ニュース

特定健診に「尿ナトリウム・カリウム比」を導入 その場で検査して指導 地域の高血圧対策に効果?

 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は、「尿ナトリウム・カリウム比」の値が低下すると、体格や飲酒量の変化から独立して、収縮期血圧が低下することを明らかにした。
 これは、宮城県登米市の特定健康診査の参加者を対象に2017年度から2年間、約1.3万人を対象に調査したもの。
塩分と野菜の摂取バランスを示す「尿ナトリウム・カリウム比」
 食塩の摂りすぎは高血圧の原因になるが、野菜や果物などに含まれるカリウムを多く摂取することで、血圧が低下するという研究報告がある。そこで考案されたのが、塩分(ナトリウム)と野菜(カリウム)摂取のバランスをあらわす指標である「尿ナトリウム・カリウム比」。

 この値が低いほど塩分摂取量が少なく、野菜などに多く含まれているカリウムを多く摂っていることが示される。逆に値が高いと、食事中の塩分が多い、あるいはカリウム(野菜など)が不足していることが分かる。

 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は、この「尿ナトリウム・カリウム比」(ナトカリ比)を用いた研究を行った。これは、同機構、東北大学産学連携機構イノベーション戦略推進センター革新的イノベーション研究プロジェクト(COI東北拠点)と、宮城県登米市との共同研究によるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載された。
塩分を摂り過ぎないよう指導するのは難しい
 日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧予防のために、減塩(ナトリウム)と、野菜や果物(カリウム)の摂取増加を勧奨している。ナトカリ比が高いほど食事中の食塩摂取量が多い、あるいはカリウムが不足している可能性がある。

 保健指導で食事について「しょっぱいものを食べ過ぎると、塩分の摂り過ぎにつながるので気をつけて」「ラーメンの汁を全部飲むと、塩分の摂り過ぎになる」などと指導することは多い。しかし実際には、塩分を気にして毎度の食事を摂るのはなかなか難しい。

 また、塩分摂取状況の評価は24時間蓄尿が一般的であるが、短時間で測定値を得るのは難しい。そこで、オムロンヘルスケアが開発したのが、尿1~2滴で尿ナトリウム・カリウム比が簡単に分かる「尿ナトカリ計」だ。

 この尿ナトカリ計で任意の時間に採取した随時尿の複数回測定と、24時間畜尿の測定結果に相関があることが明らかになっている。
尿ナトカリ比が低下すると収縮期血圧値が低下
特定健診受診者に提供された
尿ナトカリ比測定値に関する結果票
出典:東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、2020年
 研究グループは、宮城県登米市の2017・2018年度の特定健診の参加者約1万3,000人について、尿中のナトカリ比を収縮期血圧のデータとともに解析した。特定健診会場で尿ナトカリ比を測定し、その場で健診受診者に、測定結果と尿ナトカリ比に関する情報を提供した。

 尿ナトカリ比の低下が収縮期血圧の低下と関連するか、また初年度と比べ2年目の特定健診時に測定した尿ナトカリ比や収縮期血圧がどのように変化したかを検討した。

 その結果、尿ナトカリ比の低下は、体格や飲酒量の変化と独立して、収縮期血圧の変化と有意な関連を示したことが分かった。また、高血圧に影響を与える要因とされる体格や飲酒量が2年間で変化しなかったにもかかわらず、初年度と比べて2年目で尿ナトカリ比や収縮期血圧値が有意に低下したことが明らかとなった。
その場で測定結果を見せれば、行動変容を引き出しやすくなる
 具体的には、尿ナトカリ比および収縮期血圧の平均値は、2017年度が5.4±3.0、132.1±17.9mmHg、2018年度が4.9±2.2、130.9±17.4mmHgだった。さらに、他の生活習慣の要因を考慮しても、尿ナトカリ比高値はなお、高血圧有病率と関連していたことも分かった。

 今回の研究では、住民の尿ナトカリ比測定後の、塩分摂取量などの食行動についての詳細な情報は得られなかったので、尿ナトカリ比や血圧が低下した原因を特定することはできない。

 しかし、地域全体で尿ナトカリ比や血圧が低下したことから、特定健診の会場で尿ナトカリ比を測定し、その場で測定結果を知らせたことが、住民の減塩や野菜摂取量の増加などの行動変容を促した可能性がある。

 「尿ナトカリ比には明確な基準値はありませんが、他の研究でも尿ナトカリ比値が高いほど高血圧有病率が高まることや、循環器疾患や脳卒中の危険度が高まるという結果が発表されています。今後はさらなる研究が進み、食習慣の見直しのための基準が明確になれば、手軽に減塩に取り組むことができるでしょう」と、同機構では話している。

 同機構とCOI東北拠点では、「ナトカリ計」を用いた測定を、地域の保健事業に活用する方策を検討している。

オムロンヘルスケアの尿ナトカリ計「HEU-001F」
出典:東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、2020年

東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)
東北大学 産学連携機構イノベーション戦略推進センター
宮城県登米市
Sodium/potassium ratio change was associated with blood pressure change: possibility of population approach for sodium/potassium ratio reduction in health checkup(Hypertension Research 2020年8月17日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2023年08月09日
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より
2023年08月08日
若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
2023年07月28日
2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
2023年07月24日
標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
2023年07月11日
自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
2023年06月20日
肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
2023年06月12日
自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
2023年06月05日
要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
2023年05月19日
令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
2023年05月18日
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶