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冬の入浴時の突然死が起こりやすい環境や温度が判明 入浴死を防ぐために警戒情報を発令 鹿児島大学

 鹿児島大学は、県内各地域の浴室内の突然死が発生しやすい環境温度[最高気温、最低気温、平均気温、日内気温差]を特定したと発表した。

 入浴死の発生は、「最高気温」「最低気温」「平均気温」が低ければ低いほど多くなり、また「日内気温差」が大きければ大きいほど多くなることを明らかにした。

 研究は、県警察本部刑事部捜査第一課の協力をえて行われたもので、その成果にもとづき、浴室内の突然死を予防するための入浴時の警戒情報を発令することになった。

 これは全国初の試みで、鹿児島県で効果がえられれば、全国各地にも展開できる可能性があるとしている。

高齢者に多い入浴死はどんな環境や気温で発生しやすいかを調査

 浴室内の突然死、いわゆる入浴死とは、入浴中やその前後に起こる予期せぬ突然死のこと。

 日本は、入浴死の発生が諸外国に比べて圧倒的に多く、とくに65歳以上の高齢者の発生率が高い。日本の独特の入浴様式が影響しているとみられている。

 入浴死の原因は、脱衣所・浴室・浴槽内の各温度差や、それにともなう血圧変動(いわゆるヒートショック)などで、浴槽内で不整脈・心発作・脳虚血が起こることで、そのまま死亡したり、意識を消失し、溺死すると考えられている。

 浴室内の突然死は、高齢化にともない今後さらに増えると予想され、深刻な社会問題となっている。

 そこで鹿児島大学の研究グループは、入浴死が発生しやすい日を特定できるようにすることを目指し、入浴死の発生と環境気温に着目して調査した。

 県警察本部刑事部捜査第一課の協力のもと、県内で過去14年間に発生した浴室内の突然死の検視の全例を解析した。これまで、法医解剖まで実施される例は少なく、正確な病態は解明されていなかった。

入浴死に最高気温・最低気温・平均気温・日内気温差が影響

 その結果、浴室内の突然死は、県内で年間に約190例発生し、交通事故死の約2.5倍と多いことが分かった。

 年齢別にみると、90%が65歳以上の高齢者で、自宅の浴槽内での発生がほとんどだった。発生時刻は16~20時と、通常の入浴時間が半数を占めていた。

 入浴前に飲酒していた例は4.3%と少なく、高齢者の日常生活のなかで突然起こっていることが分かった。さらに、冬季に多く、12~2月に約半数が集中していた。

 研究グループは、入浴死が発生した日の各環境気温(最高気温、最低気温、平均気温、日内気温差)との関係を解析。

 その結果、入浴死の発生は、「最高気温」「最低気温」「平均気温」が低ければ低いほど多くなり、また「日内気温差」が大きければ大きいほど多くなることを明らかにした。

入浴死発生頻度と各環境気温との相関関係
入浴死の発生は、「最高気温」「最低気温」「平均気温」が低ければ低いほど多くなり、また「日内気温差」が大きければ大きいほど多くなる

出典:鹿児島大学、2023年

入浴時の警戒情報を発令するシステムを開発

出典:鹿児島大学、2023年
 実際に入浴死の発生率が高くなる環境気温を算出するための統計学的解析も行った。

 鹿児島県は南北に長く(約600km)、同じ日でも地域によって環境気温に違いがあるため、警察署が管轄する地域19ヵ所に分けて、各地域での入浴死の発生率が有意に高くなる冬季の環境気温を特定した。

 その結果、入浴死の発生しやすい温度(危険な温度)は、最高気温が9.0~19.0(中央値13.5)℃、最低気温が0.0~13.0(中央値3.0)℃、平均気温が4.5~15.5(中央値9.0)℃、日内気温差が5.5~10.5(中央値8.8)℃であることが明らかになった。

 研究グループは、これらの結果にもとづき、入浴死が発生しやすい日に入浴を控えるように、入浴時の警戒情報を発令するシステムの開発を進めている。

 具体的には、各地域の翌日の予想最高気温、予想最低気温、予想日内気温差の情報を入手し、(1) 最高気温が危険な温度を下回る、(2) 最低気温が危険な温度を下回る、(3) 日内気温差が危険な温度を上回る――の3つの指標を定めた。

 このうち3つとも満たす場合を「警戒」、2つを満たす場合を「注意」、1つ以下の場合を「油断禁物」というように地図上に表示するもの。

全国的に入浴死を減らすことを目指す

 これまでマスメディアでは、入浴死の予防対策として、次のことが言われてきた。
(1) 部屋、脱衣所、浴室の部屋間の温度をなくす
(2) 浴槽内の湯温は41℃以下に設定
(3) 食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴を避ける
(4) 同居者がいる場合には入浴前に一声かける

 今回の研究のように、毎日の環境気温によって入浴自体を控えるようにアラートを発令するものは全国初の試みとしている。

 今後、入浴時警戒情報の発令によって、入浴死の発生件数が減少するか否かを検討し、入浴時警戒情報の効果を検証する。

 研究は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科法医学分野の林敬人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

 「県内で良い結果がえられた場合には、他県でも同様の解析を行うことで、各県各地域でも独自の入浴時警戒情報を発令することが可能になり、全国的に入浴死を減らすことができると思っています。鹿児島県から全国に広めていくことができれば幸いです」と、研究者は述べている。

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科法医学分野
Development of prevention strategies against bath-related deaths based on epidemiological surveys of inquest records in Kagoshima Prefecture (Scientific Reports 2023年2月8日)
[Terahata]
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