No.2 よろず相談から見えてきた課題
しょうとく*まちかどステーションでは、木曜日と日曜日を除く毎日10時から18時30分まで、暮らしの保健室活動において「よろず相談」を受け付けています。本稿では、よろず相談から見えてきた課題を、事例を交えながらご説明します。
対象者と相談内容の内訳
相談者は女性の方が多く、男性が約3割です。誰のことを相談に来るかについては本人のことが67%で家族のことが26%でした。近隣の知人等に関する相談もあり、独居や高齢世帯であること、認知症が懸念される場合に心配になり「どのようにしてあげたらいいのでしょうか」とその対応方法を尋ねて来られます。
相談内容は「健康や病気に関すること」が約半数で看護師、保健師が常駐する保健室と認知されていることがわかります。家族の介護の事や漠然とした将来の不安などが次に続きます。中には相談というよりも、一人暮らしで話し相手がいないため、会話目的で来られる方もおられます。一人暮らしの方は日々の生活上の困りごとに関しても相談に来られています。
病気や治療に関する相談は必要に応じて週1回の医師の医療相談につなげ、医師が相談を受けています。子育てや子どもの発達に関する相談で個別な対応が必要な場合に、管理栄養士や言語療法士などの専門職につないだ事例もあります。
事例
Aさんは80歳の女性で、まちかどステーションが開設して間もなく立ち寄ってくれた方でした。すぐに一人暮らしであることをカミングアウトされました。「今から図書館に新聞を読みに行ってくる・・・」と言って近くの図書館に行く前後にはいつも立ち寄ってくれました。
最初は短時間で「また来るわ・・」言って帰って行かれましたが、故郷の話や、自身の疾患の既往のこと、物忘れが心配なことなどを顔なじみのスタッフに少しずつ打ち明けてくれました。
スタッフとの会話が増えてくると、生活の困りごとを話してくれるようになりました。「届いた手紙の意味が分からない」と公的機関からの通知を持ってこられ、内容を分かりやすく説明したり、宅配の不在通知の見方を説明し一緒に電話をかけたりしました。
ある日、冷蔵庫の調子が悪いからとご自身で近隣の電気屋さんに相談され、訪問してもらわれました。結果、冷蔵庫の不調は食べ物の詰め過ぎのためで、電気屋さんが一緒に整理してくれたと喜んで報告してくれました。
しかし、このとき電気屋さんに支払った金額については、最初に話されたときは4千円、別の時には4万円、最後には40万円と徐々に話が膨らみ、認知症の進行が疑われました。この頃に、介護保険の利用を進めましたが、家に誰かが入ることに抵抗があり、「まだいいわ。」との拒否的な返答でした。
それから4か月後、「テレビがつかない」と話された際にスタッフが自宅に行ってテレビを確認することを提案しました。これまでは頑なに自宅への訪問を拒否されていましたが、快く受け入れてくれました。
自宅は衣類や食品、新聞が床に積まれており、食卓は空いているスペースがわずかしかない状態で、身の周りのことが十分にできていないことがわかりました。テレビはリモコンの電池が切れていただけだったので、一緒に電池を買って交換しました。一緒に買い物に行く際に再度介護保険でのお手伝いを勧めると「そうやなぁ」と以前よりも前向きな反応がありました。
その2週間後、「ごはんの炊き方がわからんようになった・・・」と言って保健室に来られたためスタッフが再度自宅に訪問しました。炊飯器には古いご飯が入ったままで、床は足の踏み場がなく食材や衣類、新聞紙等が混在して散乱していました。
部屋の状態が2週間前よりもひどくなっており急激に身の周りのことができなくなっていることがわかりました。定期的な支援の導入が急務であることは明らかだったため、ご本人と相談し、地域包括支援センターへ連絡、介護保険の導入につながりました。早々に訪問介護の利用が決まり、ご本人にも安心した表情がうかがえました。
ところが、導入して間もなく自宅で転倒され、緊急入院となりました。病院から遠方の親族に連絡をされ、最終的にその親族の近隣の施設に入所することが決まりました。
地域包括ケアシステムでは「住み慣れたところで最期まで」と言っていますが、一人暮らしで認知症になったAさんには叶わなかったという事です。
Aさんの事例は保健室が日々の相談により信頼関係を築き、認知症の発見、公的支援導入へつなげることができた事例ですが、もう少し早い段階で介護保険につなげ、本人の最期の場所としての意向が確認できていれば、違う結果になっていたのではないかと考えさせられました。
どんな人が相談に?
先のよろず相談の結果、相談者の特徴について考えてみました。図2のような分類で、それぞれに強みや弱みがあることが推察され、必要な支援や関わりの方向性が示唆されました。
まずは一人暮らしの高齢者です。一人だからという危機管理意識があり、他者へ助けを求めることが出来ていました。しかし、急変時の不測の事態への対応が難しく、常に寂しさを抱えています。保健室へ頻繁に来ていただけるような機会を設け、近隣とのつながりも促進してく必要があります。
不安の強い人は、情報収集に長け、色々な相談窓口を利用しています。しかし、加齢に伴う様々な変化をすべて体調不良ととらえ、医療に依存する傾向が見られます。正しい情報、ACPなど自己決定への支援が必要と考えます。
老々世帯の方は長年の生活スタイルが継続されており、一人ではないという安心感があります。不十分でも、二人だから何とかなっているという思い込みがあり、子ども世帯の支援が希薄になりがちです。
認知症が懸念される人は、支援の対象となりますが、自分の考えを伝えにくいため、判断の誤りが起こらないように継続的な見守り、早期受診への働き掛けが重要となります。
相談者の中には健康意識が高い人がおり、ヘルスリテラシーも高いことがわかります。この方々は健康寿命の延長が期待できます。自己に対する過信や加齢に伴う変化を受け入れにくい面が懸念されますが、地域活動などボランティアとしての活躍が期待できると考えます。
次回は医療相談の意義と内容について報告します。
「住み慣れた地域で最期まで暮らすことを目指した「暮らしの保健室」~医療・看護・介護を通じた住みよいまちづくりの試み~」もくじ
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