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唾液検査で「大腸がん」を高精度・大規模に診断することが可能に 唾液中のがんマーカーを1分で測定する技術を開発
2021年07月12日
慶應義塾大学は、唾液中のがんマーカーをわずか1分で測定する技術を開発したと発表した。大腸がん患者を、唾液検査で高精度かつ大規模に診断できるようになる可能性がある。
「ポリアミン類」は、大腸がんや膵臓がんなどの、がん患者の唾液や尿で急激に増加することが知られており、がんマーカーとして利用し、がんの早期診断につなげることが期待されている。
しかし、これまでの方法では1検体の測定に10分以上が必要で、測定コストがかかるといった問題があった。
このほどキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いた多検体同時測定技術を開発し、唾液中のがんマーカーであるポリアミン類を1分で測定することを実現した。
「ポリアミン類」は、大腸がんや膵臓がんなどの、がん患者の唾液や尿で急激に増加することが知られており、がんマーカーとして利用し、がんの早期診断につなげることが期待されている。
しかし、これまでの方法では1検体の測定に10分以上が必要で、測定コストがかかるといった問題があった。
このほどキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いた多検体同時測定技術を開発し、唾液中のがんマーカーであるポリアミン類を1分で測定することを実現した。
唾液中のがんマーカーをわずか1分で測定する技術を開発
慶應義塾大学先端生命科学研究所は、唾液中のがんマーカーをわずか1分で測定する技術を開発したと発表した。大腸がん患者を、唾液検査で高精度かつ大規模に診断できるようになる可能性がある。
大腸がんや膵臓がんなどの、がん患者の唾液や尿で急激に増加する生合成物質「ポリアミン類」をがんマーカーとして利用し、がんの早期診断に役立てるというもの。
キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いた多検体同時測定技術により、1度に40検体の唾液を40分(1検体につきわずか1分)で測定できるという。
この技術を使い唾液を調べたところ、大腸がん患者と非がん患者を高い精度で区別することができることを確かめた。
これまで困難だった低分子マーカーの迅速かつ高精度な測定を実現したことで、がん臨床がさらに発展する可能性がある。
研究は、慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授、五十嵐香織技術員らの研究グループによるもの。研究成果は、分析化学誌「Journal of Chromatography A」にオンライン掲載された。
唾液でがんを早期発見するサービスを開始
大腸がんなどのがん患者の尿から高濃度のポリアミン類が検出されることは、50年前から知られていた。慶大先端生命研とUCLAのグループは2010年に、膵臓がん、乳がん、口腔がん患者の唾液中でも、ポリアミン類の濃度が上昇することを発見。
これを受けて、東京医科大学の杉本昌弘教授らは、唾液でがんを早期発見するビジネスを主軸としたベンチャー企業「サリバテック」を創業した。
しかし、ポリアミン類などの低分子化合物は、抗体の作成が困難であり、一般に迅速診断法として使われているELISA法を使えない。ELISA法は、試料に含まれる目的となる抗原を抗体で捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出する方法で、数時間で多くの検体の検出が可能だ。
そこで、低分子マーカーの測定には、液体クロマトグラフィー-質量分析計(LC-MS)法やキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)法といった、試料を分離する方法が用いられていたが、1検体の測定に10分以上を必要とするため、測定コストがかかるといった問題があった。
ポリアミンなどの低分子化合物を迅速測定
この問題を解決するため、研究グループは、ポリアミンをはじめとする低分子化合物の迅速測定技術の開発に取り組んだ。
今回の研究で開発した多検体同時測定CE-MS法は、抗体が作成できない低分子化合物の迅速分析を可能にし、これまで困難であった低分子バイオマーカーの臨床応用への道を切り開くものだ。
研究グループは、CE-MSで分離に用いるキャピラリーに、1度に唾液40検体を順次注入後、1度に電圧をかけて、40検体を同時に測定する技術を開発すのに成功した。
開発にあたっては、(1)いくつもの化合物が同時に質量分析計(MS)に導入されるため、各化合物のイオン化が抑制されてしまう、(2)ポリアミン以外の化合物がポリアミンと同じ質量で検出される、といった問題があった。
そこで、(1)ポリアミンの同位体を唾液検体に添加し、これを用いてイオン化抑制を補正し、(2)質量分析計(MS)の設定を工夫したことで、ポリアミンのみを検出できるようにした。
多検体同時分析 CE-MS 法によるポリアミン測定の原理
出典:慶應義塾大学先端生命科学研究所、2021年
大腸がんの高精度・迅速な診断を可能に
研究グループは、開発した技術を大腸がんの診断に応用できるかを確かめるため、実験を行った。東京医科大学で採取された健常者20例、大腸がん患者20例、計40検体の唾液中ポリアミン測定を実施した。
その結果、どのポリアミンも健常者に比べて大腸がん患者で高値を示し、40検体を40分(サンプル注入20分、測定20分)で分析することが可能であることが確かめられた。
開発した技術は、唾液中のポリアミン類を1検体1分で測定できる迅速分析技術であり、大腸がんの診断精度も極めて高い。
現在、サリバテックでは唾液中のポリアミン測定により、大腸がんや膵臓がんなどのがんのリスクを同時に判定するビジネスを行っている。この技術を使えば、短時間に大規模の唾液測定が可能となり、大幅なコスト削減を期待できる。
「今回開発した多検体同時測定CE-MS法により、低分子マーカーを臨床応用する際の障壁であった測定時間、コストを大幅に削減できます。この手法で唾液のポリアミンを測定し、大腸がんの診断を大規模・迅速にできることを確かめました」と、研究グループでは述べている。
今後は、ポリアミン以外の低分子マーカーの臨床応用の実現も視野に入れているという。
多検体同時分析 CE-MS 法による健常者、大腸ポリープ、大腸がん患者の唾液中のN1-アセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミンの測定結果
健常者や大腸良性ポリープ患者に比べ、大腸がん患者で3種類のポリアミンとも濃度が有意に高くなっていることが判明した。また、N1-アセチルスペルミンを用いると、大腸がん患者を83.4%の精度で非がん患者と区別することができた。この精度は、既存の大腸がんの血液マーカーであるCEA、CA19-9、NSEなど(精度 56~77%)より高い精度で大腸がんを診断できることを示している。
出典:慶應義塾大学先端生命科学研究所、2021年
慶應義塾大学先端生命科学研究所サリバテック
High-throughput screening of salivary polyamine markers for discrimination of colorectal cancer by multisegment injection capillary electrophoresis tandem mass spectrometry(Journal of Chromatography A 2021年7月5日)
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