ニュース

涙で乳がんを早期発見 簡単で痛みのない検査を可能に エクソソームを超高感度で検出

 神⼾⼤学などの研究グループは、涙液に含まれる「エクソソーム」を超高感度で検出することで、乳がんを早期発見する技術を開始した。涙は簡単に採取することができ、痛みもともなわない。
 涙液を⽤いた乳がんの診断の可能性が世界ではじめて開かれた。この新しい検査法を来年度中に実⽤化することを目指している。
エクソソームを調べる痛みのない検査 乳がんを早期発見
 乳がんの検診は、マンモグラフィなどの画像を読みとることで⾏われているが、乳房を圧迫して撮影するため痛みがともなうことがある。また、⼤型装置を⽤いるため医師の読影が必要で、結果が出るまで時間もかかり、受診した女性に⼤きな負担を強いている。

 そこで最近、患者の体液中の細胞外⼩胞「エクソソーム」をバイオマーカーとしてがんを検出する技術の開発が注⽬されている。

 エクソソームとは、さまざまな細胞から放出される100ナノメートル程度の⼩胞で、放出元となる細胞のタンパク質や核酸などのさまざまな物質を含んでいる。エクソソームを調べることでその細胞の情報が分かる。がん細胞が放出するエクソソームを調べることで、がんの早期発見が可能になると考えられている。

 体へ負担をかけずに採取できる涙液や尿などの体液中のバイオマーカーを測定することで、精度の高い診断できるようにする技術は、「リキッドバイオプシー」と呼ばれている。

 乳がんの検査にリキッドバイオプシーを活⽤することで、受診した女性の負担を軽減しながら、がんの早期発⾒や、がん検診の受診率を向上できるようになると期待されている。

 研究は、神⼾⼤学⼤学院⼯学研究科の⽵内俊⽂教授、同大学医学部附属病院の⾕野裕⼀特命教授、佐々⽊良平教授、システム・インスツルメンツの濱⽥和幸⽒らの研究グループによるもの。研究成果は、化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

関連情報
涙で乳がんが分かる 従来の1,000倍の超⾼感度を実現
 エクソソームは、がんの転移や悪性化に関わっており、がんを診断するための重要なマーカーと考えられ、リキッドバイオプシーへ応⽤するための多くの研究が進行中だ。

 エクソソームを分析するためには、煩雑な前処理が必要で、迅速に分析をするのは難しい。しかし、簡便で⾼感度に体液中のがんエクソソームを検出する新しい⽅法を開発できれば、極めて有⼒ながんの検出法となる。

 研究グループが開発した新しい乳がん検出技術である「TearExo」は、ガラスチップ上に形成した100nm程度の空孔内に、細胞外⼩胞エクソソームの表⾯タンパク質を認識する抗体、およびその結合を蛍光変化で読みだせる蛍光レポーター分⼦を配置したセンサーと、すべての分析作業を⾃動化した分析計により構成される。

 これまでは数時間の前処理が必要だったが、「TearExo」では10分以内で、100µL中に約50個程度のエクソソームが検出できる、従来の測定法の1,000倍という超⾼感度による⾼速測定を実現した。

シルマー試験紙による涙液採取・乳がん患者と健常⼈の涙液中エクソソームの⽐較
出典:神⼾⼤学、2020年
がん治癒経過のモニタリングにも有用
 「TearExo」を使い、乳がん患者と健常⼈の涙液を採取し、エクソソームを測定したところ、涙液で乳がんの検出が可能であることが明らかになった。

 また、乳がん全摘出⼿術の前後でエクソソームの組成は変化し、術後は健常⼈と同様の組成となることも分かった。

 これは、「TearExo」により、がんの検出のみならず、患者の治癒経過のモニタリングや予後のチェックもできることを⽰している。

 研究グループは今後、⼤規模に臨床試料を収集してエクソソーム分析を⾏い、乳がん診断の特異度・感度を⾒極めた後、来年度中に実⽤化し、体外診断⽤医薬品として承認を求める予定だ。

神戸大学大学院工学研究科・工学部
Antibody-conjugated signaling nanocavities fabricated by dynamic molding for detecting cancers using small extracellular vesicle markers from tears(Journal of the American Chemical Society 2020年3月10日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2024年04月25日
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠
2024年04月22日
【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
2024年04月18日
人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月18日
健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月09日
子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
2024年04月08日
【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
2024年03月18日
メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
2024年03月11日
肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
2024年03月05日
【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
2024年02月26日
近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶