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涙で乳がんを早期発見 簡単で痛みのない検査を可能に エクソソームを超高感度で検出
2020年06月02日

神⼾⼤学などの研究グループは、涙液に含まれる「エクソソーム」を超高感度で検出することで、乳がんを早期発見する技術を開始した。涙は簡単に採取することができ、痛みもともなわない。
涙液を⽤いた乳がんの診断の可能性が世界ではじめて開かれた。この新しい検査法を来年度中に実⽤化することを目指している。
涙液を⽤いた乳がんの診断の可能性が世界ではじめて開かれた。この新しい検査法を来年度中に実⽤化することを目指している。
エクソソームを調べる痛みのない検査 乳がんを早期発見
乳がんの検診は、マンモグラフィなどの画像を読みとることで⾏われているが、乳房を圧迫して撮影するため痛みがともなうことがある。また、⼤型装置を⽤いるため医師の読影が必要で、結果が出るまで時間もかかり、受診した女性に⼤きな負担を強いている。
そこで最近、患者の体液中の細胞外⼩胞「エクソソーム」をバイオマーカーとしてがんを検出する技術の開発が注⽬されている。
エクソソームとは、さまざまな細胞から放出される100ナノメートル程度の⼩胞で、放出元となる細胞のタンパク質や核酸などのさまざまな物質を含んでいる。エクソソームを調べることでその細胞の情報が分かる。がん細胞が放出するエクソソームを調べることで、がんの早期発見が可能になると考えられている。
体へ負担をかけずに採取できる涙液や尿などの体液中のバイオマーカーを測定することで、精度の高い診断できるようにする技術は、「リキッドバイオプシー」と呼ばれている。
乳がんの検査にリキッドバイオプシーを活⽤することで、受診した女性の負担を軽減しながら、がんの早期発⾒や、がん検診の受診率を向上できるようになると期待されている。
研究は、神⼾⼤学⼤学院⼯学研究科の⽵内俊⽂教授、同大学医学部附属病院の⾕野裕⼀特命教授、佐々⽊良平教授、システム・インスツルメンツの濱⽥和幸⽒らの研究グループによるもの。研究成果は、化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。
関連情報
涙で乳がんが分かる 従来の1,000倍の超⾼感度を実現
エクソソームは、がんの転移や悪性化に関わっており、がんを診断するための重要なマーカーと考えられ、リキッドバイオプシーへ応⽤するための多くの研究が進行中だ。
エクソソームを分析するためには、煩雑な前処理が必要で、迅速に分析をするのは難しい。しかし、簡便で⾼感度に体液中のがんエクソソームを検出する新しい⽅法を開発できれば、極めて有⼒ながんの検出法となる。
研究グループが開発した新しい乳がん検出技術である「TearExo」は、ガラスチップ上に形成した100nm程度の空孔内に、細胞外⼩胞エクソソームの表⾯タンパク質を認識する抗体、およびその結合を蛍光変化で読みだせる蛍光レポーター分⼦を配置したセンサーと、すべての分析作業を⾃動化した分析計により構成される。
これまでは数時間の前処理が必要だったが、「TearExo」では10分以内で、100µL中に約50個程度のエクソソームが検出できる、従来の測定法の1,000倍という超⾼感度による⾼速測定を実現した。
シルマー試験紙による涙液採取・乳がん患者と健常⼈の涙液中エクソソームの⽐較

出典:神⼾⼤学、2020年
がん治癒経過のモニタリングにも有用
「TearExo」を使い、乳がん患者と健常⼈の涙液を採取し、エクソソームを測定したところ、涙液で乳がんの検出が可能であることが明らかになった。
また、乳がん全摘出⼿術の前後でエクソソームの組成は変化し、術後は健常⼈と同様の組成となることも分かった。
これは、「TearExo」により、がんの検出のみならず、患者の治癒経過のモニタリングや予後のチェックもできることを⽰している。
研究グループは今後、⼤規模に臨床試料を収集してエクソソーム分析を⾏い、乳がん診断の特異度・感度を⾒極めた後、来年度中に実⽤化し、体外診断⽤医薬品として承認を求める予定だ。
神戸大学大学院工学研究科・工学部Antibody-conjugated signaling nanocavities fabricated by dynamic molding for detecting cancers using small extracellular vesicle markers from tears(Journal of the American Chemical Society 2020年3月10日)
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