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小規模事業場と地域を支える保健師の役割―地域と職域のはざまをつなぐ支援活動の最前線―
【日本看護協会「産業保健に関わる保健師等の活動実態調査」】〈後編〉

小規模事業場支援の現場から見る関係構築のポイント

 続いて「小規模事業場の健康を支援する保健師等の活動実態の把握」に関する調査をみていく。この調査は、従業員50人未満の事業場への支援活動に焦点を当てたものである。
 小規模事業場では、大企業と比較して労災発生率が高く、精神疾患や過労死のリスクも高い。しかし、産業医の選任義務がないため、産業保健サービスが十分に提供されていない現状がある。

 この調査は、自治体保健師・産保センター・保険者間の協働事例を中心に、10地域の半構造化インタビューにより実施された。
 鍵となったのは「顔が見える関係づくり」で、電話一本で相談できる信頼関係、異動後も引き継がれる顔つなぎの文化が支援の継続性を支えていることが明らかになった。
 また、連絡会や作業部会といった場が、単なる情報交換を超えて実効性のある連携の場として機能しており、保健師が調整役として橋渡しを行っている実例も多数報告された。

「小規模事業場での健康支援に関わる地域・職域双方の連携を基盤とした保健師の活動の実際(P.175~176)」より

 小規模事業場での健康支援10事例を質的記述的に分析し、4カテゴリが抽出された。

地域主導による連携体制の構築と発展
 自治体主導の協議会や連絡会を基盤に、保健師が参画して地域と職域をつなぐ仕組みを形成。作業部会や健康経営認証制度との連動、自治体保健計画や関係機関との協定を通じ、地域特性に即した体制を構築。

連携の実働レベルでの展開
 合同訪問や共同企画研修、健康データ分析・課題共有など、保健師が現場で協働する事例が多い。一方で、会議での情報共有にとどまり実働化しないケースも存在。

健康課題やニーズに応じた支援の柔軟性
 出前講座、健診データ活用、ナッジ理論による禁煙支援など、事業場の実情に合わせた多様な支援を実施。商工会等との連携により受け入れやすい導線を整え、支援の継続性を確保。

顔の見える関係性と信頼の蓄積
 頻繁な顔合わせや異動時の顔つなぎにより信頼関係を維持。協議会や作業部会が信頼構築の場として機能し、「困った時に相談」「一緒に実践」が自然に生まれる土壌を形成。

※保健指導リソースガイド編集部にて要約

保健師の連携コーディネーターとしての役割と課題

 保健師は、地域と職域をつなぐ連携コーディネーターとして、ニーズに応じた支援プログラムの企画・実行に携わっていることも、インタビューから明らかとなった。
 一方で、その関係構築が個人の力量に依存しがちであるという課題もある。人事異動によって支援が途切れることや、引き継ぎの仕組みが不十分であることも指摘されている。

「地域・職域保健分野における保健師の役割発揮の現状と課題 (P.176)」より

 インタビュー結果を分析した結果、3カテゴリが抽出された。

地域と職域をつなぐコーディネーター
 保健師は地域・職域連携会議や作業部会で中核となり、健康課題の共有・調整・評価を推進。資源や制度を越えて協働体制を構築し、信頼関係に基づく実効的連携を実現する一方、個人依存や異動による継続性確保が課題。

それぞれの特徴を活かした支援の展開
 自治体・地さんぽ・産保センター・保険者の既存サービスを組み合わせ、小規模事業場に応じた健康支援を提供。人的リソースや機能特性に応じた役割分担とネットワーク活用で限られた資源を有効活用。

支援継続のための体制整備と人材
 制度化や役割分担により属人性を減らし、異動後も継続可能な体制を模索。人的・時間的制約から支援範囲や方法に限界もあり、情報共有や記録の工夫による活動継承の仕組みづくりが求められる。

※保健指導リソースガイド編集部にて要約

 『地域・職域連携推進ガイドライン(2019)』では、協議会・作業部会の制度化、役割分担・記録の標準化が、継続的な連携の鍵とされており、今回の調査報告でも支援を仕組みとして担保する重要性が再認識された。

小規模事業場支援の持続可能性に向けた制度整備と人材育成

 全国の事業場の約85%を占める小規模事業場では、労働安全衛生法の適用が限定的であり、健康管理や有害要因への対応が不十分である。この報告書は、こうした場への支援の重要性を強調している。

 特に、地域産業保健センター(地さんぽ)や地域の保健所、医師会との連携により、保健師がどのように支援を提供しているかが具体的に示されている。
 たとえば、保健所と地さんぽの保健師が合同チームを組み巡回訪問を行うことで、小規模事業場の従業員が抱える健康課題を早期に発見し、専門機関へつなげた事例などが紹介されており、地域と職域の連携における保健師の「橋渡し役」としての機能が改めて評価されていた。

 ただし、報告書では、現状では限定的な取り組みにとどまっており、「国・自治体レベルでの施策として、制度的な連携の明確化」「好事例や成果を共有する仕組みの整備や実践知の蓄積」「地さんぽの人材拡充」などが求められると指摘している。

*  *  *

 産業保健に関わる保健師等の活動は、制度の隙間を縫うようにして、日々変化する健康課題に柔軟に対応している。
 今回の調査では、その実態とともに、保健師の専門性が現場でどれほど重要な役割を担っているかが明らかになった。

 一方で、課題として浮上したのは、活動基盤の不安定さや保健師の配置・育成の不足である。制度的な支援の強化と、保健師の役割に対する認識の向上が、これからの「働き盛り世代」の健康を支えるカギとなるだろう。

参考資料

保健師関連事業|日本看護協会
ニュースリリース「3人に1人が非正規雇用 産業保健師等の活動体制の整備が必要」|日本看護協会
ニュースリリース|日本看護協会
地域・職域連携推進ガイドライン|厚生労働省「地域・職域連携のポータルサイト」

[保健指導リソースガイド編集部]
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