病の予防を目的に遺伝子多型の情報を用いる臨床的な有用性は限られたものであるかもしれない」と結論付けている。
また、今後の研究課題として、今回は検討できなかった血糖値の変動を考慮した糖尿病罹患予測モデルの開発や、11ヵ所以外の遺伝子多型を追加したモデルによる予測能の検討などを挙げている。
多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループPredictive performance of a genetic risk score using 11 susceptibility alleles for the incidence of Type 2 diabetes in a general Japanese population: a nested case-control study(Diabetic Medicine 2018年2月14日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年06月02日
- 肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
- 2025年05月20日
-
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化 - 2025年05月16日
- 高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
- 2025年05月16日
- 【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
- 2025年05月12日
- メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
- 2025年05月01日
- ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】
- 2025年05月01日
- 【デジタル技術を活用した血圧管理】産業保健・地域保健・健診の保健指導などでの活用を期待 日本高血圧学会
- 2025年04月17日
- 【検討会報告】保健師の未来像を2類型で提示―厚労省、2040年の地域保健を見据え議論
- 2025年04月14日
- 女性の健康のための検査・検診 日本の女性は知識不足 半数超の女性が「学校教育は不十分」と実感 「子宮の日」に調査
- 2025年03月03日
- ウォーキングなどの運動で肥満や高血圧など19種類の慢性疾患のリスクを減少 わずか5分の運動で認知症も予防